主催: 日本心理学会第89回大会実行委員会
会議名: 日本心理学会第89回大会
回次: 89
開催地: 東北学院大学
開催日: 2025/09/05 - 2025/09/07
講演者の主要な研究テーマは,心の理解とコミュニケーションの発達である。幼児の日常の行動観察から得られた素朴な問いをきっかけとして研究を開始し,「偽りの感情表出の理解」,「他者からの評価(ほめ・批判)に対する反応」などに関する実証的検討を通して,幼児期・児童期の子どもたちが,他者の気持ちや考えといった「心」を,どのように理解し,どのように他者とかかわっているのかを明らかにしてきた。研究対象の多くは日本の子ども(幼児・児童)であるが,イギリス,イタリアなど,他国の子ども(幼児)との比較文化研究も並行して実施している。心の理解の発達に関する研究は,心の理論(theory of mind)の研究領域において,欧米を中心に積み重ねられてきた。しかし,心に関する理解や,社会的ふるまいは,文化の中で継承される社会的信念や慣習などの影響を受けて獲得されていくものである。講演者は,日本の子どもを対象とした研究を重ねる中で,欧米の発達研究が示してきた「スタンダードな発達の姿」が,必ずしも日本の子どもにはあてはまらないこと,発達の文化的多様性を意識するようになった。例えば,5,6歳児における嘘泣きの社会的機能の認識について検討した日英比較文化研究からは,日英どちらの子どもも,嘘泣きと本当の泣きを区別でき,嘘泣きをよくない行動であると判断するものの,社会的機能の認識には日英間で違いがあり,日本の子どもは,イギリスの子どもよりも,嘘泣きが他者の心配や向社会的行動を引き出すと捉えていることが示された。この結果から,日本の子どもはイギリスの子どもよりも,嘘泣きをした個人がより大きな悲しみを感じており,援助を必要としていると考えやすい可能性が示唆された。本講演では,講演者がこれまでに実施してきた研究,ならびに現在進行中の研究を紹介し,欧米の子どもとの比較から見えてきた日本の子どもならでは発達の姿について考察するともに,社会的文脈に目を向けて子どもの発達を捉えることの重要性について論じる。