耳鼻咽喉科展望
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綜説
耳科手術に役立つヒト側頭骨組織解剖の知識
萩森 伸一
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2021 年 64 巻 5 号 p. 268-277

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抄録

 ヒト側頭骨組織標本で組織解剖を学ぶことは耳科学の基本である。 肉眼解剖に加え, 組織解剖の知識を得ることで, 安全かつ成績のよい耳科手術が初めて可能となる。 側頭骨組織標本の作製には, 多大な時間と労力, 費用が必要であり, 国内に現存する標本は極めて貴重である。

 側頭骨組織標本には水平断と垂直断がある。 水平断はツチ・キヌタ関節や顔面神経迷路部から乳突部までの全長にわたって, また蝸牛や前半規管, 後半規管, 前庭の球形嚢班, 蝸牛窓, 前庭水管, 内リンパ嚢などの観察に適する。 一方, 垂直断では耳管咽頭口から耳管鼓室口までの耳管全体, 蝸牛, 顔面神経迷路部から鼓室部, 鼓膜張筋腱, 前半規管および外側半規管の膨大部, 卵形嚢斑, 蝸牛窓などの観察に適する。

 現在, ヒト側頭骨組織病理について, 新しい標本を採取するなどアクティブな研究機関は世界的にも大変少なくなっている。 しかし近年, 免疫組織学的手法や分子生物学的手法を用いた新たな解析が出現し, 長く保存された組織標本から病態についての新たな知見が得られる可能性が高まっている。

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