動詞に接尾辞「-方」がついた形式でのアクセント変異の実態を『日本語話し言葉コーパス』の分析を通じて明らかにした。この形式に生じるアクセント変異には起伏化に向かうものと平板化に向かうものとがあるが,後者の方が生起率が高い。加えて,東京都出身者における平板化変異の生起率が約2割に留まるのに対して,京阪神出身者では5割以上にも及ぶ。この結果は,標準語を志向した発話においても母方言からの干渉が働いていることを示唆する。「-方」は標準語では式保存型形態素として働くが,近畿方言では平板化形態素として働く。東京話者との間で平板化率をめぐる顕著な格差が観察されたのは,こうした母方言のアクセント特性が干渉したことによるものと結論できる。