2025 年 29 巻 1 号 p. 41-57
子音連続の構音運動協調の様相を,「呑」等とよばれる能楽における漢語t入声の伝承発音にみられる鼻的破裂(例:「末代」[matn̩dai])の観察により検討した。能楽師二名による9種類の謡フレーズのreal-time MRI画像の分析の結果,口腔の構音(舌端の閉鎖)の目標到達は鼻腔の構音(口蓋帆の開放)の開始に時間的におおきく先行することがわかった。また音響特徴の時間展開の分析により,先行する非鼻音区間と後続する鼻音区間の持続時間にたかい正の相関がみとめられた。この特徴は,先行研究が見いだした音節初頭(両者がほぼ同時)および音節末(口蓋帆開放が先行)位置の鼻音の構音タイミングのいずれとも明瞭に異なり,音節末子音と成節子音という性格をあわせもつ,鼻的破裂の特殊な音韻論的位置づけをうらづける。