抄録
発表概要
本発表では、ボリビアをはじめとする国々におけるフォルクローレ音楽の楽曲や舞踊の演目として知られるティンク(tinku)の成立と普及について、現時点で手に届く資料や先行研究をもとに通時的に振り返る。ティンクとは本来、ボリビア・ポトシ地方を中心に見られる豊穣祈願の祭礼であるが、ここ約50年の間に、さまざまな他者の創作的意図のもとに再解釈を受けてきた。本発表ではティンクがとある「楽曲」から「リズム形式」となり、「民俗舞踊」となるまでの変遷を明らかにしながら、これら「祭礼でないティンク」の登場がいかなる状況に端を発し、何を喚起するのかをひもといていく。
本発表はフォークロアに対する構築主義的な批評の一端をなすが、ここでのフォークロアは民衆の土着的な生活慣習そのものを指さず、それらを社会的、文化的な他者が何らかの目的で表象した所産を指す。職業音楽家によるフォルクローレ音楽のLP録音や、ボリビアで見られる創作色の濃い民俗舞踊はその典型といえる。
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