先天代謝異常症とは,遺伝的な原因により特定の酵素機能が欠損することで発症する疾患群である。単一遺伝子異常であり,一つ一つの疾患は稀少疾患である。先天代謝異常症で耳鼻咽喉科と関わりの深い疾患としては,ムコ多糖症,ファブリー病が挙げられる。ムコ多糖症は,軟部組織,耳小骨にムコ多糖症が蓄積することにより,反復する中耳炎,上気道狭窄,難聴を発症する。全身麻酔,鎮静時は,上気道狭窄症状の増悪から呼吸不全へ至り,気管切開が必要となることがある。ファブリー病では,内耳機能障害から聴力障害,耳鳴りを発症することがある。両疾患とも,酵素補充療法が日本で保険承認されている。酵素補充療法は,1~2週間に1回,点滴で酵素を補充する治療法である。ムコ多糖症では,酵素補充療法の耳鼻科的合併症に対する効果は明らかなエビデンスはないが,小児期早期より治療開始することで改善する可能性がある。ファブリー病に対する酵素補充療法では,内耳機能が安定し,症状の進行を抑制することができると報告されている。