公共選択の研究
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財政錯覚下における投票者行動
横山 彰
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1986 年 1986 巻 8 号 p. 47-52

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抄録

West and Winer (1980) は, 中位投票者モデルの枠組みの中で, 財政錯覚 (財政の収益と負担に関する有権者の体系的な知覚の誤り) には公共サービスの便益錯覚と租税錯覚の両面があり, 財政錯覚が予算規模の拡大を含意するものだけに限られない点を指摘した.彼らのモデルでは, 予算規模は中位投票者の知覚租税価格に依存するという形で, 政府行動が明示的に扱われている.しかし, 政府行動を特定化する前に, 財政錯覚下における投票者行動をより詳細に分析することが不可欠である.ここでは, Denzau and Mackay (1976, 1980) のモデルを財政錯覚に応用し, 財政制度の変更に伴う財政錯覚の変化によって, 有権者の最適予算規模がどのように変化するかを検討する.
有権者の知覚公共サービスの需要が弾力的 (非弾力的) ならば, 現実便益の知覚度の増大ないし現実租税価格の知覚度の減少によって, 彼の最適予算規模は増大 (減少) する.したがって, 知覚公共サービスの需要弾力性いかんで, 財政錯覚の変化が有権者の最適予算規模に及ぼす影響は異なることになる.
次いで, 租税制度の変更が財政錯覚に及ぼす効果を明示的に想定したうえで, 税率構造の変更が有権者の租税シェアの変化を通じ財政錯覚に影響を与え最終的に彼の最適予算規模にいかなる効果を及ぼすかを提示する.Bergstrom (1973) のレンマ1を利用して, 税率構造の変化が財政錯覚下における有権者の最適予算規模に及ぼす影響は, 課税ベース (消費あるいは所得) 分布における有権者の位置や彼の負担する租税額に占める消費税額のウエイトに依存することが示される.つまり, 有権者の消費水準がθ次の平均消費水準〓より小 (大) さい場合, 彼の負担する租税額に占める消費税比率が, 租税錯覚を決めるパラメータに依存する定数値より小であれば, 彼の最適予算規模は減少 (増大) することが明らかにできる.

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© 「公共選択の研究」編集委員会
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