応用物理
Online ISSN : 2188-2290
Print ISSN : 0369-8009
企画の意図
プラズマが拓く材料科学
『応用物理』編集委員会
著者情報
ジャーナル フリー

2008 年 77 巻 4 号 p. 366

詳細
抄録

応用物理におけるプラズマエレクトロニクスは材料科学とともに発展してきました.かつてはブラックボックスとして扱われてきたプラズマの中身を理解するため,レーザー計測をはじめとする最新技術でプラズマの内部パラメーターを計測,診断し,コンピューターシミュレーションによりプラズマ内でのさまざまな反応過程が理解されるようになりました.このようなプラズマ計測,診断,制御技術のめざましい発展は,より高品質の材料合成,高精度な材料加工という材料やデバイス開発からの要求にこたえてきたものといえます.材料科学の発展とともにその期待にこたえ,高い研究のハードルを乗り越えるべく,プラズマと材料の相互作用についてさまざまな観点から精力的な研究が進められてきました.

材料の合成や加工を行うプラズマプロセス,反応性の高いガスを放電させて発生する反応性プラズマの制御技術,あるいは高エネルギー状態のプラズマから放射される光を利用するプラズマ光源の技術は,いまだ完全なものとはいえません.正確に計測され,思いどおりに制御できるプラズマの内部パラメーターはごく一部にすぎないのです.さらに材料はシリコンを中心とした研究開発から,窒化物,酸化物をはじめとするさまざまな化合物半導体へ,あるいはカーボンナノチューブなどの炭素系新材料へと急速な広がりを見せています.また加工技術の微細化に伴って極端紫外光(EUV)など新しい光源への要求も高まっています.材料科学の発展とともにプラズマへの期待や要求も非常に多様かつ高度化し,新しいプラズマ源や難しいプラズマパラメーター制御が求められるようになっています.

一方で,大気圧プラズマや液中プラズマ,液相気相混在下でのプラズマ,微小空間のマイクロプラズマなど新しい概念に基づくプラズマの生成,制御技術が開発され,材料合成に応用されることにより,従来法では得られなかった面白い新材料が見いだされることも少なくありません.超臨界プラズマやソリューションプラズマによるナノカーボンの合成など,新しいプラズマが新しい材料を生み出しています.しかしこれらの新しいプラズマの多くは,従来のプラズマに比べてさらに計測,制御が困難なことが多く,材料科学からの期待にこたえるには高いハードルとなっています.

プラズマを,材料を合成,加工するための独立した道具としてとらえるのは適切ではありません.プラズマ自体が材料そのものの過渡的な状態なのです.プラズマという材料の状態を理解することによってこそ,結果としての固体や液体,薄膜材料などの反応や物性を制御できる可能性が拓けてきます.

この小特集ではプラズマと材料科学という着眼点からプラズマエレクトロニクス分野における最新の研究動向について紹介したいと思います.光源としてのプラズマ利用は,発光媒質である材料との相互作用を制御することが課題であるといえます.また,EUV などの新しい光源が実現することで新しい材料技術への貢献が期待されています.大気中や液体界面でのプラズマ生成利用は新材料やバイオテクノロジーなど非常に幅広い応用の可能性を示しています.この小特集を通じて材料の過渡的状態であるプラズマの生成や制御について理解を深めていただき,さらなる材料科学とプラズマエレクトロニクスの発展につながるヒントとなれば幸いです.

著者関連情報
© 2008 公益社団法人応用物理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top