抄録
ジルコニア(ZrO2)の正方相は熱力学的には準安定相であり、その安定性は安定化剤の組成と結晶粒径に依存すると考えられている.我々は、ゲート絶縁膜やバッファ層としての応用が重要となる薄膜の形態において、(1)安定化剤を用いずに膜厚によって正方-単斜相転移を凍結できること、(2)高誘電率と低リーク電流密度を併せ持つ優れた界面電気特性を示すことを見出した.本研究ではZrO2超薄膜正方-単斜二相共存組織ついて明らかになった知見について報告する。(001)Si 基板上にPLD 法で[001]軸方向にエピタキシャル成長したノンドープZrO2超薄膜を用い、収差補正HRTEM(300kV、TITAN80-300)法で評価した。像コントラストはZrO2/Si 積層モデルを用いMultislice 法によって解析した。膜厚2nm のZrO2薄膜において正方相マトリックス中に5-10nm 程度の大きさの単斜相が析出した二相共存組織を形成した。界面はミスフィット転位を伴わない整合界面であった。しかし、両相間の原子変位量の変化から界面に沿って約1.5nm の厚さの構造遷移層が存在すること、また、その内部でZr 原子が徐々に交互に逆向きに変位して単斜相へ構造変化していることから、正方-単斜相転移が途中で凍結された状態が保存されていることが明らかになった。