本研究は,保育所保育士らを対象とした児童虐待防止活動の研修をデザインする研究の一環として,保育所等(幼稚園,届け出施設を含む)における児童虐待防止活動の協働上の困難と課題を記述する。よい教授を生み出すには,何よりもまず,学習の対象となる活動を理解する必要がある(Engestrom, 2009/松下・三輪, 2010)。児童虐待防止活動は様々な関係機関との連携実践すなわち異なる文脈の境界を横断する協働である。そして,この実践では,保育者の共同体と家族,関係機関等,異なる共同体が交差しており,そこで生じる様々な困難(矛盾や葛藤)はネガティブな意味合いを有するのではなく保育者の「学びや発達の駆動因(香川, 2008)」となる可能性を有している。そこで本研究は, Web上に公開された児童虐待死亡または重大事例検証報告書(心中事例を除く)を手がかりに,保育所等が関わった事例から協働上の課題を明らかにし,教授可能性について検討する。