2015 年 57 巻 1 号 p. 41-48
歯周病を再発防止するために患者さん自身の努力をサポートするSPTは,病状安定となった部位において特に重要である。本報では,初診時に全顎的に深いポケットをみとめ,前医ではすべて抜歯と診断された患者に対して,歯科衛生士が生活習慣に着目した介入を伴う歯周基本治療を行い,歯周外科治療を経てSPTへと移行した一症例を報告する。患者は33歳男性で,歯ぐきの腫れが治らない,奥歯で食べ物が噛みづらいとの主訴で来院。本症例では,歯周外科治療後に病状の安定,生活習慣の改善が認められたが,動的治療が終了し自覚症状が消失したことで患者のモチベーションが低下し,改善していた生活習慣やセルフケアが従来のものへと後戻りした。そのため,歯周治療終了後も長期に渡って良好な状態を維持するためにはセルフケアが鍵となってくること,SPTが必要であることを患者に再度説明した。また,患者自身による口腔の健康の維持増進を図るために,口腔内の現状と,その時点でのリスク部位の状態を説明した。そして,セルフケアを励行すると同時に必要に応じたプロフェッショナルケアを行うことで,病状の安定を図っている。喫煙習慣,セルフケアが困難な部位の残存など,リスク因子は残っているものの,定期的なSPTを継続することにより再発の予防及び健康の増進を目指せることが示唆された症例を報告する。
歯周治療により症状安定となった歯周組織の健康状態を維持するためには,病状安定の時期においても定期的にSPT(Supportive Periodontal Therapy)1,2)を行い,患者をサポートしながら健康を維持していくことが重要である。しかし,患者の中には歯周病に関する知識が少ない人も多く,病状の安定に伴い歯周病が完治し,再発しないと考える人や,生活習慣が歯周病に関連していることを理解していない人も多い。そのような患者に対して,歯科衛生士が専門的立場からアプローチを行い,患者自身で口腔の健康を維持していけるように働きかけていくことで良好な状態を保つことが可能となる。
本症例は,初診時に全顎的に深いポケットを認め,前医ではすべて抜歯と診断された患者に対して,歯周基本治療で歯科衛生士が生活習慣にも着目した介入を行い,歯周外科治療を経てSPTへと移行している。SPT中の現在も,喫煙習慣,セルフケアが困難な部位の残存等,リスク因子は残っているが,歯科衛生士が定期的なSPTを継続することで再発の予防及び健康の増進を目指し,症状は安定している。なお,本論文は倫理的配慮に基づき患者の同意を得て発表した。
患者:33歳男性
主訴:歯ぐきの腫れが治らない,奥歯で食べ物がかみづらい。
現病歴:高校生の頃から歯肉からの出血を自覚。以降近くの大学病院に通うが,治療はあまりしていなかった。前医ではすべての歯を抜いた方がよいと診断された。
全身的既往歴:全身的には健康であり,特記すべき全身疾患はない。21歳より1日15本の喫煙。
家族歴:特記事項なし
現症:
1)口腔内所見(図1-A)
全顎的に発赤・腫脹が認められた。
O'Learyのプラークコントロールレコード(PCR)は49%であり,特に歯間部には多くのプラーク残存が認められた。
2)エックス線所見(図1-B)
全顎的に1/2程度の水平性骨吸収が認められた。
3)歯周組織所見(図2)
全顎的に4 mm以上の歯周ポケット(Probing Pocket Depth, PPD)および動揺が認められた。
プロービング時の出血(Bleeding on Probing, BOP)割合は71%であった。
診断:日本歯周病学会による歯周病の分類(2006)より,広汎型侵襲性歯周炎3)と診断した。


1.歯周基本治療(口腔清掃指導,咬合調整,スケーリング・ルートプレーニング)
2.再評価
3.歯周外科治療(24-26, 43-48, 33-37, 13-17フラップ手術)
4.最終評価
5.SPT
問診と歯周組織検査等の検査資料をもとに,歯周病の原因と,進行の程度および治療法を説明し,セルフケアへの理解と協力を得た。
口腔衛生指導目標は,
①自らの口腔内状態および歯周病の病態を正しく理解する
②正しい口腔清掃習慣を身につける
③生活習慣と歯科疾患の関連について理解し,正しい生活習慣を身につける
の3つとした。
検査と問診より,患者の抱える問題点を,口腔内に関するものと生活習慣に関するものに分類して計画を立てた。
口腔内の問題点は,歯間部のプラークコントロール不良,および舌側・口蓋側に着色が認められることであった。
歯間部にはプラークの残存が認められるものの,全顎的に極端にPCRが悪いこともなく,チェアサイドでの歯ブラシの基本動作は概ね問題なかった。そのためスクラッビング法にて,歯頸部に歯ブラシを沿わせて清掃を行うことを徹底させた。また,歯間ブラシを2, 3日に1回ではあるが使用しているとのことなので,DENT.EX歯間ブラシSSS(ライオン歯科材株式会社,東京)を毎日使うように指導を行った。口腔内の状態の変化に伴い,歯間ブラシのサイズは適宜確認して適当なものを使うことを指導した。
生活習慣4)の問題点は,1日15本の喫煙習慣,生活が不規則,歯を磨かないで寝ることがあること,嗜好品として砂糖入り缶コーヒーをよく飲む習慣があることであった。
そこで,喫煙と歯周病の関わり5,6)や喫煙者の歯肉の特徴について,手鏡を用いて自身の口腔内を確認させながら説明を行い,禁煙を目指すことを指導した。また就寝前に歯を磨く効果および砂糖とプラークの生成7)について説明し,就寝前に必ず歯を磨くこと,砂糖入り缶コーヒーを控えお茶等の無糖飲料を代用することを指導し,生活習慣の改善を目指すこととした。
2. 再評価 2008年7月短期間でPCRは17%まで改善が認められ,また歯周組織の安定が認められたため,歯科衛生士の介入を一旦終了とし歯周外科治療へ移行した。
初診時に挙げられた問題点については,以下のような行動変容が認められた。
口腔内の問題に関しては,歯頸部への正しいブラシの当て方の定着および歯間ブラシ使用の習慣化が達成され,プラークコントロールの改善が認められた。さらに,歯間ブラシと併用して,DENT.EXウルトラフロスS(ライオン歯科材株式会社,東京)を使用することを提案した。
生活習慣の問題点に関しては,「禁煙は難しいが意識して煙草を減らすことを心がけている」,「1日10本への減煙は出来ている」とのことであった。1日3回,就寝前にも必ず歯を磨く事は習慣として定着し,砂糖入り缶コーヒーを避け,お茶を選択するようにしているとのことであった。
3. 歯周外科治療2009年2月24-26フラップ手術(KCB1-D(bFGF)治験)
2009年10月43-48フラップ手術
2010年1月33-37フラップ手術
2010年3月13-17フラップ手術
上記のとおり,歯周外科治療を行った。
4. 最終評価 2010年5月全顎的に歯周ポケットの改善,BOPは1%と減少が認められた。歯周外科治療に伴い,44に著しい歯肉退縮が認められた(図3,図4)。
PCRは52%であり,歯間部のプラークコントロールの悪化および前歯部舌側,口蓋側には着色が認められた。
口腔清掃や生活習慣については,「歯磨きは普通にしており,歯間ブラシは10日に1回程度残さを取るために使用している」,また「喫煙は1日15本へと戻った」ことが問診により判明した。
歯周基本治療終了時に比べ,セルフケアの実施状況の悪化及びモチベーションの低下が認められたため,歯科衛生士の再介入が提案された。
歯周組織や咬合の状態についての総合的評価を行った結果,深いポケットの残存は認められるものの,BOPの減少および歯肉の状態が落ち着いていることより,SPTへ移行することとなった。現状のプラークコントロール不良,清掃困難部位の残存,喫煙習慣が残っているなどの要素から,リコール間隔は2か月とした。


セルフケアの強化及び生活習慣の改善を促すとともにプロフェッショナルケアとして歯科医師および歯科衛生士が介入を続け,現状維持のために,再発予防,新たな疾患部位の早期発見及び早期治療を目指すことを目標とし,現在もSPTでの介入を続けている。
SPTでは状態維持のための長期目標を患者と確認し,患者のプラークコントロールをサポートすることを第一に,セルフケアとプロフェッショナルケア,それぞれに計画を立てて介入を行っている。
歯周基本治療時の介入により,歯磨きを1日3回欠かさず行うこと,砂糖入り缶コーヒーではなくお茶を選択するようにしていることは患者に定着しており,SPT移行に伴い新たに発生した問題および引き続き残る問題についてそれぞれアセスメントを行った。
セルフケアにおいては,新たに発生した問題として,44歯肉退縮部が清掃困難であることが挙げられた。歯間空隙が舌側方向へ広がり,コルが陥没しているため,DENT.EX歯間ブラシS(ライオン歯科材株式会社,東京)を44, 45の歯間部の広がりに対しては水平に挿入すること,またコルの陥没に対しては垂直に挿入することを指導した(図5)。
引き続き残る問題としては,ブラッシング不足および歯間ブラシの使用頻度の低下に伴うプラークコントロール不良,喫煙習慣が残っていることが挙げられた。
ブラッシングに関しては,歯ブラシの毛先で歯面を正確に捉えることを改めて指導し,歯間ブラシを1日1回,正しく使用することを指導した。
喫煙習慣に関しては,「状態が良くなったのでついたばこが増えてしまった」と患者自身も言っており,まずは歯周基本治療の際と同じく減煙から始め,禁煙を目指すこととした。
プロフェッショナルケアにおいては,新たに発生した問題として,TCH(Tooth Contacting Habit)の発見,またSPT時に25, 37に4 mmのPPDが認められ,歯周ポケットが深くなっていることが挙げられた。TCHに関しては,日常の生活の中で顎の筋肉が緊張していることに気づいたら,大きく口から息を吐いてリラックスし,上下の歯を離すように指導した。25と37に関してはプラークコントロールを再度確認し,必要に応じて再SRPを行うことで介入を続けている。
引き続き残る問題としては,付着物による歯面粗造が認められる。セルフケアが安定するまではPMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)を徹底し,セルフケアに重点を置く方向へシフトするよう介入を続けている。
毎回のSPTでは変化がないか問診を必ず行い,口腔内のリスク部位から口腔内の状態を確認し,状態の説明を必ず行って,患者とともに問題点の解決をはかるようにしている。
2014年4月の来院時には,25, 37に4 mmのPPDが認められたものの,PCRは21%であり,状態は落ち着いている(図6-A, B,図7)。



歯周治療終了後の健康状態を維持するためには,継続したSPTを効果的に行うことが重要となる。本症例においては歯周外科治療を含む歯周治療により状態は改善したが,歯周外科治療後に患者のモチベーションの低下が認められ,プラークコントロール低下が見られた。原因として,歯周基本治療,歯周外科治療を経て自覚症状がなくなったため,セルフケアに対する患者のモチベーションが低下していたことが考えられる。そのためSPT期においては,セルフケアが困難な部位および喫煙習慣がリスクファクターとして現在も残っていることを示し,口腔の状態の維持のための新たな長期目標を確認することで健康に対する意識を強化している。「完全な治癒がない」,「再発の可能性が残る」等,慢性疾患の特徴を持つ歯周病の治療においてSPTとして長期に患者と関わる中で,患者のモチベーションの低下は避けがたいものがある。しかしながら,SPTとして歯科衛生士が関わり,セルフケアの強化およびプロフェッショナルケアとして介入してくことは患者の健康を維持するうえで重要である。
本症例では,様々な要素を抱える患者の問題点を,セルフケア・プロフェッショナルケアおよび新しく発生した問題・引き続き残る問題と分類し,それぞれに対して介入を行っている。セルフケアとプロフェッショナルケアのバランスをとりながら,患者が自身で口腔の健康を維持増進できるように働きかけている。これは,患者が自身では気づくことが出来ない口腔内の状態について,毎回説明を行い,患者が実践できるような計画を立てること,歯科衛生士が口腔清掃指導に限局せず生活習慣にも着目した介入を続け,口腔内に限らないリスクに対してアプローチを行うことにより,リスクを抱えていても病状の安定を望めることが改めて示唆されたといえる。
本症例を通して,再発のリスクを抱えながらも定期的なSPTを行うことで,病状の安定,口腔の健康の維持向上が目指せるということが改めて確認された。患者自身の口腔内に限らない様々な情報をアセスメントし,患者自身のセルフケアを支えると共に,専門的な立場から適切なプロフェッショナルケアを継続して行うことで歯周組織の健康を維持することが可能であると考えられる。
本稿を終えるにあたり,丁寧なご指導,ご助言をいただきました歯科衛生保健部の皆様に心よりお礼申し上げます。本論文は第57回春季日本歯周病学会(2014年5月24日)においてポスター発表した内容に一部追加,改変を行って掲載した。