別冊パテント
Online ISSN : 2436-5858
75 巻, 27 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
  • 松下 正
    2022 年 75 巻 27 号 p. 1-14
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/24
    ジャーナル フリー

     膨大なデータの収集や管理が可能になったことから,画像認識や予測ができるAI 学習用プログラムの提供が実用的になりつつある。かかるプログラムも自然法則を利用する限り,従来のコンピュータプログラムと同様に特許の保護対象となる。

     ここで,AI 学習用プログラムは,通常のプログラムと異なり,本質は,そのパラメータにある。にもかかわらず,かかるパラメータ(データの集合物)の特許法による保護について,特許制度小委員会報告書案では,前記パラメータは法上の「物」に該当するのか疑義があるため,当該パラメータをネット配信等する行為を侵害とできない問題点について指摘がなされているものの保護すべきか否かについては言及がなされていない。

     本稿では,前記パラメータを,特定の処理を行うプログラムを構築するための専用部品,すなわち,「プログラムの部品」として,「物」の発明に該当すると解釈できないかについて検討する。

  • 山田 威一郎
    2022 年 75 巻 27 号 p. 15-34
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/24
    ジャーナル フリー

     海外の事業者が日本の顧客に対して,日本の産業財産権の侵害品を発送する行為に関し,日本の産業財産権の侵害の成否を考える上では,属地主義との兼ね合いが問題となり,日本における実施行為があるといえない限り,海外の事業者に対し,日本の産業財産権の侵害の責任を問うことはできない。

     この論点に関しては,令和3 年の法改正で,意匠法,商標法における「輸入」行為に「外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為」が含まれることが明示されたほか,特許権侵害の事案では,東京地判令和2 年9 月24 日(平成28 年(ワ)第25436 号,グルタミン酸ナトリウム事件)において,日本における「譲渡等の申出」があったとして,日本における特許権侵害を認める判決が出されている。

     本稿では,これらの近時の動向を踏まえ,日本における特許権・商標権の侵害品が海外から流入する場合の種々の問題点に関し,検討を行う。

  • 前田 健
    2022 年 75 巻 27 号 p. 35-55
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/24
    ジャーナル フリー

     近時,製品(商品及びサービスを含む)の単位・対価関係が明確ではないビジネスモデルの重要性が増している。本稿は,それらの「新たな」ビジネスモデルを①複数の製品の組合せ,②複数の顧客グループの組合せ,③同一顧客グループ内での価格差別に分類し,実際の裁判例を分析して損害額算定上の課題を抽出した。売上げ減少の逸失利益の算定においては,事実的因果関係を有する損害額を算定するために,①権利者製品・侵害者製品の確定,②それら製品の付随品も①に含めてよいか,③侵害がなかった場合に侵害者が提供し得た代替製品の認定が論点となる。議論に際しては,独立かつ完結していると評価し得るものであって支払われる一群の対価が密接不可分といえる範囲のものを,製品の単位と捉えるべきだろう。また,仮に保護範囲を限定する立場を採るなら④売上げに対する知的財産の寄与度の認定も論点になるが,排他権を行使すれば確保し得たすべての逸失利益が保護範囲に含まれると考えるべきだろう。ライセンス料相当額の算定は,理念的には侵害者利益の一部を権利者に分け与えるよう行うべきだが,同様に①~④の要素が重要となる。

  • 酒井 將行
    2022 年 75 巻 27 号 p. 57-97
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/24
    ジャーナル フリー

     工業化社会・情報化社会の次に来るべきソサイエティー5.0 と呼ばれる社会では,いわゆる「データ駆動型人工知能」技術が,その中核の一つを担うものと想定される。ここで,日本の特許制度において,データ駆動型人工知能の知的財産保護という観点で,「学習済みモデル」そのものをプログラムの発明として特許の対象とする,との運用がいち早く採用されている点については,技術開発を行う主体にとっては,大きなメリットと考える。いわゆる「プログラムの特許権」については,侵害摘発の困難性という点から,課題が指摘されることが多いものの,筆者としては,これは,一つには,発明をいかに把握して,クレームドラフトにつなげられるのか,という側面もあるものと考える。しかも,「学習済みモデル」自体が特許適格性を有していることは,クレームドラフトの自由度ないしは保護範囲の拡大という観点から,極めて重要と考える。一方で,「データ駆動型人工知能」のような技術によるサービス提供という観点からは,特許法上の実施行為の概念についての再検討も必要と考える。もっとも,実は,「データ駆動型人工知能」を知的財産権で保護することにより,産業の発達を図る,という観点からは,筆者としては,特に,オープンに学習用データとして利用可能なデータについて,何らかの新たな知的財産権としての保護の必要性を感じており,立法論とはなるものの,その可能性について提案する。

  • 「モノ」から「コト」への産業構造変化を踏まえて
    重冨 貴光
    2022 年 75 巻 27 号 p. 99-122
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/24
    ジャーナル フリー

     第4 次産業革命としてAI・IoT 技術が進展し,産業構造が「モノ」から「コト」に急激に変化し,新たなサービスに向けた技術開発が従来にもまして活発化する中,サービスの提供に向けられた特許として,方法特許の効力をどのように考えるべきかという問題意識が生じている。

     物の特許の実施品(方法特許の専用品)を譲渡した場合において,当該物を使用する方法特許が消尽するかという論点については,産業構造の変化を踏まえつつ,サービス提供手段に係る物の開発製造業者に開発成果に対する代償が還流される仕組み作りを行うべく,少なくとも一定の場合には方法特許について消尽を否定する解釈論を明確化することが望ましい。消尽しない方法特許発明の選別手法として,方法特許発明の使用態様(同時に2 以上の複数拠点に対して方法の使用がされているか否か)を判断基準として採用するアプローチ(方法の使用態様基準アプローチ)を採用することが望ましい。

  • 森本 純
    2022 年 75 巻 27 号 p. 123-142
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/24
    ジャーナル フリー

     裁判実務では,一般的に,形式判断ではなく実質判断をすることにより,具体的妥当性を実現することが求められている。延長登録制度に関するこれまでの裁判例でも,事案に応じて実質判断により解決が図られてきた。しかし,延長登録制度は,特許法と薬機法に基づく処分とが交錯する制度であって,薬機法のもと,あくまで処分を単位として医薬品の製造販売の禁止が解除されるなかで,特許法的観点から,いかなる場合であれば,処分内容について実質判断を導入することが可能なのか,また,どのようにして実質判断するのか,という困難な問題がある。

     令和3 年3 月に判決言渡しがなされた止痒剤審決取消請求事件判決は,処分内容を実質的に認定判断すべきとして,延長登録要件について判断を示したが,その判決文からは,処分内容の実質判断のもと,処分により禁止が解除された範囲を具体的にどのように捉えたのか,また,処分の対象となった行為が特許発明の実施に該当することについてどのような判断をしたのかが明らかでなく,検討すべき様々な問題を残している。

     本稿では,同事件を契機として,延長登録要件<その特許発明の実施に政令処分を受けることが必要であったとは認められないとき>の判断における処分内容の実質の考慮について考察した結果を報告する。

  • ―育成者権行使における「現物主義」―
    愛知 靖之
    2022 年 75 巻 27 号 p. 143-154
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/24
    ジャーナル フリー

     本稿は,令和2 年種苗法改正により,侵害訴訟における育成者権者の侵害立証の負担を軽減し,育成者権の活用促進を図るために導入された35 条の2 を1 つの手がかりとして,改正種苗法下における「現物主義」の意義や育成者権行使のあり方について検討を行うものである。

     検討に際しては,育成者権の本質及び種苗法が規定する権利の効力範囲の趣旨にも留意しつつ,十全な育成者権保護による新品種育成に向けたインセンティブ保障の要請と特性表による開示を信頼した者に対する行為自由の保障の要請とを調和させる権利行使のあり方を模索する。

  • 鈴木 將文
    2022 年 75 巻 27 号 p. 155-169
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/24
    ジャーナル フリー

     インターネットの普及に伴い,インターネットへの接続やコンテンツの保存・公衆への送信等のサービスを提供するプロバイダにいかなる役割と責任を負わせるかが,重要な課題と位置づけられてきた。そして,我が国を含む主要国では,2000 年代初めころまでに,一応の法制度が構築された。

     しかし,近年,YouTube 等の,ユーザーが投稿するコンテンツを提供する大規模なプロバイダ(プラットフォーマー)の伸張等を背景として,その責任について新しい規律を導入する動きが,特にEU で見られる。具体的には,特に著作権との関係において,大規模なプラットフォーマーには,侵害を抑止する面のみならず,コンテンツの発信による利益を本来の創作者に適切に還元するという面においても,加重的な役割と責任を課すというものである。

     本稿では,プロバイダの責任に関するこれまでの制度構築の経緯を簡単に振り返ったうえで,プラットフォーマーに係るEU の新しい動きを紹介し,我が国の今後の対応についても若干の提言を行う。

  • ―Google v. Oracle 事件連邦最高裁判決を基点とした検討
    平嶋 竜太
    2022 年 75 巻 27 号 p. 171-197
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/24
    ジャーナル フリー

     2021 年4 月にアメリカの連邦最高裁で下されたGoogle v. Oracle 事件判決は,コンピュータ・プログラムのアプリケーションインタフェースの利用を巡って,アメリカ著作権法におけるfair use 法理を適用して注目される判断を示した事案である一方で,日本法に対しても多くの示唆をもたらしうる事案であると考えられる。本稿は,情報技術を実装する上で不可欠な要素であるソフトウエア技術に係る著作権のエンフォースメントと情報技術イノヴェーションのあり方を考察する基点として,同判決の検討と課題の分析,さらに日本法の文脈に適用した考察を行うことで,情報技術分野におけるイノヴェーションの促進と著作権のエンフォースメントに係る調整法理のあり方について,その方向性を様々な観点から模索することを主たる目的とするものである。

  • ―免疫関連分野の発明を題材にして―
    細田 芳徳
    2022 年 75 巻 27 号 p. 199-228
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/24
    ジャーナル フリー

     内在特性を備えた物の新規性や当該内在特性により導かれる用途発明の新規性は,化学・バイオ分野に特有な問題であり,なかでも当業者にとって認識困難な内在特性に対する扱いには,従来から種々の立場の解釈があり,見解も分かれやすい。すなわち,内在特性について出願後に追試実験データを参酌して判断することの可否や,例えば,美白化粧料が公知の場合に,同じ成分からなるシワ抑制用化粧料の発明に新規性を肯定することの是非は,議論の多いところである。今回,技術的に未解明な要素が比較的多い免疫関連分野の発明に関する最近の裁判例(IL-17 産生の阻害事件,IL-2 改変体事件,及びワクチン組成物事件)を例にして,特に,用途発明に焦点をあてて,これらの問題点を検討した。本稿では,従前からの見解と対比検討をしながら,多少異なる視点から,新規性についての見解の提示を試みた。

  • 山根 崇邦
    2022 年 75 巻 27 号 p. 229-262
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/24
    ジャーナル フリー

     秘密であるところに価値が存する営業秘密にとって,営業秘密が侵害された場合の差止めのあり方は重要な問題である。ひとたび営業秘密が漏えいして拡散してしまうと,事実上その回収が不可能なだけでなく,その経済的価値や競争力が失われ,無価値なものになってしまうからである。それゆえ,営業秘密の不正使用をいかに防ぐことができるか,また,営業秘密を不正使用した製品の製造販売をいかに効果的に差し止めることができるかが,営業秘密保有者にとっては重要となる。もっとも,営業秘密には特許のクレーム制度のようなものがない。そのため,情報の利用を行おうとする者にとってはその保護範囲が明確とは言い難い。営業秘密と関連性が希薄な被告製品にまで差止めの範囲が広がる場合には,営業秘密の保護を超えた過剰な差止めとなるおそれがあろう。このように,営業秘密侵害と差止請求の問題をめぐっては,実効的な保護と過剰な差止めの防止のバランスをいかに実現するかが課題といえる。そこで本稿では,営業秘密侵害に対する差止請求を認容した裁判例の考え方を整理した上で,実務上問題となる論点について検討を加える。

  • 青木 大也
    2022 年 75 巻 27 号 p. 263-275
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/24
    ジャーナル フリー

     令和元年意匠法改正によって3 つの新しい意匠(建築物の意匠,内装の意匠,画像の意匠)の登録が認められるようになり,これらの登録数についても,引き続き増加している状況である。しかし,新しい意匠に係る意匠権の権利行使の場面に関する議論は十分ではなく,本稿はその権利行使における留意点を探究するものである。

     具体的には,各々の新しい意匠の実施概念と侵害時における類否判断について,従来の物品の意匠と異なる点に注目して検討を加えた。また,更に視認性や消尽といった事項についても,物品の意匠との違いを意識しつつ可能な限りで検討を加えた。

  • 松下 正, 前田 健, 重冨 貴光, 森本 純, 青木 大也, 鈴木 將文
    2022 年 75 巻 27 号 p. 277-379
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/24
    ジャーナル フリー

     日本弁理士会中央知的財産研究所では,令和2 年11 月から,鈴木將文主任研究員の下,「知的財産権のエンフォースメントの新しい地平」を研究課題として研究を行ってきた。その研究成果は本号(別冊パテント第27 号)において詳細に報告される。

     さらに,令和4 年3 月8 日に開催された日本弁理士会中央知的財産研究所主催第19 回公開フォーラムにおいて,研究成果の一部(学習済みプログラムのパラメータの保護,多様なビジネスモデルの下での損害賠償,方法特許の消尽論,特許権の延長登録制度,および新意匠に係る権利行使に関する研究)について,それぞれを担当した研究員から発表が行われた。本報告は第19 回公開フォーラムの内容を講演録としてまとめたものである。

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