ソフトウエア関連発明やIoT関連発明に関する特許庁の審査実務は,自然法則を利用しないものにハードウエアを結び付けて具体化していくと,当該具体化自体が新規な手法であったり,容易に想到し得るものでなかったとしても,発明該当性を認めることとしており,自然法則を利用していないものが新規であり容易想到でないにとどまる場合であっても,特許の取得を認めている。しかし,特許法2条1項の発明の定義規定が特許の保護対象を画するものである以上は,少なくともクレイム・ドラフティングで簡単に迂回されてしまうようなものであってはならないはずである。そのようななか,近時,いきなりステーキ事件において特許庁は,自然法則を利用していないために発明に該当しないビジネス・モデルに札や計算機やシールなどのハードウエアを付加したとしても,それら付加物が物の本来の機能を果たしているにすぎないときは,発明に該当することはないとの法理を打ち出した。この法理は取消訴訟における知財高裁判決の採用するところとはならなかったが,物の本来の機能論は,クレイム・ドラフティングでは容易に克服し得ないハードル,しかも進歩性要件では完全に代替し得ないハードルを打ち出したものとして,推奨されて然るべきである。