2017 年 86 巻 10 号 p. 875-880
両親媒性の脂質分子が自己集合した脂質2分子膜は,全ての細胞がもつ普遍的な構造である.構成分子同士に働く力はファンデルワールス力,静電力,疎水力などの比較的弱い力であるため,膜は外場に対して大きな変形や流動などの応答を示すソフトマター分子集合体としての特徴をもつ.近年,人工的に作製した膜小胞(人工細胞膜)の形や動きを,光学顕微鏡でリアルタイム計測する研究が進められている.本稿では,熱統計力学的な視点から膜の物性を解説し,熱的に誘起された構造揺らぎのダイナミクスの解析および光による構造制御の研究事例を紹介する.