超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SSPD)は,紫外~中赤外に感度をもち,通信波長帯で検出効率が90%を超えるSSPDシステムもすでに市販されている.量子情報通信分野を中心に普及が進んでいるが,より幅広い分野への応用に向けて,さらなる高検出効率,低ノイズ,高計数率,大面積を目指した研究開発が行われている.特に,高計数率,大面積を実現するためにはマルチピクセル化が必須であり,極低温環境から効率よく信号を読み出すための周辺回路を含めた技術開発が重要となっている.マルチピクセル化の究極のゴールとして,光子1つひとつを高速に捉える超高感度カメラがあり,10,000ピクセルを超える大規模2次元SSPDアレイを目指した研究開発も行われている.本稿では,SSPDのこれまでの研究開発状況を解説するとともに,マルチピクセル化を中心に周辺技術も交えながら最近の研究開発動向を紹介する.
高強度・大出力パワーレーザーの小型化は,高エネルギー物理から物質・生命の探索に有用な粒子加速に新たな局面をもたらすとされている.大型コンピュータのマイクロチップ化に刺激を受け議論が始まったマイクロ固体フォトニクスは,30年を経てレーザー粒子加速に大きなインパクトを与えつつある.一方,パワーレーザーの小型集積化は,高強度レーザーに関わる製造業,社会インフラメンテナンス,レーザー点火などエネルギーからテラヘルツ波による安心安全,さらには医療など広い分野で革新をもたらすと期待される.本稿では,その源泉となる近年のマイクロドメイン制御の深化と,可能となりつつある小型集積レーザーがもたらす展望に関して議論する.
加熱した際に特定の波長域の光のみを発生させる波長選択的な熱輻射(ふくしゃ)光源は,分光分析,照明,加熱,エネルギー変換などの,さまざまな熱輻射応用におけるエネルギー利用効率の向上をもたらす.我々は,光源構成物質の光吸収と,光源構造の光学共鳴の双方を適切に設計することで,中赤外帯域から,近赤外,可視光帯域に至るまでのさまざまな波長において,波長選択的熱輻射光源を実現してきた.本稿ではこれらの研究のうち,中赤外線帯域における狭帯域熱輻射の実現とその高速変調動作,および近赤外線帯域における波長選択的熱輻射光源の実現とその熱光発電システムへの応用に関して,その内容を紹介する.
高周波帯向け電力増幅器における増幅素子として用いられる,窒化ガリウムベースの高電子移動度トランジスタ(GaN-HEMT)の増幅動作時局所温度上昇による素子性能低下を抑制するため,熱伝導率の極めて高いダイヤモンド基板とGaN-HEMTを,接合法により一体化する取り組みを進めている.今回,表面活性化常温接合法を用いることで,機械研磨法により精密研磨した単結晶ダイヤモンド基板,および触媒反応を利用した研磨法により精密研磨した多結晶ダイヤモンド基板と,GaN-HEMT層との接合形成に,それぞれ成功した.試作した接合デバイスの電気的特性,ならびに動作状態での表面温度測定結果より,ダイヤモンド基板を接合したGaN-HEMTデバイスは,Si基板上デバイスと比較して,放熱性改善により動作時の局所温度上昇が大幅に抑制されるとともに,素子性能が向上していることが明らかとなった.これらの結果より,提案した素子構造,およびその作製プロセスの有効性が示された.
磁気モーメントの歳差運動が位相差をもって磁性体中を伝わる高周波信号は,スピン波と呼ばれる.このスピン波を使って新しい情報処理デバイスを作ろうという研究が盛んになっている.半導体ベースの電子回路では電荷移動を使って情報を伝えるが,スピン波の場合は,電荷移動ではなくスピンの位相により情報を伝える.このことから,スピン波デバイスは,次世代の低消費電力デバイスになると期待されている.本稿では,磁性絶縁体中で生じるスピン波の位相干渉を用いた基本的な論理デバイスの実証実験およびデバイス小型化に関する研究を紹介する.
光環境が半導体材料の電気的性質に影響することは広く知られているが,力学的性質にどのような影響があるかはあまり理解されていなかった.筆者らは最近,無機半導体の1つである硫化亜鉛(ZnS)結晶が,暗闇下であれば室温でも金属並みの可塑性(変形能,柔軟性)を示すことを発見した.暗闇下における塑性変形量は塑性ひずみ量45%に達しており,無機半導体はもろいというこれまでの常識を覆すものだった.興味深いことに,暗闇下で塑性変形を受けたZnS結晶はもともと大きくバンドギャップが変化し,従来知られていなかった新奇な光物性を示すことも明らかになりつつある.このような物性の変化は,変形により導入された金属並みの高密度な転位が無機半導体中に特異な電子構造を形成していることによる.つまり,従来は悪者にすぎなかった結晶欠陥の転位を逆に有効利用することで,新奇な半導体物性の開拓が可能となると期待される.
近年,多発しているゲリラ豪雨による内水氾濫を予測するためには,河川水位とは異なり目視では確認できない下水道の水位をリアルタイムに計測することが重要です.そこで,下水道マンホールにエネルギーハーベスティングデバイス(熱電変換素子)を装着し,これまではできなかった下水道の水位をリアルタイムに計測することを実現しました.さらに,ネットワークの消費電力を低減することにより,5年以上電池交換せずにセンサを動作させながら,水位データをクラウドに格納できるリアルタイムモニタリングシステムの開発・製品化に成功しました.本稿では開発技術,実証実験,製品化に至るまでの経緯を説明します.