主催: 日本心理学会第84回大会準備委員会(東洋大学)大会長 大島尚
会議名: 日本心理学会第84回大会
回次: 84
開催地: 東洋大学白山キャンパス
開催日: 2020/09/08 - 2020/11/02
アレキシサイミア(感情失認)の傾向は,映像刺激や言語刺激などに対する感情的な経験の乏しさと相関することが報告されている。しかしLyversら(2018)は,「音楽」という感情刺激に対しては,逆にアレキシサイミア傾向が高いほど感情的な経験が強いことを報告した。本研究は,アレキシサイミアの下位尺度や共変量(特性不安)を含めてこの知見を詳細に再検討することを目的とした。中国人(n=348)と日本人(n=341)を対象として,参加者の基本属性,トロント・アレキシサイミア尺度,ジュネーヴ音楽感情尺度と状態特性不安尺度を測定した。分析結果から,日中どちらのポピュレーションにおいても,アレキシサイミアが高い人は音楽に対する感情経験の強度が高くなる傾向が示され,Lyversら(2018)の結果は概ね確認された。さらに,アレキシサイミアの中でも特に,感情の同定困難という下位因子が音楽に対する感情経験の強さと関連することが新たに示唆された。この結果の解釈として,音楽経験にはもともと言語的な理解に依存しない特性が大きく,感情を言語概念的に同定することが困難なアレキシサイミアにとって,かえって感情を解放させる契機となる可能性が考えられる。