抄録
<目的>
一側性高度難聴の原因として、ウイルス感染や突発性難聴、内耳奇形などが考えられる。しかし、近年画像診断技術が向上し、核磁気共鳴画像法(MRI)によって内耳道内の神経が個別に描出できるようになり、蝸牛神経の単独無~低形成症が小児先天性感音難聴の原因となっている例が存在することが明らかになってきた。そこで、我々は、内耳道内の形態学的な異常と臨床像について検討した。
<方法>一側性高度難聴14 例に対してMRI や側頭骨コンピューター断層撮影(CT)を行ない、蝸牛神経の有無、内耳道の太さなどについて検討した。さらに、画像情報と併せて純音聴力検査や歪成分耳音響放射(DPOAE)、聴性脳幹反応(ABR)、前庭誘発頸筋電位(VEMP)による結果を評価した。
<結果> MRI により14 例中8 例に蝸牛神経単独の欠損、2例に低形成が認められた。蝸牛神経形成不全10例中、全例内耳道径は2mm以上であったが、10例中5例に内耳道径に軽度の左右差が認められた。蝸牛神経欠損または低形成例で側頭骨CT を行なっていた5例は全例、蝸牛神経管は欠損または低形成(< 1. 5mm)であった。蝸牛神経欠損および低形成の10 例では、純音聴力検査やABR では患側高度難聴を認めたが、このうち5例はDPOAEにて良好な反応が得られた。蝸牛神経欠損例4例に前庭誘発頸筋電位検査(VEMP)を行い、4例共に反応が認められたが、うち2例はP ─N 振幅減弱が認められた。また、蝸牛神経欠損8例中2例に脈絡叢嚢胞が認められた。
<結論>蝸牛神経単独欠損は一側性高度難聴の原因の一つとして重要なものと考えられる。一側性高度難聴の精査として中枢神経系疾患の画像による精査も含め、内耳道のMRI やCT による検索は重要であると考えられた。