2023 年 27 巻 2 号 p. 35-47
本研究では,ベンガル語を母語とする日本語学習者(以下,「学習者」)の産出する日本語無声歯擦音の特徴を明らかにすることを目的とし,学習者と日本語母語話者の日本語無声歯擦音(サ行音・シャ行音)の比較を行った。分析にはスペクトルモーメント分析を用い,特にM1(加重平均)とM2(標準偏差)という指標に着目した。その結果,日本語母語話者において,M1が調音位置による違いを発音しわける際に主要なキューとなっていることが明らかとなった。一方,学習者は日本語の無声歯擦音を調音位置ではっきりと区別できておらず,無声歯茎摩擦音の調音が後ろ寄りになる場合や,非歯擦音への接近があることが示唆された。また,学習者の無声歯茎硬口蓋摩擦音においては,そり舌化することがあるという可能性が示唆された。この結果および先行研究をふまえ,歯擦音の出現する音環境に配慮した音声教育を行うことを提案する。