別冊パテント
Online ISSN : 2436-5858
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  • 仮想空間における「実施」を現実社会における「実施」と評価できるか?
    松下 正
    2025 年78 巻31 号 p. 1-13
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー

    仮想空間における発明の実施については、現実世界でも仮想空間でも遊べるゲームなど、ごく例外を除くと、一般的には特許権の効力が及ばないと解されている。本稿では、現実世界におけるコンピュータ関連発明を中心として、具体的な事例を用いてメタバース空間における発明の実施について、検討する。

  • 谷川 和幸
    2025 年78 巻31 号 p. 15-31
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー

    生成AI技術の進展により、創作と享受の両面において著作権法には課題が生じている。創作の場面ではAI生成物の著作物性が議論の的となっている。AIによって生成された具体的表現に対して人間のコントロールが及んでいないことから著作物性を否定する見解が現在は有力である。しかし具体的表現はいくらでもAIが生成してくれる時代には、具体的表現への貢献ではなくむしろその作品に込められたメッセージを考案した貢献こそが重要視されるようになるだろう。このような創作環境の変化はアイディア・表現二分論の見直しにつながる可能性を秘めている。享受の場面ではAIを用いた改変的享受が同一性保持権との関係で問題となる。ファスト映画に代表されるように、「鑑賞から消費へ」の流れの中で様々な著作物が改変して享受される社会状況にある。AIによる編集を活用することで、利用者は自分に最適化された形で情報を得られるようになる。このような利用者側の情報受領の利益と、著作物をその意図通り享受してほしいと願う著作者の利益との対立が生じる。改変的享受の適法性については、ときめきメモリアル事件とTwitterリツイート事件の最高裁判決を踏まえて、誰が改変内容を決定しているのかに着目した規範的改変主体を認定しつつ、「やむを得ないと認められる改変」該当性判断における利益衡量の内実をさらに探究していくことが急務となっている。

  • 矢倉 雄太
    2025 年78 巻31 号 p. 33-51
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー

    メタバースを中心に、今後3Dオブジェクトなどのコンテンツも、一層取引の対象とされ、流通することが想定される。本テーマに関連して、令和5年に不正競争防止法(以下、「不競法」という。)2条1項3号の規制対象行為に「電気通信回線を通じて提供する」行為を追記する改正が行われ、当該改正にあたっては、事前に産業構造審議会知的財産分科会不正競争防止小委員会にて検討が行われてきた。本稿では、同改正の前提として、そもそも同改正前の不競法2条1項3号において、無体物たる3Dオブジェクトが保護され得たのかについて確認したうえで、今般の法改正や不正競争防止小委員会の検討方針の是非について検討する。そのうえで、今般の法改正等により著作権法における主に権利制限規定(第2章第3節第5款)との関係で緊張が生じないかについて検討を加える。最後に、令和5年法改正等により不競法2条1項3号にて無体物たる3Dオブジェクトが保護されることが明確化されたことによりいかなる問題が生起しうるもしくは引き続き残されているのかについて、検討を加える。

  • 前田 健
    2025 年78 巻31 号 p. 53-72
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー

    IoTの時代に属地主義の合理性を問い直す声が高まっているが、属地主義そのものは、条約の要請であり、各国の産業政策の相互尊重・予測可能性確保の観点からも維持すべきである。一方で、特許権の実効性が低下することを防ぐため属地主義の柔軟な運用は必要である。このような観点からは、行為の結果地が専ら日本国内である場合には、日本国内での実施であり日本国の特許権が及ぶと考えることが望ましい。ここでいう行為の結果地とは、実施行為ごとに異なり、「使用」については発明の技術的効果の発現地、「生産」については物の物理的所在地又は「使用」し得る地、「譲渡等」についてはその物に対する占有が生じる地、「譲渡等の申出」についてはその物の占有の移転の蓋然性が生じた地である。行為の結果地が専ら外国の場合は日本国内での実施と認めるべきではないが、日本を含む複数の国に生じている場合には、行為主体が日本に所在している場合には国内での実施と考えてよい。このように考えることで、明確性を確保しつつネットワーク関連事案を含む様々な事案で妥当な帰結を実現できる。このような理解は、ドワンゴ対FC2事件大合議判決とも矛盾しない。

  • 生成AIの時代に知的財産権による保護をどう考えるべきか?
    酒井 將行
    2025 年78 巻31 号 p. 73-105
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー

    2022年11月に、OpenAIから、ChatGPTが発表されて以来、いわゆる「生成AI」と呼ばれる人工知能技術に対する一大ブームが巻き起こった。2024年3月末に特許庁が公表した2024年版の「特許庁ステータスレポート」では、2023年の特許出願件数(出願日ベース)は3年連続で増加し、2019年以来、4年ぶりに30万件を超えたことが報告されている。これまで、特許出願件数で、増えていたのは主に国際特許出願であった。しかし、2023年の国際特許出願は7万5600件で、2022年から横ばいだった。2023年に増えたのは国内出願(国際特許出願を除く特許出願)とのことである。しかも、技術分野からすると、情報通信分野での増加が全体を牽引したようである。同分野には、技術進歩が著しいAI(人工知能)が含まれていることから、件数の増加の一因との指摘もある。一方で、これまでの「データ駆動型人工知能技術」をはじめとして「生成AI」の応用が極めて大きな技術的なインパクトをもつだけでなく、その技術的な応用の速度がこれまでになく速いことを考慮して、どのような知的財産保護を考えるべきなのかについて検討する。

  • 〜ネットワーク関連発明に関する議論を踏まえて〜
    内田 誠
    2025 年78 巻31 号 p. 107-117
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー

    WEB3関連発明は、分散処理が基本になるため、ネットワーク関連発明で問題になる、複数主体による特許権侵害の成否の問題、特許発明の構成要件該当行為の一部が国外で行われた場合の特許権侵害の成否の問題が生じる場合がある。 複数主体による特許権侵害の成否の問題については、①共同直接侵害理論、②道具理論、③支配管理論、④承継的利用の理論、⑤クレーム解釈理論の5つの考え方がありうるが、そのどれか1つに限る必要はなく、また、相互に完全に排他的な関係にはないため、その事案ごとに適切な理論を用いて特許権侵害を肯定できるのであれば、その理論を用いればよいと考える(多元説)。 次に、特許発明の構成要件該当行為の一部が国外で行われた場合の特許権侵害の成否の問題については、諸事情を考慮して、当該行為が日本国の領域で行われたとみることができる場合は、日本国内の実施と評価できる場合があると考える。 WEB3関連発明のノードによる分散処理が関係する特許発明について、複数主体による特許権侵害の成否の問題、特許発明の構成要件該当行為の一部が国外で行われた場合の特許権侵害の成否の問題を上記の観点から検討を行ったが、ネットワーク関連発明の場合と同様に、特許権侵害と構成することは可能であると考える。

  • 柿沼 太一
    2025 年78 巻31 号 p. 119-146
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー

    本稿は、AIと著作権法に関する全体像について簡単に分析した後、生成AIの開発・学習段階における著作物利用行為に焦点をあて、「学習目的による制限」と「学習対象による制限」という視点から分析したものである。「学習目的による制限」については、学習対象著作物の「表現出力目的」と「作風模倣目的」がある場合について検討し、「学習対象による制限」については、問題となることが多い「情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物」「海賊版等の権利侵害複製物」「学習禁止意思が付されている著作物」「学習を防止するための機械可読方法による技術的な措置が付されている著作物」「情報解析用DB著作物以外の著作物・非著作物のうちライセンス市場が形成されているもの」について検討した。さらに、AIの開発・学習段階における著作権法第30条の4に関する検討結果が、AIの生成・利用段階においても基本的に当てはまることを示しつつ、法第30条の4と同じく「情報解析」に関する規定である法第47条の5と法第30条の4の役割分担についても検討した。

  • 森本 純
    2025 年78 巻31 号 p. 147-162
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー

    日本から海外へ侵害品が流出するケースについて、これが特許法上の日本国内での「譲渡」と認められない事案では、日本国内では「輸出」がなされたにとどまり、日本国外で譲渡がなされたことになる。この場合、特許法102条2項の適用においては、輸出そのものによって侵害者が直接に得た利益ではなく、輸出と一連一体の関係にある外国での販売により侵害者が得た利益、すなわち、海外市場を侵奪することによって侵害者が得た利益を「輸出」によって侵害者が得た「利益」と構成するのが相当である。同解釈は、属地主義の原則に反するものではない。なお、特許法102条2項の推定については、侵害者において、権利者製品が輸出されていない仕向国への輸出があることをもって、推定が覆滅されることが考えられるが、ここでは、海外市場を、どのような単位・範囲で捉えるかが問題となる。また、上記の事案では、日本国内では「輸出」がなされたにとどまり「譲渡」はなされていないが、特許法102条1項の類推適用が認められる余地がある。 これに対し、日本国内で「譲渡の申出」がなされ、これを受けて、海外で譲渡がなされ、侵害品が海外から日本に流入し、これにより日本市場が侵奪されたケースでは、譲渡人が海外において販売することにより得た利益を、損害賠償の対象として取り込むことは困難である。 また、国境を越えた取引に係る侵害事案では、海外特許権に対する侵害と日本特許権に対する侵害が競合する場合が考えられる。この場合、損害額について調整が必要となるが、損害の実体が同一であれば、一方の損害賠償請求により賠償額の支払いがなされることにより、既に、損害は回復しており、他方の損害賠償請求については理由がない、ということになる。しかし、各国の損害賠償に関する制度は異なり、また、裁判所の認定判断の内容も、それぞれ異なり得るところであって、海外特許権に対する侵害訴訟と日本特許権に対する侵害訴訟の双方が提起された場合に、認容額が同一となるわけではない。それぞれ訴訟提起がなされ、一方の認容判決が確定して、賠償額の支払いがなされれば、その限度で、他方の訴訟における損害賠償請求には理由がないとの調整がなされることになる。

  • ―ライセンスのあり方及び紛争解決制度に焦点を当てて―
    鈴木 將文
    2025 年78 巻31 号 p. 163-178
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー

    標準必須特許(SEP)に関しては、最近も、欧州、米国、中国、インド等で訴訟が提起されている。また、EU(欧州連合)では欧州委員会の提案に係るSEP規則案が激しい議論を呼んでおり、さらにWTO(世界貿易機関)の紛争解決手続では、EUが中国のSEP関連措置の協定整合性を争う紛争につきパネル審議が行われているなど、国家や地域共同体のレベルでも、様々な動きが進行中である。我が国でも、アップル対サムスン事件の知財高裁判決(2014年)以降目立った判決は出ていないものの、産業界のSEP問題に対する関心は高い。 SEP紛争に関連する法的論点は数多いが、近年は、紛争に関与する業種の拡大等によって新しい問題も生じている。それらは、SEP特有の問題という側面とともに、特許制度一般に関係する問題という側面も持つ。本稿では、近年争点となっている論点のうち、ライセンスのあり方(消尽問題との関係を含む。)と紛争解決制度のあり方に焦点を当てて、検討する。

  • ―仮想空間を念頭に―
    青木 大也
    2025 年78 巻31 号 p. 179-190
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー

    近時、仮想空間にも応用し得るような用途の記述された画像の意匠の登録例が見られるようになってきた。他方、直近の意匠審査基準改訂では、仮想空間に関連する画像の意匠登録出願を念頭に、画像の意匠に関する定義の明確化が図られた。加えて、学説上、画像の意匠が仮想空間上のデザインの利用に影響することについて、懸念を示す向きもある。 本稿はこのような状況に鑑み、仮想空間に関係し得る画像の意匠の取扱いや、近時の意匠審査基準改訂の内容や影響について確認した上で、仮想空間への意匠法の関わり方や、仮にそれを制限する場合のオプション等について検討を加えるものである。

  • ―営業秘密に関する訴えの管轄権および不正競争防止法の国際的適用範囲―
    山根 崇邦
    2025 年78 巻31 号 p. 191-215
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー

    2023年(令和5年)に不正競争防止法が改正され、国境を越える営業秘密侵害に対する民事上の措置として、19条の2(営業秘密に関する訴えの管轄権)および19条の3(適用範囲)の規定が新設された。わが国は、これまで、国境を越える営業秘密侵害に対し、営業秘密侵害罪の国外犯処罰の導入(2005年改正)、国外犯処罰の範囲拡大(2015年改正)、海外重罰化(2015年改正)と、主に刑事上の措置を講じてきた。そうした中で、2023年改正は、国際裁判管轄および不競法の国際的適用範囲に関する規定整備という形で、民事上の措置を講じるものとして注目される。そこで、本稿では、国境を越える営業秘密侵害に対するわが国のこれまでの立法措置の変遷を明らかにした上で、2023年改正の審議会での検討過程を確認し、各種の立法解説も踏まえながら、新法19条の2および19条の3の意義と論点について、詳細な検討を加える。

  • 愛知 靖之
    2025 年78 巻31 号 p. 217-226
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー

    本稿は、メタバース空間内でも用いられるアバターの名称・肖像に関する法的課題のうち知的財産法に関連する主たる論点について検討を行うものである。 具体的には、①アバターの名称・肖像を著作権法・商標法・不正競争防止法等で保護できるか、②アバターによる歌唱・ダンス等を著作隣接権で保護できるか、③アバターの肖像を肖像権・パブリシティ権で保護できるか、④アバターの肖像が実在する他者の肖像と同一である場合、肖像権・パブリシティ権侵害を構成するかという問題について、先行研究を参照しつつ考察した。

  • ―GitHub Copilotに係る紛争からの示唆―
    平嶋 竜太
    2025 年78 巻31 号 p. 227-246
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー

    生成AIと知的財産法を巡っては、目下、多種多様な生成物の法的取扱い及び権利侵害といった問題を中心として、知的財産法各法の領域にわたり様々な議論が生じている状況にある。もっとも、コンピュータ・プログラム言語によるプログラムコードの生成を行うAI(コード生成AI)と著作権法を巡る法的議論については、コンテンツ(画像、音楽等)を生成するAIと著作権法に関する議論と比べると、現状では未だ十分な検討・議論がなされていない状況にあるといえるものの、アメリカでは、コード生成AIと著作権に関する民事訴訟が連邦地裁に係属中であり、法的リスクが表面化しつつある。他方で、コード生成AIの発展・普及が、今後のソフトウエア産業の在り方に対してもたらすインパクトは極めて大きいものであると考えられる。このことは、コード生成AIと著作権法に係る問題を契機として、プログラムを著作物として法的保護を与えることを所与としてきた現行のプログラム保護法制自体の在り方を再考することに繋がる可能性もあるものと考えられる。 以上の問題意識から、本稿では、アメリカにおいて訴訟審理が目下進行中である、GitHub Copilotを巡る事案の検討を糸口として、コンテンツ生成AIとの比較、日本法の下で想定される著作権法上の課題について検討して、コード生成AIと著作権法を巡る法的議論に係る考察を行う。これらを踏まえて、現行の知的財産法制の下でのコンピュータ・プログラムの保護の在り方自体に対する将来的な方向性についても若干の展望を加えるものである。

  • 重冨 貴光
    2025 年78 巻31 号 p. 247-268
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー

    我が国では、AI特許の権利行使に係る侵害訴訟事例は未だ少ないが、侵害論(構成要件充足性・侵害立証)及び無効論(進歩性・記載要件)については、AI技術の特徴(ブラックボックス性・技術進展の急速性)に鑑み、生起し得る固有の論点が存在する。侵害論においては、AI技術のブラックボックス性を踏まえつつ、個別具体的事案の事情如何において侵害立証手段(書類提出命令・査証を含む)の積極的活用が行われてしかるべきである。進歩性要件に関しては、進歩性を肯定するに際し、AI学習過程における所定の技術的所為を要求し、かつ、当該技術的所為に相当する事項を請求項に記載することを要求する傾向にあり、当該技術的所為を施した結果としてAI技術による推定・判定の高精度化を実現するという技術的効果を奏する発明が特許として保護されると評価できる。記載要件に関しては、特定の機能に技術的意義(新規性・進歩性)が認められる場合には、当該機能を実現するためにAI技術を用いること及びその仕組みを記載すれば記載要件を充足すると判断される場合がある。また、記載要件に関するAI特許審査事例に示される「当該複数種類のデータの間に相関関係等の一定の関係」とは、当業者にとってその存在が認識ないし推認できる限り、具体的な相関関係等を明細書に記載することが須く求められるものではないと解される。

  • ―更なる研究―
    鈴木 將文, 矢倉 雄太, 青木 大也, 愛知 靖之, 酒井 將行, 谷川 和幸, 山根 崇邦
    2025 年78 巻31 号 p. 269-414
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー

    中央知的財産研究所では、令和4年11月から、鈴木將文主任研究員の下、「Society 5.0 に適合する知的財産保護の制度のあり方―更なる研究―」を研究課題として研究を行ってきた。その研究成果は本号(別冊パテント第31号)において詳細に報告される。さらに、令和6年2月27日に開催された日本弁理士会中央知的財産研究所主催第21回公開フォーラムにおいて、担当研究員が検討したメタバースやAIなどに関する研究成果の発表が行われた。本報告は第21回公開フォーラムの内容を講演録としてまとめたものである。

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