応用物理
Online ISSN : 2188-2290
Print ISSN : 0369-8009
86 巻, 4 号
『応用物理』 第86巻 第4号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
Science As Art
ココだけのハナシ
今月のトピックス
今月号の概要
解説
  • 飯野 裕明, 半那 純一
    2017 年 86 巻 4 号 p. 286-293
    発行日: 2017/04/10
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー

    液晶性有機半導体の結晶薄膜を利用する新たな有機半導体材料の展開と有機トランジスタへの応用を紹介する.結晶に比べてソフトで分子が自己組織的に凝集する液晶相は,通常の結晶材料では困難な分子配向の制御や結晶粒界方向の制御,さらには溶液プロセスにおいても平坦(へいたん)・均一性を有する結晶膜の作製に利用できる.液晶相の中でも高次の配向秩序を示す液晶相,さらに分子レイヤ内でヘリングボーン構造を有するスメクチックE(SmE)相は結晶化してもヘリングボーン構造を保持するため結晶膜において高移動度が期待でき,結晶相から液晶相へ転移しても固体様の性質のため融解することもなく薄膜形状を保ち,耐熱性の改善にも利用できる.これに着目し,SmE相を発現する液晶性有機半導体を設計し,その多結晶薄膜を有機トランジスタへ応用することにより,200°Cまでの耐熱性と有機単結晶並みの10cm2/Vsを超える高移動度を併せもつ高品質なトランジスタを実現できた.

研究紹介
  • 楊井 伸浩, 君塚 信夫
    2017 年 86 巻 4 号 p. 294-299
    発行日: 2017/04/10
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー

    フォトンアップコンバージョン(UC)は,全ての太陽エネルギー利用技術を高効率化し,また新しいバイオイメージングや光線力学療法をもたらす方法論として期待されている.この中でも太陽光のような低強度の励起光を利用できる3重項‐3重項消滅(TTA)機構に基づくUC(TTA-UC)は,用いるドナーとアクセプタの組み合わせを変えることで多様な波長変換に対応可能なことから興味を集めている.しかし,応用上非常に重要な近赤外光から可視光へのUCや可視光から紫外光へのUCは達成が困難であり,新たな戦略が求められていた.これらが達成困難な原因の1つは,3重項の増感剤(りん光性材料)が励起1重項から3重項に系間交差(ISC)する際にエネルギーを失うことにあった.そこで最近の研究において,このISCのエネルギーロスが小さい,もしくはISCを伴わない新しいタイプの3重項増感剤が開発され,これまで困難であった波長域のUCを達成できつつあるので紹介したい.

  • 石井 智, 長尾 忠昭
    2017 年 86 巻 4 号 p. 300-304
    発行日: 2017/04/10
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー

    金属に光を照射すると励起電荷(ホットキャリヤ)が発生し,その後,熱となる.これらの基礎と応用はナノ光学(プラズモニクス)の発展とともに研究が盛んになってきたが,金属材料としてもっぱら金が使われてきた.本稿では,セラミックスの一種である窒化チタン(TiN)でも光照射によるホットキャリヤの生成や局所加熱が可能であることを,実験事例を交えて紹介する.TiNは化学的に安定で金より安価なだけでなく,特に太陽光によるホットキャリヤ利用においてTiNのほうが金より高い効率を示す.そのため,太陽光の有効利用を目指したTiNによる光電変換や光熱変換の研究を進めている.

  • 安藤 康夫
    2017 年 86 巻 4 号 p. 305-309
    発行日: 2017/04/10
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー

    強磁性トンネル接合を用いた,室温動作の生体磁場測定センサを開発した.トンネル接合素子を直並列に微細加工してのノイズ低減を図り,S/N向上のためのブリッジ,アンプ,フィルタなどの各種回路を組み込んだ,磁気センサモジュールを作製した.これを用いて心磁場の測定に成功した.また,センサプローブ2対を用いて環境ノイズをキャンセルすることにより,磁気シールドの外であっても信号を検出可能であることを示した.本稿は,このセンサの詳細な特性,生体磁場検出に向けての必要な技術課題,ならびに将来の展開の可能性について述べる.

  • 中辻 知
    2017 年 86 巻 4 号 p. 310-314
    発行日: 2017/04/10
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー

    異常ホール効果は,19世紀後半に発見されて以来,強磁性体において磁化に比例して現れることが経験的に知られている.言いかえれば,磁化をもたない磁性体,例えば,スピン液体や反強磁性体においては,異常ホール効果は現れないと考えられてきた.しかし,近年,異常ホール効果の起源に対する理解が進み,これらの磁性体においても,異常ホール効果の出現の可能性が理論的に議論されるようになってきた.また,我々の最近の実験研究の結果,スピン液体や反強磁性体において,実際に異常ホール効果が現れることが明らかになった.特に,反強磁性体においては,強磁性体の異常ホール効果と同程度か,それをしのぐような大きなホール抵抗が観測された.さらに,我々の研究から,磁性体がもつトポロジカルな電子構造に由来した,運動量空間での数百T級の仮想磁場が,このホール効果を誘起していることが明らかになりつつある.今回の我々の発見は,この巨大な仮想磁場が100G程度の外部磁場で制御できることを意味している.これらの現象は室温以上で発現するため,今後,この仮想磁場を用いた新しい創発的電磁気学の研究のみならず,反強磁性体を用いたスピントロニクス,エネルギーハーベスティングなどへの応用が期待される.

  • 西澤 松彦
    2017 年 86 巻 4 号 p. 315-319
    発行日: 2017/04/10
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー

    酵素を電極触媒に用いるバイオ電池は,糖やアルコールなど安全で豊富な化学エネルギーから直接発電する電源であり,有機材料のみで構成できる優れた生体・環境調和性が永く興味を集めてきた.そして近年,電極のナノ構造制御による出力向上を契機に,実用化に向けた研究開発が加速している.本稿では,カーボンナノチューブ(CNT)と酵素の精密複合化による高活性な伸縮性酵素電極の作製と,皮膚通電デバイスへの応用を紹介する.皮膚内への通電は,イオントフォレシスによって経皮薬物浸透を促進する.皮膚表面への通電は,表皮細胞の電気走性を刺激し,創傷治癒を促進する.これらの通電効果を酵素反応によるバイオ発電で引き起こし,有機物のみで構成された安全・安価な使い捨てデバイスの実現を目指している.

  • 猿渡 俊介, 倉田 成人
    2017 年 86 巻 4 号 p. 320-325
    発行日: 2017/04/10
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー

    建築構造物IoTセンシングとは,建築構造物で生じるさまざまな現象をセンサによって捉えて建築構造物の健全性の診断を行うことで,補強工事の必要性の有無の判断や災害時の避難誘導などに役立たせる技術である.本稿では,建築構造物IoTセンシングの研究事例として超高密度地震モニタリング,軍艦島モニタリング,およびチップスケール原子時計を用いたマルチモーダル計測について紹介する.個別の研究を紹介すると同時に,建築構造物IoTセンシングで求められる課題として,時刻同期,エネルギー,建築構造物IoTセンサに不可欠な加速度センサの性能に関して議論する.

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