別冊パテント
Online ISSN : 2436-5858
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  • ―主張立証責任を中心に―
    髙部 眞規子
    2024 年 77 巻 30 号 p. 1-19
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/17
    ジャーナル フリー

     特許法79条に規定する要件及びウォーキングビーム事件最高裁判決の立場から先使用権を認めるためには、被告は、①被告が出願前に実施していた行為(製品等の具体的実施形式)を明らかにし、②それが事業(又は事業の準備)として行われ、事業の目的の範囲内であって、③被告製品が出願前の先使用発明の範囲内であること、④その発明は独自発明であることを主張立証する必要がある。実際の裁判例をみると、特に①の具体的実施形式から③のこれに具現された先使用発明を認定することは、必ずしも容易ではないところ、実施形式の変更の場合に先使用権が肯定されるのは、(ⅰ)先使用発明Aが特許発明Xの範囲と一致する場合(X=A)又は(ⅱ)先使用発明Aが特許発明Xの一部にすぎない場合(X>A)における被告製品Yが先使用発明Aの範囲に属する場合(Y≦A)でなければならない。本稿では、現行法と最高裁判例が求める要件・効果を整理し、その立場から主張立証すべき事項を明らかにするとともに、その問題点を検討する。

  • ―予測可能性のある制度に向けて―
    田村 善之
    2024 年 77 巻 30 号 p. 21-28
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/17
    ジャーナル フリー

     現行法の条文とそれに基づく通説的な見解には、第一に、先使用発明と特許発明の同一性を要求する、第二に、そもそも先使用者が独自に発明をなしていることを要求する、第三に、利用発明への実施形式の変更を許さない、という問題があり、制度趣旨に適合しないほど先使用者の予測可能性を低めている。とりわけ発明の同一性要件は、先使用権をしてその成否が偶然に左右されるギャンブルのような非合理な制度に堕すものであり、先使用権の制度を設けておきながら、あえてそのような制約を課す意義が問われなければならない。本稿はこのような問題意識の下、立法論を含めて、望ましい先使用権制度の将来像を展開することを目的とする。

  • ―特許権の緩慢な死?
    井関 涼子
    2024 年 77 巻 30 号 p. 29-46
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/17
    ジャーナル フリー

     先使用権制度については、古く戦前から論じられ多くの優れた論考があり、確立し広く受容されている最高裁判決もあって、既に論じ尽くされているという感もある。それにもかかわらず、現在、先使用権が改めて脚光を浴びているのは、最近、オープン・クローズ戦略をとる企業が発明を秘匿化した上で、他社の特許権から先使用権で守ろうとする傾向や、パラメータ特許から従来技術を守るために先使用権を活用するというケースが問題とされているからである。このような場面で利用するために、先使用権を緩やかに認めようとする学説が主張されている。しかし、特許権者と出願前の実施者とのバランスを図り公平を期すことを目的とする先使用権制度において、先使用権を強めることは、特許権を弱体化させることに繋がる。本稿は、先使用権制度がどのように両者のバランスを図ろうとしているのか、その制度趣旨を確認し、この制度趣旨から一貫する解釈として、現在争われている論点をどのように解するのが妥当であるのかを考察する。

  • ―解釈論と立法論の双方に焦点を当てて―
    横山 久芳
    2024 年 77 巻 30 号 p. 47-61
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/17
    ジャーナル フリー

     先使用権が主張される場合には、(A)先使用者が開発した技術と同一内容の技術に他者が特許権を取得した場合と、(B)先使用者が自社技術を実施する過程で発明として認識していなかった技術に他者が特許権を取得した場合とがある。現行法は、特許発明と同一の発明を独立に完成させたことを先使用権の要件と規定していることから(A)の場合を念頭に立法化されていると考えられ、最高裁も(A)の場合に適合的な解釈基準を定立している。本稿は、現行法下の先使用権制度の趣旨を「発明の奨励」と捉える立場から、(A)の場合を念頭に置いた現行法の解釈のあり方を論じるとともに、立法論として、現行法とは別に、 (B)の場合を想定したルールのあり方を検討するものである。

  • ―オープン・クローズ戦略にも役立つ先使用―
    吉田 和彦
    2024 年 77 巻 30 号 p. 63-78
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/17
    ジャーナル フリー

     「イノベーションに資する技術情報の開発・活用」に、先使用権制度を活用することができるし、活用すべきであろう。この点に関連し、以下の提言をする。

     先使用権の成立要件のうち、「発明」の「実施」については、侵害行為を認定する場合と同様、客観的に技術的思想が物又は方法で利用されていることで足り、実施者の発明の実施の認識は不要と解すべきである。

     先使用権者の物又は方法において、具体的な実施形式が変更された場合、変更後の実施形式についても、先使用権を認める(=特許発明の技術的範囲内全体で先使用権を認める)ことも検討すべきであろう。このように解することにより、先使用権者が創造力を発揮すればするほど、先使用権が認められなくなる現象(実施形式の変更におけるパラドックス)を防止でき、安心してオープン・クローズ戦略を勧められるのではないか。

     発明の実施である事業の準備については、実施の意図が客観的に認定できるような、発明の実施である事業の開始に向けた何らかの客観的な実践がされれば足り、文字どおり「即時」に実施される状況は不要ではないか。

  • ―事業の保護の観点から―
    加藤 志麻子
    2024 年 77 巻 30 号 p. 79-91
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/17
    ジャーナル フリー

     先使用権が問題となる状況には種々あるが、継続的にある態様に基づく製品等を製造、販売し続けていたが、偶発的かつ事後的に他社の予期しない発明(特にパラメータ発明)の技術的範囲に属してしまうという態様が、事業との関係で問題になるように思われる。先使用権の成立要件の中では、「特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし」の要件の成立をどのように考えるかについて議論があり、ピタバスタチン事件控訴審判決においては、先使用権主張の根拠とする、本件出願前に製造されていた製品に対して、これに具現された技術的思想が特許出願に係る発明と同じでなければならないとの判示がされている。しかし、上記のような態様において、「その発明」をしたこと及びこれを完成したことについては、①特許発明に係る出願がされる前の被疑侵害者の実施態様が、特許出願に係る発明に含まれること、及び②被疑侵害者(あるいは他者)が開発し決定した当該実施態様を、本件出願前から被疑侵害行為が認められた時まで、継続して実施していることが立証されれば十分であるように思われる。このように考えることが、特許発明に係る出願がなされる前から、同じ製品の製造(あるいはその準備)を継続させてきた企業の事業を守ることに資するであろうし、また、ひいては産業の発展に寄与すると考える。

  • ―「その発明をし」の要件を中心に―
    梶並 彰一郎
    2024 年 77 巻 30 号 p. 93-103
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/17
    ジャーナル フリー

     昨今、いわゆるオープン・クローズ戦略との関係で、先使用権がどのような場面で認められるのかについての注目が高まっているところであるが、先使用権に関しては、特許法79条について、様々な解釈がある。本稿では、まず、特許法79条が定める要件について、条文と最高裁判例の判示内容を改めて確認するとともに、特に、「その発明をし」の要件について、どのように解釈をすべきかについて検討する(本稿は「その発明」とは「特許出願に係る発明」を意味するとの立場である。)。他方で、一般的に、先使用権の成立要件等について議論がされる場面は、特定の特許権について紛争が生じた後に、当該特許権の特許出願の際にどのような事実関係があったのかを事後的に検討するものであるが、先使用権により自社の発明や事業を保護しようとする企業等の視点はこれとは異なっている。そこで、そのような企業等の視点に立ったときに何をすることができるのかについて整理する。そのうえで、現行の先使用権の制度の課題と今後について検討する。

  • ―消尽回避使用権ライセンス契約の政策整合性―
    竹中 俊子
    2024 年 77 巻 30 号 p. 105-121
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/17
    ジャーナル フリー

     デジタルトランスフォーメーション(DX)によって、企業のビジネスモデルはモノからコト(サービス)の販売にビジネスモデルを変えるサービス化が加速している。さらに、所有権を中心とした社会から使用権を中心とした社会に変革し、モノを所有しないシェアリングエコノミーが拡大している。本稿では、イングランドのコモンローに起源を持つ譲渡制限法理に基づく米国特許法における消尽理論の政策、適用要件、サービス化への影響を解説する。また消尽理論適用を回避するために提案された契約フレームワークと特許法のみならず、消尽理論と関連する共創イノベーション政策、循環経済移行政策との整合性について分析する。

  • 佐藤 英二郎
    2024 年 77 巻 30 号 p. 123-136
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/17
    ジャーナル フリー

     標準必須特許(SEP)については、その権利行使の在り方について、様々な議論がなされてきた。その中のひとつとして、SEPについて消尽を見直すべきではないかという議論が、近年、生じている。

     近年のデジタル化、AIやIoTの普及に伴い、特許製品を用いて大きな利益を上げるデジタルサービス提供事業者が現れ、特許権者がSEPの実施権を許諾した時点(または特許権者が特許品を自ら流通に置いた時点)では、製品に係る最終的な利益が予測困難であり、SEPによる二度目の収益確保の機会を認めるべきではないかという議論である。

     一方、商取引のサプライチェーンを形成するうえで、特許権の消尽は非常に重要な役割を果たしてきた。特に企業間の商取引ではサプライチェーンにおいて連鎖的に第三者特許の補償を行うエコシステムが形成される場合が多く、その際に特許権の消尽は極めて重要である。

     また、標準化の意義について考えた場合、標準化は皆で使う技術を統一的に策定してその便益を社会全体で享受する仕組みであり、SEPは、特許によって標準化技術の普及や社会全体での標準化技術の便益の享受が阻害されることがないように、その存在の申告やFRAND宣言がなされた特許である。

     そこで、本稿は、実際の商取引において消尽が果たす役割と、標準化の意義から、SEPについて消尽を見直すべきか否かについて考察する。

  • 山田 くみ子
    2024 年 77 巻 30 号 p. 137-149
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/17
    ジャーナル フリー

     このところ、産業構造の変化に応じて、特許を始めとする知的財産権の消尽の在り方について、見直しの議論などが活発になってきている。日本では消尽についてBBS並行輸入事件最高裁判決で、ほぼ確立されている。一方、英国では、もともと判例法主義の国であることから判例の積み重ねによるImplied Licenceがある一方、EUに加盟していたため、EU法からくるExhaustion(消尽)の考え方も並存している。さらに、英国は、いわゆるBREXITにより2021年からEUを離脱したため、EU法の拘束を受けなくなった一方、北アイルランド議定書の存在により、複雑な事情を抱えている。UKIPO(英国知的財産庁)は、2021年6月に、今後の英国における消尽の在り方につき、意見募集を行った。本稿では、こうした英国における消尽の考え方につき、幾つかの判例を紹介するとともに、英国における消尽の現状、UKIPOの行った意見募集結果などを紹介することで、消尽の在り方を考える一助とできればと考えている。

  • ―ディープテック領域におけるイノベーション保護を中心に―
    森田 裕
    2024 年 77 巻 30 号 p. 151-165
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/17
    ジャーナル フリー

     特許制度の特徴を生かし、出願人が制度の恩恵を最大限に受けることが、イノベーションの十分な保護につながる。また、特許制度による法律的保護のみならず、ノウハウの秘匿化による原理的な模倣不可能性を担保することもイノベーションの十分な保護には必要である。この観点から、我が国の特許制度及びその運用をどのように変えるとよいかを考察した。

     具体的には、ディープテック領域におけるイノベーション保護に係る特許制度上の課題を論じた上で、特許制度上、最も保護利益の大きな発明の種類とその特徴を特定する。その上で、現在の特許制度における課題とその解決策について論じる。

  • 高林 龍, 田村 善之, 井関 涼子, 髙部 眞規子, 佐藤 英二郎, 梶並 彰一郎, 森田 裕
    2024 年 77 巻 30 号 p. 167-276
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/17
    ジャーナル フリー

     中央知的財産研究所では、令和3年12月から、高林龍主任研究員の下、「イノベーションに資する技術情報の活用方策―先使用、ライセンス、消尽の視点を中心に―」を研究課題として研究を行ってきた。その研究成果は本号(別冊パテント第30号)において詳細に報告されている。この報告に先立ち、令和5年3月3日に日本弁理士会中央知的財産研究所主催第20回公開フォーラム「先使用権―主要論点 大激論」と題して、先使用権についての基調講演と、この基調講演を受けて、先使用権の主要な論点について学者、実務家、元裁判官、企業人を含む論客が激論を交わすパネルディスカッションとが行われた。本報告はその内容を講演録としてまとめたものである。

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