特許法79条に規定する要件及びウォーキングビーム事件最高裁判決の立場から先使用権を認めるためには、被告は、①被告が出願前に実施していた行為(製品等の具体的実施形式)を明らかにし、②それが事業(又は事業の準備)として行われ、事業の目的の範囲内であって、③被告製品が出願前の先使用発明の範囲内であること、④その発明は独自発明であることを主張立証する必要がある。実際の裁判例をみると、特に①の具体的実施形式から③のこれに具現された先使用発明を認定することは、必ずしも容易ではないところ、実施形式の変更の場合に先使用権が肯定されるのは、(ⅰ)先使用発明Aが特許発明Xの範囲と一致する場合(X=A)又は(ⅱ)先使用発明Aが特許発明Xの一部にすぎない場合(X>A)における被告製品Yが先使用発明Aの範囲に属する場合(Y≦A)でなければならない。本稿では、現行法と最高裁判例が求める要件・効果を整理し、その立場から主張立証すべき事項を明らかにするとともに、その問題点を検討する。