標準必須特許(SEP)については、その権利行使の在り方について、様々な議論がなされてきた。その中のひとつとして、SEPについて消尽を見直すべきではないかという議論が、近年、生じている。
近年のデジタル化、AIやIoTの普及に伴い、特許製品を用いて大きな利益を上げるデジタルサービス提供事業者が現れ、特許権者がSEPの実施権を許諾した時点(または特許権者が特許品を自ら流通に置いた時点)では、製品に係る最終的な利益が予測困難であり、SEPによる二度目の収益確保の機会を認めるべきではないかという議論である。
一方、商取引のサプライチェーンを形成するうえで、特許権の消尽は非常に重要な役割を果たしてきた。特に企業間の商取引ではサプライチェーンにおいて連鎖的に第三者特許の補償を行うエコシステムが形成される場合が多く、その際に特許権の消尽は極めて重要である。
また、標準化の意義について考えた場合、標準化は皆で使う技術を統一的に策定してその便益を社会全体で享受する仕組みであり、SEPは、特許によって標準化技術の普及や社会全体での標準化技術の便益の享受が阻害されることがないように、その存在の申告やFRAND宣言がなされた特許である。
そこで、本稿は、実際の商取引において消尽が果たす役割と、標準化の意義から、SEPについて消尽を見直すべきか否かについて考察する。
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