2015 年 57 巻 1 号 p. 26-29
現在,歯科医療界は大変な時期を迎えている,否すでにまっただ中にあると言って差し支えなかろう。保険診療の停滞,歯科医院の過剰と反面の人口減に伴う患者数の右肩下がり(必然的な収入減),歯科大学の定員割れ,国家試験の低合格率,患者の歯科治療に対する意識の停滞など大きな課題が山積している。
言い換えると,専門的な治療レベルの維持・向上に秀でていても,それだけでは医院経営は成り立たない時代が到来している。かつて,「あの歯医者さんは腕がいい,痛くしない」といった評判が口伝えで広がれば経営は安定といった時代があった。しかし今やそれは夢のまた夢といった状況であることを意識的に受容しなければならない。
安定・発展する医院経営を目指すなら,何はともあれ患者がリピートする施設であるか否かにかかっている。「これからも歯のことはここにしよう,家族や友人にもここを勧めよう」と思ってもらえるかどうか。もっと平たく言えば患者を心地よくさせるサービスが行き届いているかどうかである。もちろん,治療技術で満足させるのがサービスの第一であるが,それだけではリピートしないのが現代である。私は「歯科医院はサービス業である」と断言してはばからない。歯周病治療を念頭に置きながら,患者サービスの実際をまとめてみたい。

がん治療や救急救命,心疾患などではチーム医療が当たり前だが,歯科においてもチーム医療としてのスキルアップが望まれる。歯科でのチーム医療とは,歯科医院のスタッフ全員の気配り,目配り,治療技術が高いレベルで統一されていることを指す。一人の歯科医師(通常は院長)がピラミッドの頂点の如くに君臨して歯科医,歯科衛生士,助手らに指示を出すタテ構造ではなく,治療に関わるスタッフが平等に最善を尽くすヨコ構造の医院を意味する。
患者がもっとも敏感に反応するのは,たとえば「院長一人が腕扱きであとのスタッフは素人みたい」といったレベルである。「院長が診ると具合いいが,他の先生だとどうもしっくりこない」といった感想を持たれてしまうレベルである。それは治療技術のみを意味しない。患者をリラックスさせる会話力や接遇術も含む。あるいはスタッフが快適そうに働いているなと感じたり,待合室や診療室がきれいかつ機能的と思えるかどうか。場合によっては(患者によっては)施術よりそっちのほうがリピートの優先事項になることさえある。だから,歯科衛生士はもとより,受付,助手,医療事務に至るまで全員が一定のレベルで患者を満足せる応対をできるのがチーム力である。
また,ここが肝心だが歯科医院では患者本人もチームのメンバーであるという認識である。なぜなら,患者は重要な情報発信源だからだ。歯周病であれ虫歯であれ,ブラッシングの習慣や食生活,過去の治療歴,現時点での痛み具合や不都合な自覚症状などを患者が発信してくれるか否かで治療計画は違ってくる。無口な患者においてはスタッフが要領よく効き出す質問力が問われる。たとえば,糖尿病や血糖値が高めという歯周病患者の場合,患者自らが申告してくれると非常に助かる。糖尿病を治せば歯周病の治療成果はあがりやすいし,その逆もある。したがって,患者の全身疾患の有無を聞き出すことは歯科医にとってほとんど常識であろうが,患者もチーム医療の一員であるという認識をスタッフはもちろん,患者本人にも共有してもらわねばならない。

歯科医院の規模やモットーは様々だろう。医院の数だけの違いがあるかもしれない。しかし,チーム医療という観点からいくと,ある程度のイメージを共有できるかと思う。院長を含め歯科医1~2名,歯科衛生士3~4名,助手あるいは受付が1~2名,技工士は外注といったあたりの規模を想定していただきたい。
まず,根幹になるチーム力は歯科医と歯科衛生士の高いレベルでの歯周病治療に対するシステム(向き合い方)の共有である。それは4つのフェーズ(段階)に分類される。第1に歯周基本治療,第2に歯周外科処置,第3に補綴・修復処置,第4にメインテナンスである。
このフェーズの全体像は,歯科医と歯科衛生士がほとんど同レベルで共有していなければならない。歯周病治療・治癒の80%を占めると言われる歯周基本治療のフェーズにおいては,両者の間に意識差・技量差があってはならないと断言したい。歯周基本治療という概念は1960年にすでにアメリカのドクター・ヘンリー・ゴールドマンによって提唱されたものだが,次の8通りの専門的スキルから成る1,2)。
①スケーリング・ルートプレーニング
②口腔清掃法(ブラッシング)の指導
③齲蝕治療
④歯の小矯正
⑤動揺歯の暫間固定
⑥選択削合による咬合調整
⑦再評価
⑧資料の収集
このスキルは歯科衛生士の専門中の専門,歯科医に勝るとも劣らない力量が望まれるし,任せて安心という歯科衛生士は少なからずいる。古いシステムであるタテ構造の人間関係からの脱却=横並びのチーム医療の実際は,このような歯周基本治療をマスターした歯科衛生士の存在によって支えられる。
したがって,良き歯科衛生士のいないところに良き歯科医院なし,である。そのような歯科衛生士がいないというならば,育てるほかはない。一方で成長への期待と指導力,他方で実力を備えんとする意欲と努力があれば良き人材は育つ。歯科衛生士を漫然と雇い,漫然と治療の一部を負担させるだけの経営では敗北は目に見えていると言って過言ではない。しかし,育てる・育つという関係作り(人間関係)は言うほど簡単ではない。指導する側のいわゆる“上から目線”でコトが通用する時代でもない。個々に対応策を実践あるいは模索するほかないが,私は「啐啄(そったく)同時(どうじ)」という禅語を,対歯科衛生士のみならず医院経営の根幹として肝に銘じている。
「啐啄同時」の「啐」とは,いままさに生まれ出ようとする雛が卵の内側から殻をつつくことをいい,「啄」とは親鳥が雛の誕生を促すべく殻の外側から嘴でつつくことをいう。「同時」はそのタイミングがぴったり合うことを意味する。同時でなければ,雛は殻を破れずに死んでしまう。この自然の摂理を禅では,師と弟子の(教える者と学ぶ者一般)の根本的かつ理想的な関係として示唆している。
教え・教えられる意思・熱意が同時にまた同等になければ「悟り」の境地には達しえない。私には歯科衛生士に身につけてもらいたいことがたくさんある。しかし,歯科衛生士の側にもその意思・熱意がなければ私の思いや教育は空回りするだけであろう。いうまでもないが,強い「啐」があるのに「啄」しない関係があるとしたら論外である。

チーム医療は歯科医,歯科衛生士,そして患者の,いわば二等辺三角形の関係にある。その意味では,「啐啄同時」は歯科医および歯科衛生士と患者との間にも求められる。たとえば歯周病について,自分の病態について,ブラッシングの方法等,歯科衛生士が患者に懇切丁寧に説明して,患者がそれを理解し実践する情動が働くかどうか(「啐啄同時」が成立するかどうか),これによって治癒はもとより予防成果の獲得は雲泥の差となる。
一般に患者は「歯科医院は歯が痛くなったら・悪くなったら行くところ」,そして「治ったら用済み」というのが本音であろう。そのマイナス・モチベーションにこちらが付き合っていると,患者は何も変わらないしリピート率もあがらない。それでいいという経営方針ならそれはそれでかまわないが,私は患者の口腔の全般的な健康に責任を持ちたいと思う。患者が少しでも「丈夫な歯,きれいな歯」を持ちたいとプラス・モチベーションでいるなら。そのプラス・モチベーションを私は「変患力(へんかんりょく)」とネーミングする。患者が自ら変わろうとする力,意思。
患者が疾患と治療の“いたちごっこ”にピリオドを打って,「健康な口腔を維持するチャンスは今!」と実感してもらう,つまり患者の変患力を刺激するにはカウンセリングが最適である。治癒してハイ終わりーという診療では持ちえないシステムである。私にしろ歯科衛生士にしろ,とくに初診患者のカウンセリングには60~90分の時間をとる。患者の歯(口腔)の特徴,治療した歯周病の現況,今後起こり得る発症リスク等をビジュアル資料も駆使して説明する。そして,リスクは自己管理によって克服できることを強調する。そこで試されるのが,説明力,対話力,質問力である。患者からどんな質問をされても適切に答えられる歯科全般の知識・技術はもちろん,患者固有の情報についても熟知し具体的にわかりやすく答えられねばならない。中にはもともとデンタルIQの高い患者もいて,初歩的なまわりくどい説明を嫌うケースもある。そんな患者には最新情報やいくつかの選択肢を提供しなければならないケースもある。つまり,<患者という漠然とした全体>があるのではなく,我々が現場で<患者>というときはオンリーワン,目の前の患者個人であり,対応スキルは患者の数だけあると思わねばならない。別な言い方をするなら,患者の変患力は我々の過不足ないサービス精神の発露によって高められる。このとき,サービス精神とは<誠意>にほかならない。

歯科医院経営のツボは,誠意を尽くして患者と向き合うことと断言したが,では誠意の実際とはどんなことか。それは,カウンセリングの手順や説明を患者サイドに立ってわかりやすく説明,納得してもらうかにかかっている。
まず,問診である。主訴の状態を診ればすべてわかるとばかり,問診を軽視したりまったく行わない同輩もいると聞く。これは鼻からカウンセリングの重要性や患者の変患力を無視した驕りではなかろうか。私は初診時に主訴について記入してもらう問診票のチェックとは別に,いくつかの質問をする。たとえば,「歯磨き指導を受けたことがあるか」「最近,歯石をとったのはいつか」「歯ぎしり,くいしばりの有無」「糖尿病などの全身疾患の有無」「歯の健康についての価値観」など,15項目くらいになる。
ブラッシング指導は歯科衛生士にまかせることが多いが,歯周病も細菌感染によることを説明しつつ正しいブラッシングをていねいに指導する。この際,押し付けに類する言動はつつしまねばならない。また,歯周病が生活習慣病であることをブラッシング指導時に説明したほうがいいし,「プラーク」という言葉が通じる患者かどうか,歯垢・歯石の区別などにも注意を払うべきである。
次にスケーリング・ルートプレーニングだが,開始するタイミングは歯科医または歯科衛生士が決定するが,どういうものか患者に説明する必要はある。機械的にプラークや歯石を除去しクリーンで滑沢な歯根表面にするための基本的で必要不可欠な治療であることを説明することは患者のデンタルIQを高めることになる。いずれにしろ,機械,器具を用いる治療ではいきなり操作に入らず,患者に安心感を与えるソフトな説明が必要である。
患者のケースにもよるが,ブラッシング,スケーリング・ルートプレーニング等の歯周基本治療後には,再度の歯周組織検査やX線写真撮影などによる再評価を行なう。これは内向きのチェックではなく,患者にも治癒・改善を確認してもらうためのオープン・カウンセリングである。かつ,治癒・改善の確認がゴールではなく,メインテナンスの必要も認識してもらう。ここまでサービス(誠意)を尽くしてはじめてカウンセリングはまっとうされる。
この論稿を「未来的コンセプト」と題したが,実は従来から行なわれている一般的な方法ではあるが,なかなか定着しづらいことは事実である。要は患者の本当の幸せを考え,最良の治療とアフターケアを施して患者の信頼を獲得する。そのようなシステムを医院全体で推し進めることにのみ,歯科医院の明日が約束されると思うものである。
