耳鼻咽喉科展望
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両耳聴に関する実験的研究
向井 敬
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1975 年 18 巻 Supplement1 号 p. 81-102,4

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抄録

両耳聴が片耳聴よりすべての点で有利であることは, 多くの学者の研究報告によつても事実であると思われる。就中その有利性は方向覚, 語音明瞭度などにおいて著しいといわれる。また遠近覚については方向覚に比較して非常ににぶいものとされている。著者は両耳聴の優利点を確認できたので, これを臨床上に応用した。すなわち (1) 可聴閾値検査ではレシーバー法, スピーカー法のいずれにおいても両耳聴の可聴閾値は良聴耳のそれとほとんど大差はなかつた。(2) 語音明瞭度検査においてレシーバー法と無騒音下のスピーカー法の揚合は, 両耳聴の成績は良聴耳のそれとほとんど大差はなかつた。騒音下のスピーカー法において語音と騒音が同方向にある場合よりも方向が異なる場合に明瞭度上昇の傾向を認めた。(3) FITテストにおいて良聴耳よりも難聴耳はかすかな強さの音にも反応し, 難聴耳側に音像が移動した。(4) レシーバー法による方向覚は正常者, 難聴者ともに水平面上の左右方向がもつとも良く, 難聴者では良聴耳だけでも快適聴取レベルで音を聴かせると正常者とあまり差はなかつた。遠近覚は概して正常者と難聴者の問に大差はなかつた。(5) 移動音源による方向覚検査においては, 正常者は前後方向がもつとも良く, 片側難聴者は良聴耳側と後方向にかたよる傾向を認め, 両側難聴者は正常者と大差はなかつた。(6) 移動音源による遠近覚検査においては, 正常者, 難聴者ともに70%以上の正答率で遠近認知が可能であつた。(7) 両耳補聴器装着時の方向覚は, マイクロホンにホーンのないしかも2個のマイクロホンの間にT字型隔壁を有する補聴器を使用した場合がもつとも良かつた。(8) 移動音を他覚的幼児聴力検査に応用し, 移動音が検査音として断続音にまさることがわかつた。

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