1993 年 42 巻 p. 192-196
症例は71歳男性。腹部腫瘤を主訴に当科に入院した。心窩部に小児頭大,左臍下部に手拳大の弾性のある腫瘤を触知した。胃X線造影,内視鏡で,体上部から前庭部にかけて,後壁側より著明な壁外性圧排を認めた。腹部CT,MRIでは,最長径約21cmの内部多房性の腫瘤が,周辺臓器を圧排して認められた。腹部血管造影では,左胃動脈の分枝の全体的な伸長を認めたが,濃染像はなかった。小網もしくは胃小彎側原発の腫瘍を疑い,腫瘤摘出術を施行した。腫瘤は胃の小彎側で一体となり,剥離不能のため,合併胃亜全摘術を行った。摘出された腫瘤は19×17×6cmで,漿膜下層を主座として壁外性に発育し,内腔に血液が貯留していた。組織学的には不規則に拡張した管腔構造を認め,大部分は一層の内皮細胞で囲まれた海綿状血管腫の像を示したが,一部に平滑筋組織が介在しており,血管腫と診断した。胃血管腫は本邦で119例が報告されているが,最長径が10cmを超えるものは10例とまれであり報告した。