2021 年 90 巻 3 号 p. 176-179
光環境が半導体材料の電気的性質に影響することは広く知られているが,力学的性質にどのような影響があるかはあまり理解されていなかった.筆者らは最近,無機半導体の1つである硫化亜鉛(ZnS)結晶が,暗闇下であれば室温でも金属並みの可塑性(変形能,柔軟性)を示すことを発見した.暗闇下における塑性変形量は塑性ひずみ量45%に達しており,無機半導体はもろいというこれまでの常識を覆すものだった.興味深いことに,暗闇下で塑性変形を受けたZnS結晶はもともと大きくバンドギャップが変化し,従来知られていなかった新奇な光物性を示すことも明らかになりつつある.このような物性の変化は,変形により導入された金属並みの高密度な転位が無機半導体中に特異な電子構造を形成していることによる.つまり,従来は悪者にすぎなかった結晶欠陥の転位を逆に有効利用することで,新奇な半導体物性の開拓が可能となると期待される.