日本歯周病学会会誌
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ミニレビュー
超高齢社会における歯周病治療の役割
吉成 伸夫石原 裕一
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2015 年 57 巻 1 号 p. 18-25

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はじめに

現在,わが国は超高齢社会の中にあり,今もなお進行しつつある。総務省統計局が2014年9月14日に発表した人口推計によると,2014年度の総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は25.9%であり,人口の4人に1人は65歳以上となっている1)。今後もこの高齢化率は増加すると予測されており2),人口構成や疾患の状況とともに,超高齢社会における保健,医療,福祉,これらに関与,貢献する歯科医療現場も変化せざるを得ない状況である。日本歯周病学会もこのような時代の変化に柔軟に対応し,新たな歯科医療体制を構築,実現するための方策作成を担わなくてはならないと思われる。

本稿では,超高齢社会における歯周病治療の役割について,いくつかの数字とともに解説したいと思う。

わが国の超高齢社会の現状,将来

日本人の平均寿命は,1960年代までは欧米先進諸国と同程度であったが,公衆衛生の水準向上が着実に図られると同時に,公的医療保険制度(国民皆保険)を中心とした保健・医療システムを効率的に運用する制度が充実した。これらを背景として,1980年代には男女とも平均寿命が欧米の水準を超え,1985年以後,わが国は世界の最長寿国を継続しており,2013年に厚生労働省が公表した簡易生命表で女性は86.6歳,男性は80.2歳で,男性も平均寿命が80歳を超えた(図13)

高齢者数としては,先述の高齢化率からも推測されるように,2014年度の65歳以上人口は3,296万人で,これはカナダの総人口3,483万に匹敵する数である1)。さらに,2014年の厚生労働省の発表では,100歳以上人口も過去最多の5万8,820人に上っており,20年前の約10.5倍となっている。従来,高齢者の医療や福祉施策に関しては,スウェーデンやデンマークなどの北欧諸国の制度と比較されること多いが,これらの国々の人口は500万~900万人程度であり,わが国の75歳以上の後期高齢者数1,590万人とのみ比較しても少なく,他国の施策は参考にならない。

世界保健機関(WHO)では,高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」,14%を超えると「高齢社会」,21%を超えると「超高齢社会」と定義している。日本の高齢化は,1970年に高齢化率が7.1%(高齢化社会)に達したのち,1995年には14.5%を超えて高齢社会が到来した4)。その後,2007年に高齢化率は21.5%を超えて超高齢社会となった5)。この高齢化社会から高齢社会への突入に24年間と,わが国は他の欧米諸国に比べてきわめて急速であったが(表1),今後ますます高齢化は加速し,2030年頃には28%を超え,世界に先駆けて総人口の3人に1人が65歳以上となると推定されている。その後,高齢者人口は2042年の3,878万人をピークに減少傾向に転じるが,総人口の減少が進むため,2060年の高齢化率は39.9%まで上昇,つまり,10人のうち4人が高齢者である社会を迎える。さらに,老年人口の中でも75歳以上の後期高齢者の伸びが大きく,特に2010年から2035年にかけて1,419万人から1.6倍の2,278万人となる。これは,「団塊の世代」が2024年には後期高齢者の仲間入りをすることが主因で,わが国は,75歳以上の後期高齢者が急増した超高齢社会の高齢化となることがほぼ確定的である(図26)

3は,1960年,2010年,2060年(推計)の人口ピラミッドの変化を示したものである2)。2010年から2060年にかけて人口ピラミッドの形状が変化し,2010年の形は中高年齢層が厚い「壺型」に変形している。そして,2060年には「逆ピラミッド」の形状に変わる。このように,近未来の日本は人口構成が一変し,平均寿命が延びた巨大な集団が高齢層に向かい,少子高齢化を反映した「逆ピラミッド型社会」が到来する。そのため,「ピラミッド型」人口構造の上に成り立っていた制度やシステムは通用せず,超高齢社会に対応したシステムを創り直す必要がある。

以上より,わが国は,「平均寿命の延伸」,「高齢者数」,「高齢化のスピード」という特徴を持つ世界一の超高齢社会である。

図1 主な国の平均寿命の年次推移資料:UN「Demographic yearbook」等 注:1990年以前のドイツは旧西ドイツの数値である。
表1 高齢化速度の国際比較
図2 高齢化の推移と将来設計資料:2010年までは総務省「国税調査」,2012年は総務省「人口推計」(平成24年10月1日現在),2015年以降は国立社会保障・人口問題研究所,「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果(注)1950~2010年の総数は年齢不詳を含む。高齢化率の算出には分母から年齢不詳を除いている。
図3 人口ピラミッドの変化(注)縦軸は年齢,横軸は人口(単位:万人)。(出典)1960年および2010年は総務省「国勢調査」,2060年は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2012年月推計)」の出生中位・死亡中位推計。

高齢者の身体的・心理的特徴

高齢者の身体的特徴の第一は,老化という身体が虚弱化していく過程にさまざまな疾患が加わること,第二は,生活習慣病のような慢性疾患に罹患していることが多く,全身に影響が現われること,第三は,臓器障害という点から多病である状態が多くなることである。要点を抽出すると以下のようになる7)

1.複数の全身疾患に罹患していることが多い。

2.個人差が大きい。

3.症状が非定型的である。

4.水,電解質の異常を起こしやすい。

5.服用薬剤が多く,反応が成人と異なる。

6.生体防御力が低下しており,負荷により異常をきたしやすい。

7.特有な疾患(老年病,老年症候群)の発症頻度が高くなる。

8.予後が社会的な環境の影響を受けやすい。

9.認知機能の低下がみられる。

また,高齢者における特有の心理状態は,高齢期に生じる「何らかの喪失」,脳の老化による精神機能の低下,多発する身体的疾患,さらに,社会の老いを認めない環境の4つの要因から生じ,以下に示すように否定的に捉えられることが多い8)

1.思考や行動のスピード低下。

2.知的機能の衰退。

3.うつ気分。

4.被害者的な気持ち。

5.新しいことを避ける保守性とかたくなさ。

これらの特徴を象徴するように,多くの高齢者は体の機能が衰退していき,不可逆変化を伴う退行性病変を持つようになる。その結果,痴呆,認知症などの高齢者に多発する特有な疾患(老年病)や,転倒・骨折,低栄養などの退行性病変に関連する高齢者特有のさまざまな症候や障害(老年症候群)が増加し,580万6,797名(2013年12月末時点)が認定されている要支援,要介護の必要な状態に移行する9)

近年,健康寿命の延伸ということが,わが国の健康政策の柱の一つとなっている。2014年10月の健康日本21(第2次)推進専門委員会資料から,平均寿命と健康寿命の差(日常生活の制限がある期間)は,男性が9.02年,女性が12.4年であった。このデータから推察される日本の高齢者は,「80歳以上の長寿を全うするものの,最期の約10年は要介護の状態である」ということになる。よって,いかに要介護の期間を短くして健康寿命を延伸するかが,今後の医療で重要な課題となってくる。

生活習慣病と老年病・老年症候群

平成22年の国民生活基礎調査の「介護が必要となる原因」では,生活習慣病33.5%,老年病・老年症候群である認知症15.3%,骨折・転倒10.2%という結果(図410)であり,この老年病・老年症候群(認知症,転倒・骨折)と生活習慣病(Non-communicable disease:NCD)の関連に関する報告が増えている。報告されている代表的な生活習慣病は,肥満・メタボリックシンドローム,糖尿病,高血圧症であり,単に動脈硬化性疾患の危険因子だけでなく,身体機能,精神機能を低下させることも報告されている。

1) 肥満・メタボリックシンドロームと認知症

高齢者の体格指数(Body Mass Index:BMI)は,肥満を適正に反映する指標ではないが,70歳でBMIが1.0上昇すると,アルツハイマー型認知症のリスクが36%上昇するという報告11),地域住民を27年間観察した結果,動脈硬化の危険因子,社会的要因を調整しても,中年期のBMI高値は認知症と関連するという報告12),さらに,36年間の観察研究で中年期に肥満(BMI>30)であると,高齢になった時にアルツハイマー型認知症のリスクが3.1倍,血管性認知症が約5倍に高まることが報告されている13)

また,メタボリックシンドロームは,認知障害の原因となる無症候性脳梗塞のリスクが高く,その機序として血管性要因が関与することが報告されている14)。Yaffeら15)は,メタボリックシンドロームでは認知機能が低下しやすく,特にCRPとIL-6高値群において認知機能の低下が強いことを報告している。さらに,Vanhanenら16)は,年齢,教育,アポE遺伝子多型,コレステロールなどの交絡因子を統計学的に調整しても,メタボリックシンドロームがアルツハイマー型認知症と有意に関連することを報告している。

以上より,肥満・メタボリックシンドロームが,認知機能の低下,認知症の危険因子と考えられ,その機序としては,血管障害,肥満や血圧高値に伴うホルモン異常,インスリン抵抗性や炎症との関連が指摘されている17,18)

2) 肥満・メタボリックシンドロームと転倒・骨折

高齢者の転倒・骨折は,歩行障害,施設入所,生命予後と強く関連し,その予防は非常に重要である19)。転倒は,約20%の高齢者に少なくとも年1回発生し,転倒の5%程度が骨折にいたる20)。肥満は,高齢者における転倒の危険因子であり,特に,重度の肥満ほど転倒リスクの高いことが報告されている21)。さらに,BMIよりも腹部肥満の程度が転倒・骨折と関連すると報告されている22)

3) 糖尿病と認知症

糖尿病は,血管性認知症,アルツハイマー型認知症発症の危険因子と報告されている23,24)。多くの前向き研究で,アルツハイマー型認知症発症に対する相対危険度は1.5-2.0倍程度であり,インスリン療法を受けている糖尿病患者では4.2倍であると報告されている25)。Yaffeらは,HbA1cが1%上昇すると,軽度認知障害のリスクが1.5倍上昇すると報告している26)。糖尿病が認知症に影響する機序としては,血管障害,高インスリン血症の作用に加えて,高血糖に伴う代謝異常,脂質異常,低血糖の関与が指摘されている27).

4) 糖尿病と転倒・骨折

近年,糖尿病が転倒の独立した危険因子であることを示す報告が増加している28,29)。Osteoporotic Fracture研究は,インスリン療法を受けている糖尿病患者では2.8倍,インスリン非使用者でも1.7倍転倒リスクが高いことを報告している29)。高齢者糖尿病,特にインスリン療法を受けている患者で転倒リスクが高いが,その機序としては,末梢神経障害,バランス能力の低下,サルコペニア,血糖コントロール不良,機能低下(ADL低下,うつ状態,認知機能低下)の関与が指摘されている30)

5) 高血圧症と認知症

高血圧症は,脳血管障害の危険因子であると同時に,単独でも認知機能を低下させるという報告が多く,中年期高血圧は,認知障害や認知症の発症を増加させることが報告されている31)。Skoogら32)は,70歳時に高血圧であった高齢者では,その後の15年間に血管性認知症,アルツハイマー型認知症の発症が多く,その機序としては,脳虚血によりアミロイド代謝異常が促進されると報告している。

6) 高血圧症と転倒・骨折

日本の地域在住高齢者における転倒の関連因子を調べたメタ解析では,高血圧症の既往による転倒群と非転倒群で差は認められていない。しかし,血圧変動の影響,すなわち,起立性低血圧や食後の血圧低下が転倒リスクになると報告されている33)

以上のように,老年病・老年症候群(認知症,転倒・骨折)は,肥満・メタボリックシンドローム,糖尿病,高血圧症といった生活習慣病が危険因子である。よって,多くの老年病,老年症候群を予防,抑制するためには,成人期からの生活習慣病予防,治療が大変重要になる。

図4 要介護度別にみた介護が必要となった主な原因(厚生労働省「平成22年国民生活調査の概況」より改変)

生活習慣病の予防対策

5は,わが国の1950年と2003年の男性年齢別,死因別死亡率(男性)である。1950年(図5a)では,全死因(総死亡)が加齢とともに直線的に増加しているが,悪性新生物,心疾患,脳血管疾患はすべて高齢期に変曲点のある死亡率パターンを示している。疾患高リスク患者では,患者個人ならびに社会的に予防対策が施行されない状況下だと,その疾患で死亡するものは加齢とともに上昇し続けるが,ある一定のところまで行くと,一気に高リスク患者が死亡し,それ以後は低リスク患者だけが生存することになるため,逆に死亡率が減少する。この現象を示しているのが,変曲点である。よって,変曲点までが患者への疾病予防知識の蓄積の最適な時期であり,効率的,かつ効果的な社会的予防対策が施行できる。わが国の1950年には,これらの疾患予防対策が十分でなかったが,2003年(図5b)では,全死因(総死亡)が直線的に上昇しているのと同様に,心疾患,脳血管疾患でも明確な変曲点が無くなっており,死亡率曲線からみる生活習慣病の予防対策は充実していることを意味する34)

しかし,変曲点以前での死亡率は大幅に改善したものの,患者数自体が減少しているわけではない。すなわち,脳血管疾患の死亡率は減少して死因の第4位であるが,患者数は,第1位のガンの152万人とそれほど差のない,123万人存在する35)。よって,今後も引き続き生活習慣病の死亡だけでなく,発症予防するための対策を考える必要がある。

図5 年齢別,死因別死亡率(男性)(a:1950年,b:2003年)

歯周病と生活習慣病

歯周病は,口腔という局所の感染症と捉えるだけでなく,全身に対する歯周ポケットからの持続的な慢性炎症性疾患であり,さまざまな物質が血液を介して全身に影響する可能性(糖尿病,心臓血管疾患,肥満・メタボリックシンドローム,誤嚥性肺炎,骨粗鬆症,低出生体重児・早産)が報告されている36)。上述の如く,介護が必要となる主な原因が,生活習慣病と,認知症や転倒・骨折であり,後者の原疾患としても生活習慣病が関連している。これらはいずれも歯周病と関連があり,図4に示す要支援,要介護の原因で歯周病に関係するものを選択すると,脳血管疾患,心疾患,糖尿病,呼吸器疾患,認知症,骨折・転倒であり,総計すると56.7%にもなる。ここに超高齢社会における歯周病治療の役割があると思われる。すなわち,成人期におけるしっかりとした歯周病治療により,生活習慣病の発症,悪化,さらに老化に起因する認知症,骨折,転倒が抑制されると,高齢期の要支援,要介護予防が出来る可能性がある。

歯数と要介護リスク

歯数が,直接認知症や転倒といった要介護リスクを高めることも報告されている。Yamamotoらが4,425名の高齢者を対象とした前向き研究では,質問紙によって歯数と義歯装着の有無を調査,その後,認知症を伴う要介護認定の状況を4年間追跡調査した結果,種々の交絡因子を除去しても19歯以下で義歯を装着していない者は,20歯以上歯を有するものに比べて認知症の発症率が1.85倍であったと報告している37)。また,同じグループが1,765名の高齢者を対象とした3年間の前向き研究において,歯数が少なく義歯を装着していない者は,転倒のリスクが2.5倍になると報告している38)

歯の喪失から要介護へ至る機序として,咀嚼能力低下による脳への刺激低下から認知領域の退行性変化,ビタミン等の栄養不足,体の重心の不安定さからくる転倒リスクの増加等により要介護状態になりやすくなる可能性がある。当然,歯周病は歯を喪失する原因でもあり,口腔内の機能面にも影響が大きい。

まとめ

超高齢社会において,要介護予防としての歯周病治療の役割は非常に重要である。要介護の原因疾患,すなわち,生活習慣病,認知症や転倒・骨折のベースとなる肥満・メタボリックシンドローム,糖尿病,高血圧症が,ペリオドンタルメディシンの概念のもとに歯周病との関連が多くの研究により報告されているからである。

平成23年の歯科疾患実態調査において8020達成者は38.3%となり,今後も増加することが推測されている。しかし,現在歯に4mm以上の歯周ポケットを有する70歳以上の高齢者の割合も8020達成者率と比例して増加しており,8020達成者が非達成者に比較して,全身疾患の発症リスクが高い可能性も報告されている39)

未だ世界のどの国も経験したことのない超高齢社会が到来し,この分野で世界を牽引するわが国にとって,要介護予防による健康寿命の延伸は医療の最重要課題である。そのために歯周病が健康寿命に与えるインパクト,すなわち要介護予防としての歯周病治療の意義や,不幸にして歯を失っても口腔内機能を維持することの意義を証明する必要がある。さらに,学会としても健康寿命の延伸を実現するための方策と,担うべき社会的責任を議論し,超高齢社会に適切に対応する研究,治療,教育の先進モデルが提示されることを期待したい。

References
 
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