2021 年 25 巻 p. 23-40
喜界島小野津方言の呼称名詞(親族呼称や呼びかけに使われる人名)は,母音の長さの交替と音調型の点で特殊な振る舞いを示す。本稿は,呼称名詞の音韻的特徴について記述した上で,呼びかけの下降イントネーションが呼称名詞の語彙的な特徴に通時的変化を及ぼしたことを主張する。本稿において提案する仮説は,呼称名詞にアクセント型の推移と長母音化の二つの連続的な変化が起こったというものである。このうち二番目に起きた変化が,最も音韻的独立性の低い助詞によって部分的に阻止されたため,呼称名詞の特殊性が生じたと考えられる。