2015 年 57 巻 1 号 p. 30-40
テトラサイクリン・エピジヒドロコレステリン含有歯科用軟膏は抗菌薬に抗炎症薬が配合された歯周炎局所治療剤であり,今回,歯周炎罹患歯肉への塗布塗擦による治療の有効性を検討した。
新潟大学医歯学総合病院または研究協力3歯科医院を受診し,本研究の文書同意が得られた慢性歯周炎患者32名を対象とした。Supportive Periodontal Therapy(SPT)期で同意取得時にProbing Pocket Depth(PPD):6~8 mm, Bleeding on Probing(BOP)を有する患者を実薬群またはプラセボ群に無作為に割り付け,二重盲検法で比較評価した。薬剤投与は8日間,1日3回毎食後,患者自身が塗布塗擦を行い,臨床検査,細菌学的,生化学的検査による評価を術前,塗布8日目,塗布後21日に行った。
臨床および細菌学的指標は両群とも経時的改善を示し,塗布後21日のplaque indexで,実薬群はプラセボ群に比し有意な改善を示した。中等度の炎症のある患者(gingival index:GI=2)を対象とした層別解析では,塗布8日目のBOPで実薬群はプラセボ群に比し有意な改善を示した。
以上より,本剤の8日間の塗布塗擦はSPT期におけるGI=2の中等度の歯肉炎症のある歯周炎患者において,歯周ポケットからの出血を減少させる効果が期待できることが示された。
歯周治療においては,歯周病の原因となるプラークの物理的な除去に加え,抗菌治療が補助的に行われている1-4)。抗菌治療の目的は,急性炎症の軽減,スケーリング・ルートプレーニング(SRP)による治療効果の増強,菌血症の予防,歯周治療後の感染防止などであり5),抗菌製剤の投与方法としては経口投与1,2)または局所投与3,4)がある。局所投与については,1990年に,テトラサイクリン系抗菌薬を有効成分とした歯周ポケット注入用の徐放性軟膏剤が製品化され,SRPと併用することで臨床症状の軽減に有効であることが報告されている6,7)。また,同じ用法の製品として,海外ではクロルヘキシジン8)やメトロニダゾール9)を有効成分とした製剤も使用されている。
一方で塗布塗擦法については,1950-1960年代にかけてアクロマイシン軟膏3%,テラ・コートリル軟膏,テトラサイクリン・プレステロン歯科用軟膏,テトラサイクリン塩酸塩パスタ3%「昭和」など,複数のテトラサイクリン系抗菌薬を含有する軟膏剤が製品化された。
このうちテトラサイクリン・プレステロン歯科用軟膏は,日本歯科薬品株式会社(山口県下関市)が製造販売する抗菌薬のテトラサイクリンと抗炎症薬のエピジヒドロコレステリンの配合剤である。テトラサイクリン塩酸塩は,グラム陽性・陰性菌,レプトスピラ,リケッチア,マイコプラズマ,クラミジアに強く作用するほか,放線菌,抗酸菌等にも作用し,Porphyromonas. gingivalis(P. gingivalis),Tannerella. forsythia(T. forsythia),Treponema. denticola(T. denticola)などの歯周炎関連細菌に感受性を示すことが報告されている10,11)。また,エピジヒドロコレステリンは1958年に菅野ら12)によって,コレステロールからステロイドを合成する過程で見出された生理活性を有する成分で,ステロイドに特有の官能基を有しておらず,ステロイドとは化学構造的に異なるものである13)。本成分はステロイド様の抗炎症作用を有しながら,ステロイド様の副作用を示さなかったことが報告14)されている安全性の高い成分であることから,歯科領域だけでなく,医科領域(痔の治療薬:プレステロン坐薬)においても使用された歴史がある。
これら2つの有効成分の配合剤である本剤は,歯肉に塗布塗擦して用いる歯周炎の治療薬として1965年に薬事承認を得て以来,約半世紀に亘って使用されてきた。
2010年に日本歯周病学会から発行された『歯周病患者における抗菌療法の指針』によると,抗菌薬・抗炎症薬の歯肉への塗布・塗擦法は,発赤,腫脹,出血などの症状緩和に対してある程度の効果が示唆されているが,積極的に同処置が勧められる根拠は明確ではないとされている。その理由のひとつとして,これらの薬剤の有効性を検証した臨床報告が限定的であることも挙げられている15)。
このようにテトラサイクリン・プレステロン含有歯科用軟膏については,長期間の使用実績があり,歯周炎治療における有効性を示唆するいくつかの臨床報告があるものの,客観性のある臨床研究はこれまで行われておらず,従って,その有効性が科学的に十分に検証されているとは言い難い状況にあった。そこで今回,我々は,慢性歯周炎患者を対象とし,本剤の塗布塗擦法による臨床的有用性を臨床検査,細菌学的検査,生化学的検査などの評価基準を用いて客観的に評価することを目的として,プラセボ対照の二重盲検比較法による臨床研究を計画・実施したので報告する。
歯周病専門医が在籍する新潟大学医歯学総合病院歯周病科および新潟県の下越地域の3歯科医院(田井デンタルクリニック,村田歯科医院,いわふね歯科クリニック)を受診中であり,本研究の目的,方法,主旨等を文書にて説明し,同意が得られた慢性歯周炎患者32人を対象とした。被験者は以下の基準で選択した。①歯周病安定期治療(SPT)期[リコール期間は約3ヶ月]で試験開始日より遡り3ヶ月以内に歯周治療を実施しておらず,②同意が得られた時点で活動性部位(歯周ポケット6~8 mm, BOP陽性)を2部位以上有する,③20歳以上の患者とし,1患者につき2歯を被験歯とした。抗菌薬と抗炎症薬を配合した薬剤の特性から考えれば,急性症状を呈する歯周炎患者が最も対象としては適切と考えられるが,倫理上急性期の患者を対象にはできなかったため,SPT期の患者を対象とした。対象患者のうち,①試験開始前2ヶ月以内に抗生物質の投与(全身または局所)を受けた患者,②テトラサイクリン系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者,③重篤な全身疾患を有する患者,④その他担当歯科医師が不適当と判断した患者,は除外した。被験者を実薬群あるいはプラセボ群に無作為に割り付け,二重盲検法による比較検討を行った。なお,本研究は新潟大学歯学部倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:22-R-17-10-07)。
2. 試験薬剤実薬群は有効成分として1 g中にテトラサイクリン塩酸塩30 mg(3%)とエピジヒドロコレステリン20 mg(2%)を含有する軟膏剤(テトラサイクリン・プレステロン歯科用軟膏,日本歯科薬品株式会社)を用い(図1),プラセボ群は実薬群の有効成分を除いた軟膏剤を用いた。なお,実薬群とプラセボ群は薬剤の色や外観では識別できないようにし,コントローラーにより識別不能であることを確認した。また,コントローラーは各医療機関の実薬とプラセボの症例が同数(実薬4例,プラセボ4例)になるように設定し,2種の薬剤の投与順序を,乱数表を用いて割り付けた。キーコードはコントローラーにより試験終了まで厳重に保管された。

実薬群とプラセボ群においては,試験薬剤を患者に処方し,0~7日(計8日間),本剤の用法用量に基づき,1日3回(原則毎食後)担当歯科医師あるいは患者自身が被験歯および両隣在歯の計3歯の歯肉縁上に綿棒を用いて塗布塗擦し,歯頸部に擦り込むようにした。患者による薬剤の使用方法はくすりの使用記録(図2)に記載・指示し,使用方法や投与量が患者によってばらつかないようにした。また,くすりの使用状況は患者自身が使用記録に毎回記入することとした。なお,試験薬剤の塗布後30分間は洗口・食事は避けるように指示し,その遵守状況も患者自身が使用記録に記載した。試験期間中は指導に基づくブラッシングを実施し,試験薬剤以外の抗生物質,洗口剤,鎮痛剤・鎮静剤の使用は禁止した。術前,塗布8日目,塗布後21日に以下に示す臨床検査,細菌学的検査および生化学的検査を行った。図3に試験スケジュールを示す。


全ての被験歯について,①Plaque Index(PlI),②Gingival Index(GI),③Bleeding on Probing(BOP),④Probing Pocket Depth(PPD),⑤Clinical Attachment Level(CAL)の歯周病検査を行った。PlIおよびGIは歯面を頬側面の近心,遠心と中央,舌側の近心,遠心と中央の計6面に分割し,各面についてSilness and Löe16)およびLöe and Silness17)の指数評価基準に従い算出した。具体的には,PlIの評価基準は,0:プラークの付着なし,1:肉眼ではプラークの付着が不明であるが,針で探るとプラークの付着が認められる,2:ポケット内や歯肉辺縁部に,少量から中程度のプラークが探針を用いなくても肉眼で認められる,3:ポケット内や歯肉縁上に多量のプラークが付着している,とした。GIの評価基準は,0:正常歯肉,1:軽度の歯肉炎(色がわずかに変化,軽度の浮腫,プロービングで出血なし),2:中等度の歯肉炎(発赤,浮腫,光沢あり,プロービングで出血),3:重度の歯肉炎(発赤著明,浮腫,潰瘍,自然出血),とした。BOPは6点計測を行い,プロービング時の出血の有無を(+),(-)で判定した。PPDとCALはプローブ(CP12, Hu-Friedy, USA)を用いて6点計測を行った。評価には,検査を行った6部位のうち,同意取得時にPPDが6~8 mmかつBOP(+)の部位を1歯につき1部位,計2部位の値を用いた。
5. 細菌学的検査臨床的検査を行った2つの部位のうち1つの部位の歯周ポケットの最深部からプラークを採取し,検体とした。採取は山口らの方法18)を用いて行った。すなわち,滅菌した綿球とキュレットを用いて歯肉縁上のプラークを除去・防湿し,#45のペーパーポイント(Zipperer, Germany)の先端を歯周ポケット底部まで挿入し,10秒間保持し,連続して2本採取した。細菌はPCR-Invader法(株式会社ビー・エム・エル,東京)による検査を行い,総菌数,Prevotella intermedia(P. intermedia),P. gingivalis, T. forsythia, T. denticolaの4菌種の菌数を測定した。なお,菌数が検出限界(log10対数値で1.0以下)であった場合は一律1.0とした。
6. 生化学的検査臨床的検査を行った2つの部位のうち細菌学的検査を実施しなかったもう一方の部位を有する被験歯にロールワッテで簡易防湿を行い,唾液の混入を防いだ後,歯肉縁上プラークが付着している場合は注意深く除去し,エアーをかけて乾燥させた後,歯周ポケットの最深部より,Periopaper®(株式会社ヨシダ,東京)を用いて歯肉溝浸出液(GCF)の採取を行った。Periopaper®は,歯周ポケット内に軽く抵抗があるまで挿入し,30秒放置して吸湿採取を行った。同一の操作を4回行い,合計4本のPeriopaper®を採取した後,200 μlのphosphate buffer saline(PBS)に浸漬し,検体とした。生化学検査はEnzyme-Linked ImmunoSorbent Asssay(ELISA)法を用いて行い,Matrix metalloproteinase(MMP)-8およびInterleukin(IL)-6を測定した(フィルジェン株式会社,名古屋)。
7. 有害事象試験期間中に新たに発現した症状,疾患等のうち,臨床上好ましくないものを有害事象とした。有害事象のうち,試験薬剤と因果関係が明確には否定できないものを副作用,明確に否定できるものを偶発症として扱った。有害事象については,発現の有無,症状,発現日,持続日数,程度,処置,転帰等を症例記録に記入するとともに,原則として症状が消失するまで追跡調査を行うこととした。また,試験薬剤との因果関係を以下の4段階で判定した。1:関連なし,2:関連あるかもしれない,3:多分関連,4:関連あり。
8. 統計解析(主解析)実薬群とプラセボ群の比較において,年齢,残存歯数はMann-Whitney U検定を,性別,喫煙者数はFisherの直接確率法を用いて解析を行った。群内の比較には対応のあるt検定を行い,群間の比較はMann-Whitney U検定を行った。
主要評価項目(Primary endpoint)はBOPとした。GIという選択肢もあったが,本研究では倫理上ブラッシングを制限できず,過去の類似の塗布塗擦薬の研究19)から,GIはブラッシングの影響を受けやすいことが示されていたため,薬剤の効果を判定するのに,GIは適切ではないと考えられた。一方,BOPはブラッシングの影響を受けにくく,ポケット内壁の炎症の存在を示していることから,抗菌効果と抗炎症効果を併せ持つ本剤の有効性評価の指標として適切と判断した。BOPは,群内比較はMcNemar検定を,群間比較はFisherの直接確率法を用いて解析を行った。
有意差の判定基準はp<0.05をもって有意差ありと判定した。統計解析は専用ソフトウエアStatflex ver. 6.0(アーテック,大阪)を用いて行った。
9. 層別解析更に,中等度の炎症のある,術前でGIが2以上の患者の層別解析を行った。
対象は,実薬群8例,プラセボ群10例であり,臨床的検査,細菌学的検査,生化学的検査を実施した。なお,統計解析は主解析と同様に行った。
被験者の年齢,性別,残存歯数,喫煙者数を表1に示した。実薬群とプラセボ群の間には,全ての因子において偏りはなかった。被験者の口腔全体の状態(平均±標準偏差)は,PPD(実薬群2.5±0.5 mm,プラセボ群2.8±0.4 mm),BOP(実薬群8.8±6.1%,プラセボ群10.5±12.1%),Tooth Mobility:MO(実薬群0.3±0.3,プラセボ群0.3±0.2),Plaque Control Record:PCR(実薬群13.8±7.2%,プラセボ群19.1±12.9%)であり,いずれもSPT期で比較的コントロールされた状態であった。また,被験歯の単根歯と複根歯については,実薬群は単根16歯/複根16歯,プラセボ群は単根15歯/複根17歯であり,根分岐部病変については実薬群で9歯,プラセボ群で9歯であった。いずれの項目も両群に統計学的有意差はなかった。検定はPPD, BOP, MO, PCRはMann-Whitney U検定を,単根歯と複根歯,根分岐部病変についてはFisherの直接確率法を用いた。
本試験において服薬違反はなく,試験期間中の被験者の中止・脱落はなかった。
PPDについて,術前に5 mmであった部位が全64部位中4部位存在したが,同意取得時点においては6~8 mmの条件を満たしていたため,今回の試験対象に含めることとした。
2. 臨床検査PlI, GI, BOP, PPD, CALの変動について表2に示した。群内比較において,実薬群は全ての項目で塗布8日目,塗布後21日に有意な改善を示したが,プラセボ群はPlIのみ,塗布後21日に有意な改善を示さなかった。また,群間比較では,塗布後21日のPlIで,実薬群はプラセボ群に対して有意な改善を示した。
なお,薬剤塗布については,全ての被験者で総使用回数の3分の2以上塗布を実施しており,薬剤塗布から30分間の洗口や食事の禁止に関する規定においても,全ての被験者で遵守されていた。また,試験期間を通じて試験薬剤による有害事象は認められなかった。
3. 細菌学的評価口腔内総菌数,P. intermedia, P. gingivalis, T. forsythia, T. denticolaの変動について表3に示した。群内比較において,実薬群は塗布8日目の総菌数,P. gingivalis, T. denticolaで有意な減少を,プラセボ群は塗布8日目の総菌数,T. forsythia, T. denticolaおよび塗布後21日のT. denticolaで有意な減少を認めた。なお,両群の群間比較では有意な差は認められなかった。
4. 生化学的評価GCF中のMMP-8, IL-6量の変動について表4に示した。いずれの指標も術前から比較的低値を示し,両群の群内比較,群間比較で明確な変動は認められなかった。
5. 層別解析術前でGI=3の患者は存在しなかったため,中等度の歯肉炎症のある歯周炎としてGI=2の患者を選択し層別解析を行った。喫煙者は2名存在したがいずれもGI=1以下であり,層別解析の対象には含まれていない。PlI, GI, BOP, PPD, CALの変動を表5に示し,主要評価項目であるBOPのみ層別解析前後の出血部位率の結果を図4に示した。群間比較では,塗布8日目のBOPで,実薬群はプラセボ群に対して有意な改善を示した。細菌学的評価および生化学的評価の結果を表6, 表7に示した。いずれも両群の群間比較で有意な差は認められなかった。

本研究では,テトラサイクリン・エピジヒドロコレステリン含有歯科用軟膏の活動性部位(歯周ポケット6~8 mm, BOP陽性)を有する歯周炎患者32名に対する塗布塗擦法の臨床的有用性を検討した。
32名の症例数の設定は,類似歯周塗布塗擦薬の既報臨床研究20)の試験成績に基づき,BOPについて実薬群とプラセボ群の差を50%,標準偏差を50%と仮定し,有意水準を両側5%,検出力80%として計算,必要症例数を各群16例と設定した。
本研究の結果,本剤の塗布塗擦法は全ての臨床検査指標(PlI, GI, BOP, PPD, CAL)において経時的な改善を示し,塗布後21日のPlIではプラセボ群に比し有意な改善を認めた(表2)。また,中等度の炎症のあるGI=2の患者における層別解析では,主要評価項目であるBOPについて塗布8日目の評価でプラセボに比して有意な改善を認めた(表5)。層別解析における症例数は結果として,実薬群8例,プラセボ群10例であった。本剤が抗菌成分に加え,抗炎症成分を含むことから,炎症が強いほど効果が高いと予想されるため,実薬群とプラセボ群の差を70%として計算すると必要症例数は各群8例となり,今回の層別解析の症例数は妥当であったと考えられた。
歯周炎の局所抗菌療法としては,テトラサイクリン21),ミノサイクリン6,7),ドキシサイクリン22)などのテトラサイクリン系抗菌薬のほか,クロルヘキシジン8),メトロニダゾール9)などが用いられ,それぞれSRPとの併用で臨床指標の改善が報告されているが,わが国で使用可能であるのはドキシサイクリンを除くテトラサイクリン系抗菌薬のみである。
本剤の有効成分であるテトラサイクリン塩酸塩は,歯周病関連細菌に対する抗菌作用のほか10,11),Matrix Metalloproteinase(MMP)sなどのコラゲナーゼ活性の阻害作用23)を有するとされており,テトラサイクリン塩酸塩含有ファイバーを局所投与した臨床研究では,SRP単独治療と比較して,BOPやPPDなどの項目において有意な改善を示している21)。また,エピジヒドロコレステリンは抗炎症作用24),鎮痛作用25),治癒促進作用26)などを有することが報告されている。
本研究では,本剤を歯周炎罹患部歯肉に塗布後,層別解析における塗布8日目のBOPで,実薬群がプラセボ群に比して有意な改善を認めた。実薬群の術前と塗布8日目でプラーク指数の有意な減少が認められたことから,プラークコントロールによる影響を当然考慮すべきであるが,一方,本剤の有効成分であるテトラサイクリン塩酸塩の抗菌作用とエピジヒドロコレステリンの抗炎症作用が相加的に影響した可能性もあると考えられる。抗菌薬と抗炎症薬を含む類似の塗布塗擦薬も7日間の塗布塗擦で,プラセボ群と比較してプロービング時の出血を有意に改善させた報告20)も,これらの結果を支持している。歯周ポケット内壁の炎症の存在を意味するBOPにおいて改善が認められた点については,より分子量が小さく組織浸透性の高い抗炎症薬であるエピジヒドロコレステリンが大きく寄与したものと考えられる。テトラサイクリン系抗菌薬のドキシサイクリンと抗炎症薬のフルルビプロフェンを慢性歯周炎患者に同時投与した研究においては,ドキシサイクリン単独投与群と比して歯肉中に存在するコラゲナーゼ活性の減少率が有意に高くなり,これら2つの有効成分が相加的な効果を示したと報告されている27)。このことからも,抗菌薬に加えて抗炎症薬を配合することにより,臨床効果が相加的に高まると考えられる。今回の研究でGIにおいては有意な改善が認められなかったが,類似の塗布塗擦薬を用いた研究19)で,GIでは「ブラッシングのみ」と「ブラッシング+薬剤塗布」の間に有意な差が認められず,BOPでは有意な差が認められるという,今回得られた結果と同様の結果が得られており,GIではブラッシングの影響を受けやすく,薬剤の効果が出にくかったことが推察される。一方で,BOPはブラッシングの影響をGIほど受けにくかったのではないかと考えられる。
今回の臨床結果では塗布塗擦法において臨床指標に改善が認められた。テトラサイクリン塩酸塩は局所投与した際に,歯周ポケット内上皮から1-20 μmの範囲で検出されたとの報告28)があり,また,エピジヒドロコレステリンは脂溶性低分子であり,容易に細胞膜を通過し得ると考えられ,ゴールデンハムスターを用いた試験では,粘膜を透過して抗炎症作用を示したことが報告24)されている。よって,本剤においても歯肉表面に塗布塗擦することで良好な組織への浸透性が示されたものと推測された。
なお,今回,プラセボ群でも各臨床指標に改善が認められたのは,倫理的配慮により,患者自身によるブラッシングを中心としたプラークコントロールが行われたためと考えられる18)。
細菌学的評価においても本剤の投与による改善が示されたが,プラセボとの群間比較において主解析(表3)および層別解析(表6)で有意な差は認められなかった。この原因としては,SPT期で各細菌の術前のレベルが低かったことと,塗布塗擦法では細菌数を減少させるために必要な製剤の十分量が6 mm以上の歯周ポケット内に行き渡らなかったことが考えられる。筆者らの以前の研究においてもGCFの滲出により,薬効成分が歯周ポケット深部へ到達することは困難であり,細菌学的な変化を認めるに至らなかった例を経験している18)。一方で,我々が過去に発表した参考実験において29),本剤を歯周ポケット内に1週間に3回(0, 3, 7日)投与した結果では,4例の患者数ではあるが,全例においてGI,BOPをはじめとする臨床指標の改善と歯周病原因菌の減少が認められていることから,今回の細菌学的評価結果において,実薬群とプラセボ群に有意な差が認められなかったのは,薬剤の炎症局所への到達性・滞留性の要因が影響した可能性も推察される。いずれにせよ,今回の臨床研究は限られた症例数で実施されており,細菌数に個体差が大きく,検出限界以下の菌種も散見されたことより,詳細な解析には,さらに大規模なデータ収集が必要と思われた。
生化学的評価については,GCF中のMMP-8とIL-6を指標とした。MMP-8は主として好中球が産生するコラゲナーゼであり30),炎症初期においてGCFおよび歯肉組織中で増加することが報告31)され,歯周病の組織破壊マーカーとしても有用30-36)とされている。一方,IL-6は代表的な炎症性サイトカインであり,歯周炎による骨吸収との関連が示唆されている37)。今回の研究では,実薬群,プラセボ群ともに主解析(表4)および層別解析(表7)において明確な変動が認められなかったが,SPT期の症例を対象としたため術前のMMP-8およびIL-6の値は低いレベルにあった。過去のGCFに関する研究では,健常者でMMP-8は0-23 ng/ml38,39),IL-6は0-30 pg/ml40)と報告されており,今回の我々の研究の術前の値と同程度であったことからも変動余地が小さかったことが一因と考えられる。
今回の試験はプラセボ対照のケースコントロール・スタディとして実施され,その結果,中等度の炎症のあるGI=2の歯周炎患者において,統計学的に有意にBOPを減少させることが明らかとなった。今回は予備的研究であり,その中でのGI=2という限られた症例群に対してではあるが,本剤は歯周ポケット内の出血を減少させ,炎症を抑制することが期待できる可能性がある薬剤であると考えられた。ただし,例数が少ないため,今後さらなる検討を行う必要がある。
テトラサイクリン・エピジヒドロコレステリン含有歯科用軟膏の8日間の塗布塗擦は,GI=2の中等度の歯肉炎症のある歯周炎患者において,歯周ポケットからの出血を減少させる効果が期待できることが示された。
なお,本研究結果の一部は第55回春季日本歯周病学会及び第57回春季日本歯周病学会にて報告した。