抄録
SiCは硬度,熱伝導率,高温強度及び化学的安定性に優れており,シリコンと近い熱膨張係数を有するため,高温,腐食性雰囲気である半導体製造装置チャンバーやエッチング用トレーなどに応用されている.しかし,SiCの破壊靱性(2~3 MPam1/2)が低いため,精密加工中にクラックやチッピングが発生しやすい.一方,高強度,高弾性及び高アスペクト比を有するカーボンナノチューブの一種であるカーボンナノファイバー(CNF)はセラミックスなどの強化材として有望とされている.そこで,SiCの破壊靱性を高めるために,SiCへCNFの複合化を試みた.複合化はSiCとCNFの混合スラリーを調製し,ゲルキャスティング後,Ar中で焼成することで行った.そして,複合体の焼結挙動及び機械的性質に与えるCNFの影響を検討した.作製したCNF/SiC成形体にはCNFが均一分散し,2150℃で複合体の相対密度はCNF添加量に係わらず98%以上に達した.また,3wt%CNT/SiC複合体の破壊靱性は4.5MPam1/2であり,CNF無添加SiC焼結体より50%向上した.CNT/SiC複合体の破壊靱性が向上したのは均一分散したCNFのPulloutあるいはbridging効果が主な要因と考えられるが,SiC粒子三重点に存在しているカーボン凝集体が進展してくるクラックを一時的にピンニングすることによる寄与も考えられる.