耳鼻咽喉科展望
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大学病院における嚥下障害治療の取り組み
日本医科大学付属病院の場合
三枝 英人粉川 隆行愛野 威一郎小泉 康雄岩崎 智治中村 毅
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2003 年 46 巻 3 号 p. 227-233

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抄録

嚥下障害の治療はながらく一部の医療者や患者家族の献身的な努力によって, 地道に細々と行われてきた感がある。一方, 近年の医療技術の進歩によってそれまで治療が難しいとされていたような疾患の治療が行われるようになった結果, 生命が存え, また高齢化の社会を迎えようとしている。しかし, これによって疾病はある程度治っても, 逆に障害を抱えたまま生きている人々が増えてきていることも事実である。これに老齢化の要因が加われば, 自ずと障害が顕著になることになろう。嚥下は身体の種々の障害により, 直接的に, もしくは間接的に様々な程度で障害を受ける。咽喉頭の嚥下運動に関与する器官が直接障害されていなくとも, 例えば「寝たきり」そのものが重大な嚥下障害の原因となり得る。つまり, 嚥下障害は, 決して局所の問題だけでなく, 全身的な要因, 更には心理的要因によっても起こり, また修飾され得る。逆に, 局所の障害が全身の問題へと波及する可能性を持つ。そして, その問題は患者を取り巻く家族や周囲の人々にまで影響が及ぶのである。
以上, 述べたように, 嚥下障害は必ずしも耳鼻咽喉科疾患ばかりでなく, むしろ様々な疾患によって引き起こされるものであり, 従って一生涯嚥下障害を経験しない医療者はいないであろう。しかし, それが故に嚥下障害に対する包括的かつ, 科学的見地に基づく医療, 医学は立ち遅れていることも事実である。嚥下はヒトの, もしくは動物行動の最も根源となるものであり, それが障害され, 制限されるということは心身の激しい苦しみとなろう。嚥下障害は, 今後の医療にとって決して無視して通り過ぎることはできない問題である。しかし, 如何為ん時間と労力の掛かることは事実である。我々が大学病院において嚥下障害治療に取り組み始めてからわずか11年であるが, 今回その歩みを振り返ると共に, 大学病院における嚥下障害治療の取り組みについて考えたいと思う。

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