異常ホール効果は,19世紀後半に発見されて以来,強磁性体において磁化に比例して現れることが経験的に知られている.言いかえれば,磁化をもたない磁性体,例えば,スピン液体や反強磁性体においては,異常ホール効果は現れないと考えられてきた.しかし,近年,異常ホール効果の起源に対する理解が進み,これらの磁性体においても,異常ホール効果の出現の可能性が理論的に議論されるようになってきた.また,我々の最近の実験研究の結果,スピン液体や反強磁性体において,実際に異常ホール効果が現れることが明らかになった.特に,反強磁性体においては,強磁性体の異常ホール効果と同程度か,それをしのぐような大きなホール抵抗が観測された.さらに,我々の研究から,磁性体がもつトポロジカルな電子構造に由来した,運動量空間での数百T級の仮想磁場が,このホール効果を誘起していることが明らかになりつつある.今回の我々の発見は,この巨大な仮想磁場が100G程度の外部磁場で制御できることを意味している.これらの現象は室温以上で発現するため,今後,この仮想磁場を用いた新しい創発的電磁気学の研究のみならず,反強磁性体を用いたスピントロニクス,エネルギーハーベスティングなどへの応用が期待される.