別冊パテント
Online ISSN : 2436-5858
AI特許の権利行使に関する諸問題
重冨 貴光
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2025 年 78 巻 31 号 p. 247-268

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抄録

我が国では、AI特許の権利行使に係る侵害訴訟事例は未だ少ないが、侵害論(構成要件充足性・侵害立証)及び無効論(進歩性・記載要件)については、AI技術の特徴(ブラックボックス性・技術進展の急速性)に鑑み、生起し得る固有の論点が存在する。侵害論においては、AI技術のブラックボックス性を踏まえつつ、個別具体的事案の事情如何において侵害立証手段(書類提出命令・査証を含む)の積極的活用が行われてしかるべきである。進歩性要件に関しては、進歩性を肯定するに際し、AI学習過程における所定の技術的所為を要求し、かつ、当該技術的所為に相当する事項を請求項に記載することを要求する傾向にあり、当該技術的所為を施した結果としてAI技術による推定・判定の高精度化を実現するという技術的効果を奏する発明が特許として保護されると評価できる。記載要件に関しては、特定の機能に技術的意義(新規性・進歩性)が認められる場合には、当該機能を実現するためにAI技術を用いること及びその仕組みを記載すれば記載要件を充足すると判断される場合がある。また、記載要件に関するAI特許審査事例に示される「当該複数種類のデータの間に相関関係等の一定の関係」とは、当業者にとってその存在が認識ないし推認できる限り、具体的な相関関係等を明細書に記載することが須く求められるものではないと解される。

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