日本語における語頭閉鎖音の音韻カテゴリーは,一次的にはVOTの違いで区別される。しかし,先行研究では有声閉鎖音と無声閉鎖音のVOTが重複するほど近いため,VOTのみではカテゴリー区別が困難であることが指摘されている。これまでVOT以外の音響特徴として後続母音のfoやL1−L2などが取り上げられ検討されてきたが,先行研究の間に一致した見解は得られていない。本稿では,VOT以外の音響特徴として後続母音のfoに焦点を当て,4地域の計82名の話者を対象に検討を行った。主な結果は次のとおりである。VOTと後続母音のfoのどちらも単独ではカテゴリー間に重複が見られるが,VOTとfoを軸にする二次元グラフで見ると,2つのカテゴリーはほとんど重複することなくそれぞれの領域に分けられる。ただし,カテゴリー区別のためのVOTとfoの使われ方は地域により異なる。本稿の結果は,後続母音のfoが語頭閉鎖音のカテゴリー区別にかかわる音響特徴であることを示す証拠になるだろう。