日本歯周病学会会誌
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総説
レーザーやLED等の光エネルギーの歯周・インプラント周囲組織への応用に関する研究
青木 章
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2015 年 57 巻 1 号 p. 1-10

詳細

はじめに

歯周病は,我が国の成人に蔓延している生活習慣病の一つであり,近年,全身疾患と深い関わりがあることが多数報告されている。急速な高齢社会が進む日本にとって,全身の健康を維持するために歯周病のコントロールは不可欠である。

歯周治療・インプラント周囲治療においては,従来,機械的治療(mechanical therapy)が中心であり,近年では,侵襲性歯周炎や重度の歯周炎の治療に,抗菌薬や抗炎症薬を用いた化学療法(chemotherapy)が一部に導入され,機械-化学療法(mechano-chemotherapy)が行なわれるようになりつつある。一方で,20年以上前から広義の光治療(phototherapy)として,各種のレーザーが取り入れられ,最近ではLEDも含め,光エネルギーが治療に用いられる機会が増加しつつあり,一部の臨床家において,治療様式は,機械-化学-光療法(mechano-chemo-phototherapy)の段階へと発展しつつある。今日,様々な分野において光エネルギーの応用が急速に進歩しており,医科においてレーザーは,皮膚科における各種の審美治療,眼科における網膜の出血部の凝固,さらに近視治療などにおいて必須の治療手段となっている。

本総説では,レーザー/LED等の光エネルギーの歯周・インプラント周囲組織への効果に関する基礎的エビデンスについて解説する。

レーザーの発振原理と特性

レーザーは,アインシュタインによりその存在が予測され,1960年にMaimanにより,世界で初めてルビー・レーザーとして発振された1)。レーザーとは人工的に作り出された光で,Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation(電磁波の誘導放出による光の増幅)の頭字語(LASER)である。通常,励起状態にある核外電子にさらに外部からエネルギーが与えられると,基底状態に移る際に,それと同じ位相・周波数のエネルギー(光)を放出する「誘導放出」と呼ばれる現象を示すが,レーザーはこの誘導放出を利用して増幅された光で,同じ波長で位相のそろった光を発振する。

レーザー光は,位相性(可干渉性;coherence),指向性(collimation),単色性(monochromaticity)という光学上の3大特性を有するため,位相のそろった秩序正しい波で,集光し,単一の波長を有しており,低いエネルギーで効率的に組織を蒸散することができる。また,波長によっては組織深達性が高く,組織深部に直接効果を及ぼすことも可能である。

一方,LED(light emitting diode;発光ダイオード)は,pn接合と呼ばれる構造で作られたダイオード(半導体素子)で,発光は電子の持つエネルギーを直接,光エネルギーに変換することで行われ,電圧を加えると発光する。赤外線領域から可視光線領域,紫外線領域まで様々な波長の光が得られるが,基本的に単一色で特定の波長に偏った光が発振される。とくに,青色LEDは,赤崎 勇,天野 浩,中村修二の研究開発により1993年に本邦で実用化され,2014年のノーベル物理学賞を受賞したことは記憶に新しい。

レーザー/LEDの光は生体に対し,反射,散乱,吸収,透過の反応を示すが,その中で,組織への吸収性がその光学特性に最も影響を与える。生体組織の60~80%は水分であり,水への吸収度が組織深達性を決める最大の要因である。従って,生体への光の応用においては各波長の水への光吸収度について正しく理解することが重要である(図12-4)

図1 水の光吸収曲線(HaleとQuerryのデータによる2))横軸は波長(nm),縦軸は吸収係数を示す。Er:YAGレーザーは,水への吸収性がCO2レーザーより10倍,Nd:YAGレーザーよりも15,000~20,000倍と非常に高い。

Er:YAGレーザーの特性

今日では多くの種類のレーザーが開発されており,光子エネルギーを誘導放出する媒体である活性物質により分類される。その例として固体レーザー(Nd:YAG,Er:YAG),気体レーザー(炭酸ガス,アルゴン,ヘリウム・ネオン),半導体レーザー,エキシマレーザーなどがある。

炭酸ガス(CO2)レーザー(波長10.6 μm)は,軟組織を非常に容易に蒸散し,止血作用に優れている。熱凝固層は比較的薄いが,熱作用が強いため照射面に炭化層を生じやすい。Nd:YAGレーザー(1.064 μm)および半導体レーザー(810 nm)は,軟組織の切開切除に効果的で止血作用にも優れているが,水への吸収性がかなり低いため,熱凝固層は厚くなる。しなやかな光ファイバーによる導光が可能で,歯周ポケットの掻爬にも多用されている。

Er:YAGレーザーは発振波長が2.94 μm(2,936 nm)のフリーランニングのパルス波で,理論的に水への吸収性がCO2レーザーより10倍,Nd:YAGレーザーよりも15,000~20,000倍と非常に高い(図12)。そのため,水を含む生体組織によく吸収され,軟組織・硬組織の両者を蒸散できる。軟組織の蒸散メカニズムは,主として生体の表面での熱作用による組織中の水および有機成分の気化蒸散(vaporization, evaporation)であり,硬組織の場合には,熱作用による水や有機成分の選択的気化に伴い内圧が亢進し微小爆発が生じ,物理的に組織の崩壊が生じる熱力学的効果(thermo-mechanical effect)あるいは光力学的効果(photo-mechanical effect)による蒸散(ablation)であると考えられている。照射部のごく表面で吸収が生じ,発熱が非常に小さく周囲組織の熱変性層も極めて少ないため,軟組織の治癒は速い。またEr,Cr:YSGGレーザー(波長2.78 μm)も基本的にEr:YAGレーザーと同様の作用を示すが,本邦では未承認装置である3-6)

Er:YAGレーザー装置の開発は,1988年より山本 肇名誉教授(東京医科歯科大学元学長)を中心として,モリタ製作所およびHOYA Continuum社の共同開発で開始され,当分野も石川 烈名誉教授が当初からそのプロジェクトに参画した。その後,数多くの基礎研究を経て,日本で最初の歯科用Er:YAGレーザー装置アーウィン®(Erwin)が開発され,4大学による臨床治験を経て,1995年にう蝕治療,軟組織処置,歯石除去への応用について厚生省の承認を受けるに至った。

当分野ではう蝕治療用に研究の始まったEr:YAGレーザーの優れた組織蒸散効果に注目して,本レーザーを新たに歯周治療へ応用展開する研究を1991年から開始し,本レーザーが歯肉軟組織だけでなく,根面や骨組織,さらにはチタンインプラントへも応用可能であることを明らかにした。安全性試験や数度の治験を経て,3台の臨床装置の開発に携わり,軟組織治療,歯周ポケット治療,歯周外科治療などの臨床応用に発展している3-10)

レーザー/LEDの歯周・インプラント周囲組織への効果

1) 根面および歯石の蒸散効果

Er:YAGレーザーは根面のセメント質を蒸散する。CO2レーザーやNd:YAGレーザーとは異なり,注水下における照射で明らかな融解や炭化を生じることはないが,蒸散表面は特徴的な剥片状あるいはフレーク状の微細構造を生じるため,乱反射により白色を呈する11-14)。Almehdiら14)は,レーザー照射面表層には厚さ約20 μmの熱変化層が生じ,構造変化の生じた表層とその下部の熱影響層の2層構造からなることを報告した。Sasakiら15)は,赤外分光分析により,セメント質照射面は無機質成分より水や有機質成分が選択的に蒸散され,注水下の照射では顕著な組成変化や化学的に有害な物質の産生は生じないことを示した。また,Maruyamaら16)は,照射面の微細構造は脆弱で,綿球擦過による機械的処置,塩酸テトラサイクリンあるいはEDTA処理により容易に除去され,細胞付着が増加することを報告した。また,本レーザーは,元々,う蝕治療用のレーザーであるため,根面う蝕の処置も可能である17)

Er:YAGレーザーは歯石の蒸散が可能で,注水により発熱は抑制され根面の炭化などの重篤な熱傷害は生じない(図211,12)。ただし,歯石の選択的除去はできないため,同時にセメント質の蒸散が避けられないが(図311,12),臨床的には適正な出力の選択とコンタクトチップの根面への適切な角度付けや操作法により過剰なセメント質の損失をある程度回避でき,セメント質は保存される11,12)。レーザーによる歯石除去は,1997年11月に高度先進医療として承認され(2008年3月まで),2010年より外科手術における根面のデブライドメントとして保険導入に至っている。

臨床では,従来の機械的処置にレーザーを併用することで,ポケット内の確実な殺菌無毒化および感染組織や深行上皮の蒸散掻爬,さらには周囲細胞の賦活効果を期待して用いられている3)。レーザーは炎症の軽減や組織の修復・再生に有利に作用する可能性があり,Nd:YAG,半導体,Er:YAGレーザーが,スケーリング・レートプレーニング(SRP)の補助として用いられている。さらにEr:YAGでは歯肉縁下歯石の除去も可能なため,レーザー単独での根面の廓清も行われている。Er:YAGレーザーの併用療法あるいは単独療法において,従来のSRPと同等以上の効果を報告する臨床研究がいくつか報告されているが,まだコンセンサスは得られていない3,9,18),最近のシステマティックリビューではEr:YAGレーザー単独治療の効果はSRPと同程度と報告され優位性は認められていないが18),今後,ポケット治療についてはEr:YAGレーザーの特性を生かした新たなコンセプトの構築と術式の開発が必要であろう10,19)

図2 Er:YAGレーザーによる歯石除去抜去歯上でEr:YAGレーザー(先端出力約35 mJ/pulse,エネルギー密度約12.4 J/cm2/pulse,10 Hz,注水下)の斜め接触照射により歯石の除去を行った(a)。歯石は容易に蒸散し,根面はセメント質が一層蒸散し,微細な粗造面を呈するため,乱反射により白色を呈する(b)。
図3 Er:YAGレーザーによる歯石除去後の根面の変化12)。先端出力40 mJ/pulse(エネルギー密度14.2 J/cm2/pulse),10 Hz,注水下にて,斜め接触照射(約30度)でEr:YAGレーザー照射を行なった(a)。歯石は蒸散し,その下部のセメント質も一層約15-30 μm蒸散され,厚さ5-10 μmのヘマトキシリン濃染層(熱変化層)が認められる。SEMで特徴的な微細粗造面を呈する(b)。SC:歯肉縁下歯石,C:セメント質,D:象牙質。

2) 殺菌効果

Andoら20)は,代表的な歯周病原菌であるPorphyromonas gingivalisPg)およびAggregatibacter actinomycetemcomitansAa)に対し,Er:YAGレーザーは両菌ともにエネルギー密度約0.3 J/cm2(直径600 μmのコンタクトチップ先端での出力に換算すると約1.4 mJ)の1パルス照射で,細菌の蒸散による殺菌効果が生じることを確認した(図4)。この出力は臨床で用いる出力の1/20~1/50であり,極めて低いレベルである。また,Pgコロニーに対しても,10.6 J/cm2(30 mJに相当)の1パルス照射で照射コロニー中の細菌の生存率は約17%となり,約83%の細菌を死滅させる効果を有していた。このように,本レーザーは,非常に低い出力で殺菌効果を生じ,通常の歯周治療で応用される出力においては十分な殺菌効果を有していると考えられる。また,細菌の蒸散メカニズムについては,Akiyamaら21)はSEM観察により,蒸散スポット周辺に細菌の熔融像を示す特徴的な樹状構造帯が認められたことから,Er:YAGレーザーによる細菌の蒸散は,熱効果によるevaporationと推測した。さらに,新鮮抜去歯の歯周病罹患根面のデブライドメント後の残存細菌数は,レーザー治療では,超音波スケーラー処置より好気性および嫌気性菌共に有意に少ない数を示し,Er:YAGレーザーは超音波スケーラー以上の除菌効果を示すことを報告した21)

図4 歯周病原細菌に対するEr:YAGレーザーの殺菌効果20)。歯周病原細菌に対し,エネルギー密度0.3 J/cm2以上の1パルス照射において,発育阻止円が観察され殺菌効果が認められた。

3) 歯肉軟組織の蒸散効果

基本的に,Er:YAGレーザーは他の高出力レーザーに比べて組織の熱変性が極めて少ないため治癒が迅速である。Sawabeら22)はラットを用いて歯肉処置後の治癒のメカニズムを検索した。熱傷害性タンパク72/73(Hsp72/73),熱傷害性タンパク47(Hsp47)およびProliferating cell nuclear antigen(PCNA)の発現を電気メスと免疫組織化学的に比較したところ,Er:YAGレーザー処置では,熱変性層および熱影響層が有意に小さく,さらに潜在的熱傷害による術後の組織の崩壊がなく,再上皮化および新生結合組織の形成がより早期に進行し,良好な治癒経過を示すことを明らかにした(図5)。これらの結果により,Er:YAGレーザーは歯周軟組織処置において安全かつ適切な手段であることが裏付けられた。現在,Er:YAGレーザーは,歯肉切除・整形や小帯切除に多用されており,歯肉のメラニン除去やメタルタトゥーなどの色素沈着の除去などの審美治療にも安全に応用されている4-6),9,10)

図5 Er:YAGレーザーおよび電気メスによる歯肉処置後の免疫組織学的検索22)。電気メス処置では細胞のストレス反応によって誘導される熱傷害性タンパクHsp72/73の発現が,6時間後に作製欠損周囲の遠位の結合組織,歯根膜,歯髄内に同心円状に顕著に認められ,術後の周囲組織の崩壊も生じたが(b),Er:YAGレーザー処置ではその発現は欠損の近傍に限局し非常に僅かであり,熱傷害が極めて少ない(a)。AB:歯槽骨,PL:歯根膜,D:歯根象牙質,P:歯髄。

4) 骨組織への効果と骨欠損部のデブライドメント効果

1) 骨組織への効果

Er:YAGレーザー照射では,CO2レーザーとは異なり,明らかな炭化や凝固変性を生ずることなく,骨組織の蒸散が可能である(図623-25)。Sasakiら23)は,SEM分析において,Er:YAGレーザー処置面はスミヤー層がなく鱗片状の微細構造を呈することを報告し,微細突起物へのフィブリンの付着を観察した。組織学的所見では,注水下の照射では表層にわずかなヘマトキシリン濃染層(変化層)が生じ24,26),組織およびTEM分析において,その蒸散面は2層構造を呈し,変化層の厚さは平均で約20 μmであった26)。さらに,Sasakiら23)は赤外線分光分析により,注水下でのEr:YAGレーザー照射面には,CO2レーザー照射骨面に認められる炭化物に由来すると思われるシアン化合物などの毒性のある副産物は生じないことを確認した。Pourzarandianら24)は,この変化層は術後の新生骨の形成に悪影響を与えることはなく,逆にフィブリンや赤血球などの初期の血餅および細胞付着に有利となり,新生骨はこの変化層に直接添加し,2週後の早期において,Er:YAGレーザー蒸散では骨組織の治癒がバー切削より速いことを報告した24)

照射面の変化層は,いったん新生骨の添加により皮質骨の中に包埋されてしまった場合には長期に残存するため,接合部の機械的強度が問題となるが25),海綿骨の場合にはこの変化層はリモデリングにより早期に吸収され消失するので問題は生じない27)。また,Yoshinoら25)により,無注水下での照射でも重篤な熱傷害は観察されず,蒸散された骨欠損部は良好な治癒経過を示すことが確認されている。

このようにEr:YAGレーザーは,注水下において,振動や騒音も少なく,非常に少ない熱影響で骨組織の蒸散が可能であるため術後の治癒も良好で,骨組織の切除・整形などの骨外科手術に臨床応用されている。ただし,米国のFDA(Food and Drug Administration)では認可されているが,本邦では骨組織への応用に関しては厚労省の薬事承認が得られていないので注意が必要である4-6),9,10)

図6 バー,Er:YAGレーザー,CO2レーザーによる骨組織の除去23, 26)。Er:YAGレーザー(b)では,CO2レーザー(c)とは異なり,注水下の照射で明らかな炭化や凝固変性などの熱傷害を生ずることなく,骨組織を蒸散する。表面はバー処置(a)に類似しているが,組織学的にわずかな濃染層(変化層)が表層に生じ,2層構造を呈し,その平均厚さは約20 μmである(b1)。

2) 骨欠損部のデブライドメント効果

Mizutaniら27)はイヌの下顎にIII度の分岐部病変を実験的に惹起し,フラップ手術での肉芽組織の除去および根面のデブライドメントにおいて,Er:YAGレーザーあるいはグレーシー型キュレットスケーラーを用い,処置効率の比較と術後3か月における治癒の組織学的評価を行った。その結果,レーザー群はキュレット群に比べて処置効率が有意に向上し,新生骨の形成量が有意に増加したことを報告した(図7)。結合織付着に関しては両群で差は認められず,レーザー照射面は歯周組織の付着を阻害しなかった。レーザーによる肉芽組織除去時に骨面に生じた変化層は,術直後には確認されるものの,3か月後には新生骨の形成や骨リモデリングによりほぼ完全に吸収されていた。また,根面に生じた変化層も,歯周組織の修復および再生時に,吸収され得ることも認められた。これらの所見により,レーザー照射後の骨面や根面が歯周組織の治癒を阻害せず,逆に骨の再生を促進する可能性が示唆された。

フラップ手術においては,根面の歯石除去についてEr:YAGレーザーの応用が保険適用されており,注水下において根面の廓清および骨欠損部からの炎症性肉芽組織の効率的な除去や,術野の殺菌に有効である。特に,従来の機械的操作が困難な狭い垂直性骨欠損底部や根分岐部において,より確実な肉芽組織の掻爬が可能であるため,今後,Er:YAGレーザーは,歯周外科治療において,歯周組織再生のためのより効果的なデブライドメントのツールになることが期待される4-6),9,10,28)

図7 フラップ手術へのEr:YAGレーザーの応用27)。イヌの根分岐部病変(a)のフラップ手術において,注水下にてEr:YAGレーザー(b)を用いて肉芽組織除去および根面のデブライドメントを行い,キュレットスケーラー処置と比較した。レーザーでのデブライドメント後に骨や歯根の表面には明らかな炭化などは認められない(c)。術後3か月,歯周組織は良好な治癒を示す(d)。術後3か月のレーザー群の組織像(e)。根面に沿った新生骨(NB)の形成がスケーラー群(f)より有意に高く認められた。矢印:処置直後の骨レベル,Azan染色,バー:800 μm。

5) インプラント表面および骨欠損部のデブライドメント効果

インプラント周囲炎の治療においては,汚染されたインプラント体のデブライドメントが必要となるが,従来の金属器具はチタン表面を容易に損傷するため,プラスチックやカーボンファーバー製の器具を用いることが推奨されている。しかしながら,スレッドを有する複雑な立体構造に加え,より早期にオッセオインテグレーションを獲得するため,表面にマイクロストラクチャーが付与されたフィクスチャーが主流となっている現在では,従来の機械的な器具のみでは,表面構造を破壊せずに完全に細菌を除去することはほぼ不可能である。機械的手段の補助として,薬液による化学的除菌も併用されているが,その効果も確実ではない。従って,非接触で作用するレーザーあるいはエア・アブレーションの応用が検討されている。

レーザーに関しては,Nd:YAGレーザーは臨床で通常用いられる出力で容易にチタンを熔解してしまうため禁忌であるが,Er:YAGレーザーは適正な出力と照射条件を遵守することにより,チタン表面および骨欠損部の両者を同時にデブライドメントできる効果的な波長と期待されている9,10)

Matsuyamaら29)は,Er:YAGレーザーは,高出力ではチタン表面に変色や熔解などの熱変化を引き起こすが,歯周治療に用いられている通常の出力では,注水下においては発熱が抑制されチタンを損傷しないことを示し,また,ヒーリングアバットメント上に付着した石灰化物をチタンを損傷せずに除去できたことを報告した。Taniguchiら30)は,先端出力30 mJ/pulse(エネルギー密度10.6 J/cm2/pulse),30 Hz,注水下の条件において,Er:YAGレーザーは陽極酸化処理面(TiUnite®)以外のマイクロストラクチャーを保存することができ,その際に酸素および炭素による汚染も有意に減少し,また,石灰化付着物の除去も可能であることを示した。

さらに,インプラント周囲の骨欠損部のデブライドメントについて,Takasakiら31)は,実験的インプラント周囲炎の裂開型骨欠損に対し,炎症性肉芽組織の掻爬とマイクロストラクチャー表面(SLA®)のデブライドメントをEr:YAGレーザーあるいはプラスチック製キュレットスケーラーと生理食塩水洗浄を用いて行なった。Er:YAGレーザーにより,肉芽組織の除去およびインプラント表面のデブライドメントは,チタン表面に明らかな熱傷害を生じることなく,スケーラーよりも容易に可能であり,照射骨面からの出血がスケーラー処置よりも顕著に認められた。組織学的には,術後24週において,照射骨面には壊死組織や炭化などの熱傷害は見られず,インプラント面への骨新生は,レーザー群において,より歯冠側への伸展を示した。また,高倍像ではレーザー群,スケーラー群のどちらも非処置部位と同様のオッセオインテグレーションを示し,レーザー照射チタン表面は治癒を妨げることはなかった(図8)。組織計測においては,新生骨の高さおよび骨とインプラントの接触部の長さについては,レーザー群のほうがより良好な成績を示す傾向が認められた。このように,Er:YAGレーザーはインプラント周囲炎の外科治療において,汚染インプラント体表面のデブライトメントおよび骨欠損部の肉芽組織の除去に安全に有効に応用できることが組織学的に示された。

前項での,Mizutaniら27)の報告および前述のTakasakiら31)の報告において,レーザー群がより良好な骨組織の治癒傾向を示した理由として,1)レーザー照射により炎症性の肉芽組織が徹底的に掻爬され,機械的処置以上に術野の除菌および無毒化が行われた,2)レーザー処置では術部の骨面からの出血が顕著に観察されたことから,骨髄穿孔術のように骨の再生を促進した,3)照射骨面や根面がミクロのレベルで粗造な形態を示すことで,フィブリンや赤血球など初期の血餅や細胞の付着が増進した23,24),さらに,4)高出力レーザーの照射中に組織内に拡散する低出力のレーザー光による生体刺激効果(後述)により骨組織の治癒が促進された可能性が推察されている27,31)

現在,臨床ではEr:YAGレーザーは,埋入したフィクスチャーを露出させる二次手術(歯肉切除)に頻用されており,最近では,インプラント周囲炎のポケットの除菌や外科治療における汚染フィクスチャー表面の除染や骨欠損部のデブライドメントに応用されている4-6),9)

図8 インプラント周囲炎の外科的治療へのEr:YAGレーザーの応用31)。骨欠損部の肉芽組織(a, b)の除去およびインプラント表面のデブライドメントをEr:YAGレーザー(c)あるいはプラスチック製キュレットスケーラー(d)にて行った。レーザーはスケーラーより容易かつ効率的にデブライドメントが可能で,照射骨面およびインプラント表面に炭化や熔解などの明らかな熱損傷は見られなかった(c)。術後24週では,組織学的に欠損底部(BBD)より上方に新生骨(NB)の形成を認めた(d, e)。新生骨は照射されたインプラント表面とオッセオインテグレーションを形成しており,レーザー群の新生骨の高さはキュレット群より大きい傾向が見られた。Villanuevahone骨染色,バー:500 μm。

6) 低出力レーザーの効果

低出力レーザー治療(Low-level laser therapy:LLLT)とは,組織を変性せず組織細胞を刺激活性化する弱い出力を用いて,創傷治癒や組織再生を促進したり,疼痛の抑制を行なうためのレーザー治療法であるが,高出力レーザーでの治療時にも,必ず周囲組織に低出力効果が作用するため,処置面の組織細胞の活性化(Biostimulation, Photobiomudulation)が得られることがレーザー治療の特徴であり利点である32,33)

Aleksicら34)は,マウス由来骨芽細胞株MC3T3-E1に対し,Er:YAGレーザーを,30秒間,30 Hzで様々な低出力で照射した。照射後1,3日にcell counting kit(WST-8)を用いて細胞増殖活性を調べ,細胞への傷害性を調べるためにLDHを測定した。さらに,MAPK阻害剤の効果とWestern blottingを用いてMAPKのリン酸化を検討した。結果として,レーザー照射群では,照射出力,照射時間,パルス数依存的に骨芽細胞の増殖活性が上昇し,総エネルギー密度(フルーエンス)1.0 - 15.1 J/cm2において有意な細胞増殖の促進が見られ,この際LDHの変化は認められなかった。さらに,MAPK/ERK阻害剤の存在下でその細胞増殖は有意に抑制され,また,MAPK/ERKのリン酸化が誘導された(図9)。以上の結果より,低出力Er:YAGレーザーが主にMAPK/ERK経路の活性化を通して骨芽細胞の増殖を促進することが示唆された。

Ogitaら35)は,ヒト歯肉線維芽細胞(HGF)に対しEr:YAGレーザーを,20秒間,30 Hz,フルーエンス1.84 - 2.90 J/cm2の低出力で照射し,3日後に2.11あるいは2.61 J/cm2の照射群において,細胞増殖活性の有意な増加を報告した。さらにプロテオミクス解析により,59種のタンパクの発現上昇と15種のタンパクの発現低下を検出し,発現上昇した創傷治癒に関与するタンパクの中で,ガレクチン7の発現とその細胞増殖促進効果を示した。

これらの所見から,低出力Er:YAGレーザー照射は,細胞の増殖を促進することが示唆され,創傷治癒に効果的に作用することが考えられる。

また,高パルス高ピークパワーを有する新規のLLLT用低出力半導体レーザーを用いて,Ejiriら36)は,初代培養の歯肉上皮細胞に各種の条件で照射し,歯肉の創傷治癒に必須である上皮細胞の増殖および遊走に与える影響を検討した。照射1日後に細胞増殖活性の有意な増加およびDNA合成量の指標となるトリチウムチミジンの取込み量の有意な増加を認め,また,Wound healing assayにて細胞遊走の向上を認めた。また照射後にMAPK経路のERKのリン酸化を確認した。その結果,本レーザー照射は初代培養ヒト歯肉上皮細胞の増殖および遊走を促進し,増殖および遊走促進の発現には,MAPK/ERK経路の活性化が関与することが示唆された。よって,本レーザー照射は歯肉の創傷治癒促進に有効であると考えられる。

図9 低出力Er:YAGレーザーが骨芽細胞の増殖に及ぼす影響34)。マウス由来骨芽細胞株MC3T3-E1に対し,Er:YAGレーザーを30 Hz,2.4 mJ/cm2/pulseの低出力で照射した。照射後3日において,レーザー照射群では照射時間依存的に骨芽細胞の増殖活性が上昇し,照射時間30および60秒において有意な細胞増殖活性の増加が見られた(a)。さらに,照射後5-30秒においてMAPK/ERKのリン酸化が誘導された(b)。mean±SD(n=3),*p<0.05,T:照射時間,F:フルーエンス。

7) 抗菌的光線力学療法(antimicrobial photodynamic therapy:a-PDT)

光感受性薬剤である色素と特定の光(低出力レーザーやLED)の光化学反応による活性酸素の発生を利用した殺菌法である。本邦では未承認であるが,半導体レーザーやLEDの赤色光源とトルイジンブルーやメチレンブルーの青色色素との組み合わせによる各種のa-PDT装置が,歯周炎やインプラント周囲炎および粘膜疾患の治療に応用され始めている37)

当分野では,赤色および青色LEDや半導体レーザーを用いたaPDTに関して基礎的臨床的研究を行なっており,Chuiら38,39)は,青色LED自体にPgの増殖抑制作用があること,食用の赤色色素であるローズベンガルと青色LEDの併用によるaPDTで高い殺菌効果が生じることを明らかにした(図10)。現在,aPDTを用いた歯周ポケットの殺菌やプラークコントロールの補助としての臨床応用を検討しており,Ichinoseら40)は,赤色LEDとトルイジンブルーの併用によるプラーク抑制効果を臨床試験において初めて確認し報告した。

図10 赤色色素と青色LEDによるaPDTのPorphyromonas gingivalisへの効果39)。細菌液への照射後,培地に塗布し1週後のコロニー数を測定。赤色色素ローズベンガル(RB)が0.16,1.6,16および160 μg/mlの濃度において,30秒の青色LED(BL)照射(30 J/cm2)は非常に高い殺菌効果を示した39)。CHG:クロルへキシジン,TB:トルイジンブルー,RL:赤色LED,*<0.001,**<0.0001(コントロールとの比較);#<0.05,##<0.0001。

8) 光診断

近年,Optical coherence tomography(OCT)と呼ばれるレーザー光を応用した断層診断が研究開発されている。OCTは光エネルギーを用いた非侵襲性のシステムであり,他の画像診断法と比較して,放射線被曝などの生体に対する為害作用がなく安全で,またリアルタイムで画像が構築されるためチェアーサイドで短時間での診断が可能である。次世代の断層診断法として歯槽骨のレベルや形態,歯石沈着の検査などへの応用が有望である(図11)。

図11 光干渉断層画像診断法(OCT)下顎犬歯中央の断層像。エナメル質(E),象牙質(D),エナメル象牙境(EDJ),歯肉上皮(Ep),上皮下結合組織(CT),歯槽骨(B)が明瞭に造影されている。

おわりに

従来,歯周治療では機械的手段が用いられているが,感染性で慢性炎症性の病態を示す歯周病の複雑な治療手技をより容易にし,治療効率や効果のさらなる増大を図るためには,新たな治療手段や治療術式および診断法の開発が必要である。光エネルギーの応用はその有効な手段の一つとして期待されている。レーザーを始めとする各種の光エネルギーは従来の機械的治療法と効果的に組み合わせることにより,歯周治療をさらに進化させることができると思われる。

今後,光エネルギーの持つ炎症抑制,疼痛緩和,創傷治癒および組織再生促進などの様々な生物学的効果がさらに解明されるに従い,臨床応用が益々増加すると思われる。また,新しい治療コンセプトに基づいた臨床研究により,歯周治療に役立つ有益なエビデンスが得られ,新規の治療法が開発されるであろう10,19,28)。21世紀にはレーザー/LEDを応用した歯周・インプラント周囲光治療(Periodontal/peri-implant phototherapy)や光診断(photodiagnosis)の役割が増大するであろうと思われる。

謝辞

稿を終えるにあたり,長年,研究の遂行に多大なご指導を頂きました東京医科歯科大学名誉教授・東京女子医科大学顧問の石川 烈先生ならびに東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野の和泉雄一教授に深甚なる感謝を申し上げます。一連の仕事は,当分野の渡辺 久准教授,水谷幸嗣助教を始め,分野および学内の多数の共同研究者,国内外の多くの研究者・臨床家,および企業の方々との共同研究の賜物であり,ここに厚く御礼を申し上げます。とくに,モリタ製作所およびHOYA社の各位に心より感謝いたします。

本論文は,第57回春期日本歯周病学会学術大会(2014年5月23日)において発表した内容に一部新しい知見の追加を行なったものである。

References
 
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