公共選択の研究
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規範政治学試論
田中 宏
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1986 年 1986 巻 8 号 p. 40-46

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抄録

政治権力の行使はどのような場合に, またどの程度まで正当化されうるか.これが本稿の問題である.この問いに答えるには政治や権力という基本概念を明確にする必要がある.これらの概念を個々人の合理的な選択行動の想定の上に定式化することが本稿のもうひとつの目的である.
政治とは所与の目的を集団行動によって達成することと規定するが, その際人々に強制力を行使し, 以て集団行動に駆り立てることを必要不可欠の契機と考える.ここに強制力ということであるが, 主体Aが主体Bを強制するということを, AがBの与件を操作してBの状態を悪化せしめるとともにAの状態を良化することと規定する.Aを集団とし, Bをその集団の任意の個々の構成員とするならば, それが政治権力の行使である.
政治権力の行使が正当化されるのは, ソーシャル・ディレンマからの脱却に使用される場合であり, またその場合に限られる.ここにソーシャル・ディレンマとは, 公益が潜在的にあるにもかかわらず, その実現において各構成員がフリー・ライダーになってしまい, 結局公益は実現されずに終わる情況をさす.
強制力の行使が正当化されるのは, このフリー・ライダーの発生を防止し, 以て公益の実現をはかることに局限さるべきである.すなわち, 個々の構成員がフリー・ライダーになるのが割りに合わないように, 集団全体が, 意図して個々の成員の与件を操作することである.ここに与件操作の程度はthe social net gainを最大化するように, あるいはそれと同義であるが, フリー・ライダー防止のコストを最小化するように定められる.したがって, 公益に対する欲求の度合が小であればあるほど, またフリー・ライダーの防止の限界費用が大であればあるほど, 公益は実現されずに終わる公算が大となる.

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© 「公共選択の研究」編集委員会
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