抄録
顔面神経非回復性麻痺には2種類ある。ひとつはベル麻痺やハント症候群など無治療によってもある程度の回復が期待される不完全治癒例、もうひとつは外傷や腫瘍による後遺完全麻痺である。前者に対しては、エレクトロニューロノグラフィーなど電気生理検査によって予後判定を行い、後遺症が予想される症例においてはリハビリテーションによってこの予防に努める。すでに後遺症が固定している症例では、ボツリヌストキシン治療によって拘縮や病的共同運動をいったん軽減した後に改めてリハビリを行う。外傷や良性腫瘍によって完全麻痺が遷延する場合には、晩期減荷術のみで良好な表情運動の回復が認められることがある。腫瘍などの治療のために顔面神経を切断しなければならない場合には、中枢および末梢の断端が明かであれば大耳介神経や腓腹神経を用いた神経移植を、中枢断端が不明確ならば舌下神経との吻合術を行う。