日本から海外へ侵害品が流出するケースについて、これが特許法上の日本国内での「譲渡」と認められない事案では、日本国内では「輸出」がなされたにとどまり、日本国外で譲渡がなされたことになる。この場合、特許法102条2項の適用においては、輸出そのものによって侵害者が直接に得た利益ではなく、輸出と一連一体の関係にある外国での販売により侵害者が得た利益、すなわち、海外市場を侵奪することによって侵害者が得た利益を「輸出」によって侵害者が得た「利益」と構成するのが相当である。同解釈は、属地主義の原則に反するものではない。なお、特許法102条2項の推定については、侵害者において、権利者製品が輸出されていない仕向国への輸出があることをもって、推定が覆滅されることが考えられるが、ここでは、海外市場を、どのような単位・範囲で捉えるかが問題となる。また、上記の事案では、日本国内では「輸出」がなされたにとどまり「譲渡」はなされていないが、特許法102条1項の類推適用が認められる余地がある。 これに対し、日本国内で「譲渡の申出」がなされ、これを受けて、海外で譲渡がなされ、侵害品が海外から日本に流入し、これにより日本市場が侵奪されたケースでは、譲渡人が海外において販売することにより得た利益を、損害賠償の対象として取り込むことは困難である。 また、国境を越えた取引に係る侵害事案では、海外特許権に対する侵害と日本特許権に対する侵害が競合する場合が考えられる。この場合、損害額について調整が必要となるが、損害の実体が同一であれば、一方の損害賠償請求により賠償額の支払いがなされることにより、既に、損害は回復しており、他方の損害賠償請求については理由がない、ということになる。しかし、各国の損害賠償に関する制度は異なり、また、裁判所の認定判断の内容も、それぞれ異なり得るところであって、海外特許権に対する侵害訴訟と日本特許権に対する侵害訴訟の双方が提起された場合に、認容額が同一となるわけではない。それぞれ訴訟提起がなされ、一方の認容判決が確定して、賠償額の支払いがなされれば、その限度で、他方の訴訟における損害賠償請求には理由がないとの調整がなされることになる。
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