2020 年 63 巻 2 号 p. 71-78
急速な経過から眼窩骨膜下膿瘍を発症し, 視力喪失に至った1例を経験したので報告する。 症例は30歳女性。 右眼瞼腫脹, 疼痛を主訴に近医眼科を受診した。 眼窩蜂窩織炎が疑われ, 前医眼科紹介受診となった。 右眼窩蜂窩織炎の診断で抗菌薬の投与を行うも症状は改善せず, 視力低下に加え CT にて右眼窩骨膜下膿瘍を認めたため当院耳鼻咽喉科を紹介受診となった。 右視力は光覚弁以下, 著明な眼球突出と角膜混濁を認めた。 CT, MRI より鼻性眼窩内合併症の診断で全身麻酔下に緊急で内視鏡下鼻内副鼻腔手術および外切開での眼窩骨膜下膿瘍排膿術を施行した。 術後に抗菌薬投与, ステロイドパルス療法を行い眼瞼腫脹, 疼痛は改善したものの, 視力障害は改善しなかったため, 追加で視神経管開放術および2回目のステロイドパルス療法を行った。 しかし, 最終的に視力の改善は得られなかった。 慢性副鼻腔炎の急性増悪は周辺臓器への炎症波及によりさまざまな症状を呈する。 本症例のように視神経の障害は短期間に不可逆性変化をきたす可能性があり, QOL を著しく障害する。 視力障害残存については初診時の視力・視野・視神経乳頭所見および手術までの日数が予後因子とされており, 視野障害が出現する前に適切かつ迅速な診断・治療を行うことが視機能改善に重要である。 視力が改善しなかった本症例について, 文献的考察を加えて報告する。