本研究は,リアルタイムMRIを用いて,韓国語における語頭流音の調音を検討したものである。収録には,標準韓国語を母語とする女性2名が参加し,1音節からなる15個のテスト語を各2回生成した。MRIによって生成された動画から,調音位置,調音方法,すなわち舌先の運動方向,舌先が硬口蓋に接触する時間,前舌面と硬口蓋との距離,舌根と咽頭との距離を調査した。分析の結果,韓国語の語頭の流音の調音については話者間で大きな違いが見られたものの,流音の閉鎖が瞬時的なものではない点では一貫していた。したがって,韓国語の語頭の流音IPAは[ɾ]や[ɽ]ではなく,話者1では[l](有声歯茎側面接近音),話者2では[ɭ](有声後部歯茎そり舌側面接近音)に該当すると考えられる。韓国語の流音は単一音素であり,英語のような“L”と“R”の対立はない。したがって,韓国語の流音は大きな調音空間と音響空間を占め,その結果として音声のバリエーションが豊富なのではないかと考えられる。一方,口蓋化母音前での舌体の挙上運動については両話者で一貫して観察された。しかし,舌根の前方化については明確な傾向は見られなかった。今後,韓国語の流音の検討にあたっては,音環境,年齢差,地域,性別,場面,発話速度などの要因を考慮する必要がある。