裁判実務では,一般的に,形式判断ではなく実質判断をすることにより,具体的妥当性を実現することが求められている。延長登録制度に関するこれまでの裁判例でも,事案に応じて実質判断により解決が図られてきた。しかし,延長登録制度は,特許法と薬機法に基づく処分とが交錯する制度であって,薬機法のもと,あくまで処分を単位として医薬品の製造販売の禁止が解除されるなかで,特許法的観点から,いかなる場合であれば,処分内容について実質判断を導入することが可能なのか,また,どのようにして実質判断するのか,という困難な問題がある。
令和3 年3 月に判決言渡しがなされた止痒剤審決取消請求事件判決は,処分内容を実質的に認定判断すべきとして,延長登録要件について判断を示したが,その判決文からは,処分内容の実質判断のもと,処分により禁止が解除された範囲を具体的にどのように捉えたのか,また,処分の対象となった行為が特許発明の実施に該当することについてどのような判断をしたのかが明らかでなく,検討すべき様々な問題を残している。
本稿では,同事件を契機として,延長登録要件<その特許発明の実施に政令処分を受けることが必要であったとは認められないとき>の判断における処分内容の実質の考慮について考察した結果を報告する。
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