Otology Japan
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29 巻, 2 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
第28 回日本耳科学会総会特別企画
特別企画 耳科手術の歴史
パネルディスカッション2
  • 日高 浩史, 池田 怜吉, 宮崎 浩充, 小林 俊光
    2019 年 29 巻 2 号 p. 113-118
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/25
    ジャーナル フリー

    鎖耳(外耳道閉鎖症)に伴う高度な伝音難聴に対する聴覚補償として,人工中耳(VSB)が期待されている.しかし,鎖耳は顔面神経の前外側への走行異常を伴うことが多いためにVSBの設置が困難とされ,その手術アプローチには統一した見解がないのが現状である.アブミ骨の可動制限をともなう,あるいは顔面神経の走行異常でアブミ骨や前庭窓の確認が困難な場合を想定する必要がある.そこで,CT画像を踏まえた術前の評価,ならびに顔面神経乳突部と後頭蓋窩の間を通って後鼓室や正円窓窩に達するretrofacial approachでの挿入方法を紹介した.その際,アブミ骨筋の一部を切断することで,後頭蓋窩と顔面神経とのスぺースが増し,アプローチしやすくなると考えられた.

  • 齋藤 和也, 土井 勝美
    2019 年 29 巻 2 号 p. 119-124
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/25
    ジャーナル フリー

    本邦では,2017年2月からVSB機器の供給が開始となり,従来の聴力改善手術で聴力改善が困難であった例や,両側外耳道閉鎖症に対しての新たな治療選択肢として注目されている.2012年から2014年に行われた多施設臨床治験では,RWVが術式として選択され,良好な結果を得ることができた.RWVでは,FMTを留置するスペースを確保するにあたり,正円窓膜上の突出部や底部を削開する必要がある.しかし,不用意な操作によって正円窓膜の損傷から感音難聴を生じるリスクが常につきまとう.そこで,当科では保険承認以降は必ずしもRWVにこだわらず,アブミ骨上部構造が残存し,可動性が問題なければクリップカプラを用いたVORPを第一選択としている.また,アブミ骨上部構造が欠損していても,FMTを留置できるスペースさえあれば,OWVも積極的に行っている.真珠腫性中耳炎術後に対し,VORPとOWVを行った2例を提示し,VSB卵円窓アプローチの手技と適応について報告する.

シンポジウム2
  • 藤岡 正人
    2019 年 29 巻 2 号 p. 125-130
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/25
    ジャーナル フリー

    難聴は,本邦の65歳以上の3割が罹患する超高齢社会の国民病だが,依然として決定的な原因治療に乏しい.再生能を持たない内耳感覚上皮や神経細胞の脱落,あるいは組織構築の破綻が原因とされるが,そのプロセスを死後標本で捉える機会は極めて稀で,また解剖学的制約から生検もできないため,細胞レベルでの病態や分子メカニズムは不明な点が多い.それゆえに,難聴発症の病態や機序を理解するためにiPS細胞を用いた病態生理の再現による創薬研究が試みられ,また,病態によらない治療戦略として内耳再生医療が改めて注目されている.

    開発研究として大きく異なるこの2つのアプローチは,基礎研究レベルでは実は似ている.「再生」とは“Re-generation”=再度(re)創り出す(generate)ことで,その学術的本質は体がつくられる発生過程の理解にある.細胞生物学的に言えばこれは幹細胞と細胞系譜を分子レベルで理解して人為的に制御することであり,iPS細胞や組織幹細胞の幹細胞生物学研究と通ずる.本発表では私たちが数年来取り組んでいる,幹細胞生物学をベースとした内耳性難聴の治療法開発を紹介したい.

シンポジウム3
  • ~その長所・短所と位置付け~
    細谷 誠
    2019 年 29 巻 2 号 p. 131-136
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/25
    ジャーナル フリー

    ヒトiPS細胞は2007年に樹立が報告され,再生医療の強力なツールとして注目されている.当教室では,慶應義塾大学医学部生理学教室(岡野栄之教授)との共同研究のもと,iPS細胞を用いたヒト内耳病態生理研究を進めてきた.現在では,ヒトiPS細胞から内耳細胞を誘導し,in vitroモデルとして,疾患研究に用いることにより,動物モデルとは異なる視点から病態生理研究を展開することが可能となっている.また,iPS細胞由来内耳細胞を創薬研究に応用することも可能である.一方で,iPS細胞を用いた研究は,原理的に細胞ベースの実験であり,その適応には科学的手法としての限界がある.

    本稿においては,ヒトiPS細胞を用いた内耳病態研究への応用方法の実際を俯瞰し,長所・短所についてまとめたうえで,未来への展望を述べる.

シンポジウム4
  • 藤田 岳, 土井 勝美
    2019 年 29 巻 2 号 p. 137-141
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/25
    ジャーナル フリー

    聴神経腫瘍は第VIII脳神経から発生し,そのほとんどは前庭神経から発生する前庭神経鞘腫である.神経線維腫症II型(NF2)に発生する両側性の前庭神経鞘腫は稀な疾患であるが,孤発性の前庭神経鞘腫は,画像検査の発達や平均寿命の伸長により,過去に想定されていたよりもはるかに頻度の高い疾患であることが明らかになってきた.

    稀ではなく,時に重篤となる疾患であるにもかかわらず「前庭神経鞘腫がなぜ発生し,どのようなメカニズムで増大するのか」,また「聴力障害のメカニズム」の詳細は不明である.

    抗VEGF抗体ベバシズマブの前庭神経鞘腫への有効性が報告された2009年以降,薬物治療の研究も進んでいる.現在の前庭神経腫瘍の病態解明に関わる研究の概略と併せて,筆者がこれまで行ってきた前庭神経鞘腫の遺伝子解析・薬物治療・聴力障害のメカニズム解析研究のご紹介をする.

  • 河野 道宏
    2019 年 29 巻 2 号 p. 142-148
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/25
    ジャーナル フリー

    近年,聴神経腫瘍に対して手術・放射線治療・経過観察が適切に行われるようになり,治療成績は以前に比して明らかに向上している.しかし,依然として,突発性難聴等と診断されて発見が遅れるケースが多く,初発症状から腫瘍の発見まで平均2年半以上かかっているのが現状である(筆者データ).これは,聴神経腫瘍の半数以上が突発型の聴覚症状を呈すること(筆者データ)が広く知られていないことと,除外診断であるはずの「突発性難聴」の診断が検査なしに安易につけられていることに起因するものと考えられる.治療の対象となりやすい若年者には,突発型の聴覚症状には内耳道中心のthin sliceのMRIのスクリーニングを行うべきと考えられる.

原著論文
  • 三代 康雄, 桂 弘和, 都築 健三, 美内 慎也, 池畑 美樹, 大田 重人, 阪上 雅史
    2019 年 29 巻 2 号 p. 149-153
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/25
    ジャーナル フリー

    ハイドロキシアパタイト(HA)と軟骨で耳小骨再建を行った症例の術後1年目の聴力成績を比較検討した.2010年日本耳科学会聴力判定基準による聴力改善率はHA 74.5%,軟骨57.6%と有意差を認めた.術後気骨導差による評価では術後気骨導差20 dB以内の割合がHA 75.5%,軟骨56.6%と有意差を認めた.また術後気骨導差が30 dBを超える割合もHA 9.2%,軟骨25.3%と有意差を認めた.バイアスを排除するために,①HA vs軟骨,②真珠腫vs非真珠腫,③一期的手術vs段階的手術,④III型vs IV型,⑤初回手術vs再手術の5因子で多変量解析を行ったところ,HAと初回手術が有意な因子であり,聴力成績に関してはいずれの検討でもHAが軟骨より良好な結果であった.一方,術後合併症はHAでは高度感音難聴と排出を1例ずつ認めたが,軟骨では合併症は認めず,軟骨の安全性が再確認された.

  • 李 信英, 神﨑 晶, 小池 卓二
    2019 年 29 巻 2 号 p. 154-161
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/25
    ジャーナル フリー

    中耳伝音系を再建する際,耳小骨の可動性は術後成績に大きな影響を及ぼすため,その評価は重要である.しかし,固着部位や固着の程度と耳小骨の可動性の関係について統一的な見解は得られていない.本研究では,様々な病状における耳小骨可動性を定量的に調べるため,中耳有限要素モデルを用いて耳小骨固着を再現した.その際の耳小骨の可動性変化を数値解析により求め,耳小骨の固着の客観的な診断方法について検討した.その結果,前ツチ骨靭帯の固着と後キヌタ骨靭帯の固着の有無を区別する手法として,ツチ骨とキヌタ骨の可動性の差に着目することが有用であることが示された.ただし,本診断方法を的確に行うためには,各耳小骨の可動性のわずかな差を区別する必要があり,触診では区別が難しい場合もある.そのため,耳小骨の可動性を定量的に評価できるデバイスを活用することが有効であると考えられる.

  • 齊藤 彰子, 伊藤 吏, 窪田 俊憲, 古川 孝俊, 二井 一則, 欠畑 誠治
    2019 年 29 巻 2 号 p. 162-167
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/25
    ジャーナル フリー

    2000年~2011年に山形大学医学部附属病院耳鼻咽喉科で顕微鏡下耳科手術(MES)を行った中耳奇形16症例19耳(平均25.0歳)と,2012年~2015年に経外耳道的内視鏡下耳科手術(TEES)を行った中耳奇形13症例13耳(4歳~62歳)を比較し,中耳奇形に対するTEESの有用性について検討した.船坂分類に基づいた各群の奇形の内訳は,MES群ではI群が5耳,II群が4耳,III群が1耳,I + II群が6耳,I + III群が2耳,II + III群が1耳であり,TEES群ではI群が10耳,I + II群が1耳,I + III群が2耳であり,両群間にばらつきを認めた.術後1年での聴力改善を日本耳科学会基準(2010)に基づいて判定したところ,MES群では手術成功率78.9%(15耳/19耳)であったのに対し,TEES群では91.6%(11耳/12耳)であった.また,術後気骨導差に基づいて判定した場合,MES群では術後気骨導差が20 dB以内の割合が89.5%であるのに対して,TEES群では91.7%であった.手術時間はMES群で67分~143分(中央値107分),TEES群で85分~167分(中央値116分)であり,有意差を認めなかった.

  • 倉田 奈都子, 川島 慶之, 伊藤 卓, 藤川 太郎, 竹田 貴策, 大岡 知樹, 野口 佳裕, 喜多村 健, 堤 剛
    2019 年 29 巻 2 号 p. 168-173
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/25
    ジャーナル フリー

    耳硬化症の側頭骨CTにおいて,しばしば内耳道前壁の陥凹が見られるが,その頻度や臨床所見との関連は不明である.今回我々は2002年1月から2016年12月までの15年間に当科で手術を行い診断が確定した耳硬化症79例91耳のうち側頭骨CT所見が確認できた56例66耳(耳硬化症群),および同期間に当科で手術治療を行った慢性中耳炎および外耳道癌の健側248耳(対照群)を対象に内耳道前壁の陥凹の頻度と臨床所見との関連につき検討した.深さ0.71 mm以上の陥凹(これを内耳道前壁憩室様所見と定義した)は耳硬化症に特異的な所見と考えられ,内耳道前壁憩室様所見は耳硬化症66耳中13耳(19.7%)で陽性であった.そのうち内耳道前壁憩室様所見を単独で認めた症例は2耳(3.0%)であった.内耳道前壁憩室様所見の有無で臨床像には違いを認めなかったが,耳硬化症の術前診断に有用なCT所見の一つであると考えられた.

  • 高橋 英里, 菊地 さおり, 飯野 ゆき子
    2019 年 29 巻 2 号 p. 174-179
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/25
    ジャーナル フリー

    非結核性抗酸菌は培養可能な結核菌以外の抗酸菌を示し,国際的に登録菌種とされている非結核性抗酸菌の種類は150種類を超え多様性に満ちている.非結核性抗酸菌は環境に常在し,土壌・水・埃などの自然環境で増殖する環境寄生菌で,呼吸器感染症や皮膚病変の原因としてあげられる.多くは肺疾患であり,耳鼻咽喉科領域での感染は稀である.今回我々は,67歳の女性で,難治性中耳炎で種々の治療でも改善せず,精査の結果,非結核性抗酸菌のなかでもMycobacterium abscessusによる感染が原因と判明した症例を経験した.クラリスロマイシン(CAM)とレボフロキサシン(LVFX)の長期の内服でMycobacterium abscessusは消失したが,菌交代現象でMethicillin-resistant Staphylococcus aureusMRSA)が検出され,耳漏の再燃をみた.MRSA感染をコントロールしたのちに鼓室形成術を施行した.症状の進行によっては高度の難聴をきたす可能性もあるため早期の診断が重要である.難治性中耳炎の診断の際には,非結核性抗酸菌も念頭に置きながら精査を進める必要がある.

  • 沖中 洋介, 菅原 一真, 松浦 貴文, 樽本 俊介, 広瀬 敬信, 橋本 誠, 下郡 博明, 山下 裕司
    2019 年 29 巻 2 号 p. 180-184
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/25
    ジャーナル フリー

    補聴器作成のための耳型採取は,一般の補聴器店でも広く行われているのが実状である.しかしながら,耳内の状態を充分に確認して行わないと合併症の原因となり得る.今回我々は,印象材が鼓膜穿孔を通して,中耳の異物となった症例を経験したので,報告する.症例は66歳の女性.補聴器耳型採取時の印象材が摘出困難となり,当院を紹介された.CT検査では鼓膜の穿孔を通して印象材が右中耳充填されていることが示された.異物は耳小骨に接していたものの,鼓室の下方に圧排しながら全身麻酔下で摘出され,合併症を起こすこと無く退院した.経験の浅い補聴器販売者が外耳道を検査することなく耳型印象剤を使用していた.経験のある耳鼻科医と補聴器販売店との良好な連携が重要であることが示唆された.

  • 荒井 康裕, 森下 大樹, 磯野 泰大, 和田 昂, 佐久間 直子, 高橋 優宏, 宇佐美 真一, 折舘 伸彦
    2019 年 29 巻 2 号 p. 185-192
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/25
    ジャーナル フリー

    人工内耳の術側を決定する際,判断に迷う症例を多々経験する.本研究では,非良聴耳への人工内耳の選択の是非を判断するために非良聴耳へ人工内耳を施行した症例の術後聴取成績について比較検討した.2008年10月より2017年12月までの間に当科で手術を行った人工内耳初回患者例の内,言語習得後失聴成人患者で一側人工内耳手術施行症例を対象とした.良聴耳の定義として,片側のみの補聴器装用であれば装用側を良聴耳とし,両側補聴器装用もしくは両側非装用の場合は平均聴力閾値で群分けした.症例数は,良聴耳群13例,非良聴耳群11例,同等耳群11例計35例となった.各群間で病因,性別,難聴期間,術前平均聴力,使用人工内耳,メーカーで有意差を認めなかった.非良聴耳群の人口内耳の術後成績は,人工内耳装用下音場語音明瞭度(70.0%),CI-2004単語検査(80%),CI-2004日常会話文検査(74%)3項目すべてにおいて,良聴耳群・同等耳群と比較し統計学的有意差のない成績であった.本報告は症例数も限られるが,術後成績に影響する他の因子(年齢・病因・良聴耳の純音聴力・人工内耳メーカー・遺伝学的背景)をよく考慮し,患者と相談の上,非良聴耳への人工内耳は術側として選択しうるオプションであると考えられた.

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