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Online ISSN : 2436-5858
営業秘密侵害と差止請求
山根 崇邦
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2022 年 75 巻 27 号 p. 229-262

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抄録

 秘密であるところに価値が存する営業秘密にとって,営業秘密が侵害された場合の差止めのあり方は重要な問題である。ひとたび営業秘密が漏えいして拡散してしまうと,事実上その回収が不可能なだけでなく,その経済的価値や競争力が失われ,無価値なものになってしまうからである。それゆえ,営業秘密の不正使用をいかに防ぐことができるか,また,営業秘密を不正使用した製品の製造販売をいかに効果的に差し止めることができるかが,営業秘密保有者にとっては重要となる。もっとも,営業秘密には特許のクレーム制度のようなものがない。そのため,情報の利用を行おうとする者にとってはその保護範囲が明確とは言い難い。営業秘密と関連性が希薄な被告製品にまで差止めの範囲が広がる場合には,営業秘密の保護を超えた過剰な差止めとなるおそれがあろう。このように,営業秘密侵害と差止請求の問題をめぐっては,実効的な保護と過剰な差止めの防止のバランスをいかに実現するかが課題といえる。そこで本稿では,営業秘密侵害に対する差止請求を認容した裁判例の考え方を整理した上で,実務上問題となる論点について検討を加える。

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© 2022 日本弁理士会
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