Otology Japan
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シンポジウム2
幹細胞生物学を応用した内耳性難聴治療法の開発研究
藤岡 正人
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2019 年 29 巻 2 号 p. 125-130

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抄録

難聴は,本邦の65歳以上の3割が罹患する超高齢社会の国民病だが,依然として決定的な原因治療に乏しい.再生能を持たない内耳感覚上皮や神経細胞の脱落,あるいは組織構築の破綻が原因とされるが,そのプロセスを死後標本で捉える機会は極めて稀で,また解剖学的制約から生検もできないため,細胞レベルでの病態や分子メカニズムは不明な点が多い.それゆえに,難聴発症の病態や機序を理解するためにiPS細胞を用いた病態生理の再現による創薬研究が試みられ,また,病態によらない治療戦略として内耳再生医療が改めて注目されている.

開発研究として大きく異なるこの2つのアプローチは,基礎研究レベルでは実は似ている.「再生」とは“Re-generation”=再度(re)創り出す(generate)ことで,その学術的本質は体がつくられる発生過程の理解にある.細胞生物学的に言えばこれは幹細胞と細胞系譜を分子レベルで理解して人為的に制御することであり,iPS細胞や組織幹細胞の幹細胞生物学研究と通ずる.本発表では私たちが数年来取り組んでいる,幹細胞生物学をベースとした内耳性難聴の治療法開発を紹介したい.

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© 2019 日本耳科学会
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