別冊パテント
Online ISSN : 2436-5858
74 巻, 26 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
  • 田村 善之
    2021 年74 巻26 号 p. 1-24
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/18
    ジャーナル フリー

     ソフトウエア関連発明やIoT関連発明に関する特許庁の審査実務は,自然法則を利用しないものにハードウエアを結び付けて具体化していくと,当該具体化自体が新規な手法であったり,容易に想到し得るものでなかったとしても,発明該当性を認めることとしており,自然法則を利用していないものが新規であり容易想到でないにとどまる場合であっても,特許の取得を認めている。しかし,特許法2条1項の発明の定義規定が特許の保護対象を画するものである以上は,少なくともクレイム・ドラフティングで簡単に迂回されてしまうようなものであってはならないはずである。そのようななか,近時,いきなりステーキ事件において特許庁は,自然法則を利用していないために発明に該当しないビジネス・モデルに札や計算機やシールなどのハードウエアを付加したとしても,それら付加物が物の本来の機能を果たしているにすぎないときは,発明に該当することはないとの法理を打ち出した。この法理は取消訴訟における知財高裁判決の採用するところとはならなかったが,物の本来の機能論は,クレイム・ドラフティングでは容易に克服し得ないハードル,しかも進歩性要件では完全に代替し得ないハードルを打ち出したものとして,推奨されて然るべきである。

  • 前田 健
    2021 年74 巻26 号 p. 25-47
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/18
    ジャーナル フリー

     ビジネス関連発明は,ビジネス方法やゲームのルールはそれ自体としては保護されず,あくまで,それらを実装するための科学技術としての側面にかぎり,特許保護適格性が認められると解される。したがって,ビジネス関連発明のクレーム中に,実装するための科学技術と認められる部分が全くなければ「発明」該当性を認めるべきではない。また,ビジネス方法やゲームのルールそれ自体の独占を防ぐためには,進歩性要件に大きな役割が期待される。進歩性の判断は,引用発明との相違点のうち,自然法則を利用していない部分に係る相違点は想到できたことを前提として,専ら,その他の自然法則を利用した部分の相違点の容易想到性を判断することにより行うべきである。いったん成立したビジネス関連発明の技術的範囲を限定的に解釈することで適切な保護範囲に限定することは難しいので,特許性判断の役割は大きい。

  • 中山 一郎
    2021 年74 巻26 号 p. 49-69
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/18
    ジャーナル フリー

     AI関連発明は,①AI技術自体の発明,②AI道具型発明,③自律的AI創作物に分類され,現状では,①又は②が多数を占める。本稿では,従来の発明者の認定基準も踏まえて,各類型の発明者について検討した。①AI技術自体の発明及び②AI道具型発明の発明者は,現行法の発明者概念の解釈問題であるが,人間の関与が多少抽象化するAI関連発明特有の事情にも留意する必要がある。③自律的AI創作物については,まずDABUS出願をめぐる問題を分析した。また,真に自律的か否かは不明であり,自律的AI創作物はAIの利用を隠す可能性もあるため,自律的AI創作物は発明者不在と即断する実益は少ない。人間の関与の抽象化はAI道具型発明でも生じており,発明者に要求される人間の関与はどの程度抽象的なものでよいかを優先して検討すべきである。なお,今後の技術の発展によっては発明者概念の見直しを検討する必要性は高まるが,その際には自律的AI創作物を保護する必要性も併せて検討する必要がある。

  • ―機械分野の発明について判断したCAFC裁判例の概観を交えて―
    山口 和弘
    2021 年74 巻26 号 p. 71-83
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/18
    ジャーナル フリー

     特許制度はイノベーション推進に大きな役割を果たしうる仕組みであるが,保護対象を適切に設定できなければ十分な効果を発揮できない。現在,そのような点からの議論が活発に行われているのが米国特許法101条の特許適格性(発明該当性)である。現在の米国では,2012年3月のMayo最高裁判決及び2014年6月のAlice最高裁判決での判示に基づくMayo/Aliceテストにより特許適格性に関する判例上の例外に該当するか否かが判断されるところ,両最高裁判決以降,特許権侵害訴訟において特許適格性なしとして特許を無効とする判決が急増し,イノベーション推進の障害になっているとの意見も少なくない。本稿では,米国における特許適格性に関する近況とあわせて3件のCAFC裁判例を概観することで,クレームされた発明の技術的特徴の考慮に関する観点からイノベーション推進に向けた特許の保護対象について考察する。

  • ―DX後の発明保護を見据えて―
    竹中 俊子, 伊藤 みか
    2021 年74 巻26 号 p. 85-107
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/18
    ジャーナル フリー

     人工知能(AI)に関連する発明は,その主題が本質的にソフトウェアで実現されるものが多い。ソフトウェア発明の取り扱いは各国で異なり,日本で特許となる権利範囲が必ずしも米国や欧州で特許されるとは限らない。本論文では,総論として米国特許法及び欧州特許条約の下におけるソフトウェア発明の特許性及び開示要件の判例,審決例,及び米国特許商標庁(USPTO)及び欧州特許庁(EPO)における審査基準を解説する。また,日本特許庁(JPO)主催のシンポジウムで使われた事例を通してUSPTO及びEPOの審査実務及び特許性判断結果のJPOとの相違を明らかにする。最後に,日本がより緩やかな基準を採用する理由や,この緩やかな基準が日本企業の国際特許取得戦略に与える影響を考察し,国際調和の必要性を検討する。

  • ―拡大審判部への付託事件G1 /19〔ある環境下における自律的主体の動態のシミュレーション方法事件〕を手がかりとして―
    相田 義明
    2021 年74 巻26 号 p. 109-120
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/18
    ジャーナル フリー

     本報告は,欧州特許庁の拡大審判部への付託事件G1/19〔ある環境下における自律的主体の動態のシミュレーション方法事件〕を手がかりとして,欧州特許条約の下でのコンピュータ利用発明の特許性の判断原理についての理解を深めることを目的とする。

     2021年3月10日に拡大審判部の審決が出された。同審決は,発明がシミュレーションの前提となる原理に対してどのような技術的貢献をしているのかを探求することが重要であるとし,シミュレーションの前提となる原理が技術的なものであっても,技術的性質を有しないと判断される場合もあるし,逆に,その原理が非技術的なものであっても,技術的性質を有すると判断される場合もあるとして,様々な仮想事例について考察している。

     新たな技術の出現によって技術の地平が拡張されると,特許による保護の充実が叫ばれるのが常である(最近では,人工知能の成果物の特許保護)が,このようなときに重要なのは,buzzwordなどに惑わされることなく,分をわきまえて,特許制度の基本に立ちかえることである。

     この点,同審決の内容は,日本の実務に示唆を与えるものといえる。

  • 下萩原 勉
    2021 年74 巻26 号 p. 121-135
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/18
    ジャーナル フリー

     データ駆動型社会への移行が予期される中,データの重要度や注目度はますます上昇している。本稿では,データ(構造)の特許法における保護に関して,審査基準や審査ハンドブックを整理するとともに,発明該当性による拒絶査定が取り消された審決事例(不服2018-2483)を取り上げ,検討する。

  • ―ボールスプライン事件最高裁判決(最高裁平成10年2月24日判決)から見たマキサカルシトール事件最高裁判決(最高裁平成29年3月24日判決)―
    三村 量一
    2021 年74 巻26 号 p. 137-151
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/18
    ジャーナル フリー

     ボールスプライン事件最高裁判決が示した均等論は,典型的には出願後に新たな同効材が出現した場合における特許権者の救済を想定したものであり,置換容易性の判断も侵害時を基準とするものである。これに対して,マキサカルシトール事件の事案は,出願時に既に存在した同効材を用いた方法について均等侵害の成否が問題となったものである。マキサカルシトール事件最高裁判決は,特許出願時において既に存在したにもかかわらずクレームに記載されなかった構成についての均等侵害の問題を採り上げて,どのような場合に当該構成について均等の第5要件にいう意識的除外により均等侵害が否定されるかを判示した。本稿は,ボールスプライン事件最高裁判決を前提としてマキサカルシトール事件最高裁判決の判示内容を分析し,さらに,両最高裁判決を踏まえて,出願過程等においてクレームの減縮がされた場合における均等の第5要件についての検討を行う。

  • 小栗 久典
    2021 年74 巻26 号 p. 153-164
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/18
    ジャーナル フリー

     仮想事例による検討を踏まえると,クラウド事業者,当該クラウド事業者が提供する機能を利用して自己のサービスを提供する企業,当該企業のサービスの利用者がネットワークで結びついて,所定のシステムやサービスを提供するような事案においては,従来論じられてきた,「支配管理性」に関する判断基準を前提とすると,道具理論・支配管理論に基づいたとしても,特定の主体につき特許権侵害(直接侵害)を問うことが難しくなり,結果として特許権者が十分な救済を受けられなくなる恐れがあるように思われる。このため,特許権侵害(直接侵害)につき,より実情に即した柔軟な判断を可能とする上では,従来の,各主体に対しての支配管理性の有無を問題とする基準に,もう一つの選択的な基準として,被疑侵害システムに対する支配管理を誰が行っているかという観点から「支配管理性」を考えるという基準を加えることにより,「支配管理性」の判断基準を拡張することにつき,検討する余地があると考える。

  • 湯浅 竜
    2021 年74 巻26 号 p. 165-177
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/18
    ジャーナル フリー

     クラウドサービス等のテクノロジーの進化に伴い,国境をまたいで構成されるネットワーク関連発明が増加している。日本国内で提供されるサービスにおいても,端末は日本国内にある一方で,サーバは日本国外にあるケースも多く,このようなサービスに関する発明について,特許権による保護が適切に行われることが重要となる。

     国境をまたいで構成されるネットワーク関連発明については,域外適用や複数主体の観点から特許権侵害に関する議論が行われてきた。しかし,その一方で,特許権侵害が認められた場合の差し止め行為については,十分な議論が行われていない。本稿では,前半で国境をまたいで構成されるネットワーク関連発明の動向と特許権侵害に関する議論について整理を行い,後半では国境をまたいだ知的財産権侵害に関する判例等を参照する形で国境をまたいだ特許権侵害行為の差し止め行為の実現性について考察を行った。

  • 土肥 一史, 茶園 成樹, 上野 達弘, 横山 久芳, 外川 英明, 佐藤 俊司
    2021 年74 巻26 号 p. 189-278
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/18
    ジャーナル フリー

     日本弁理士会中央知的財産研究所では,平成31年度から,土肥一史主任研究員の下,「日本商標法の未来のための方策検討」を課題として研究を行ってきた。その研究成果は別冊パテント第25号において詳細に報告されるとともに,令和3年3月2日に開催された日本弁理士会中央知的財産研究所主催第18回公開フォーラムにおいて,かかる研究成果の中から関心が高いと思われる5つのテーマ,すなわち,「商標・商品等表示の混同が生じない場合の特別な保護」,「悪意の商標出願」,「権利の失効」,「商標法における『不使用の抗弁』について」及び「令和の時代のコンセント制度」について,担当研究員がそれぞれ研究成果の発表を行い,発表後には研究員同士のディスカッションを行った。本報告は第18回公開フォーラムの内容を講演録としてまとめたものである。

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