日本歯周病学会会誌
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歯科衛生士コーナー
超音波スケーラーの現在
沼部 幸博
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2015 年 57 巻 1 号 p. 49-52

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はじめに

前回は,「SRPに使用する器具」として,超音波スケーラー,エアスケーラーやキュレットについて取り挙げた。今回はさらに超音波スケーラーに焦点を当て,その機能や臨床成績について解説する。

超音波スケーラーの原理と利点

歯周治療において,歯肉縁上歯石,歯肉縁下歯石を確実かつ効率的に除去する方法が常に求められてきた。現在ではスケーリングの手段として,手用スケーラー(hand scaler)を用いる方法に加え,パワードリブンスケーラー(power-driven scaler)と呼ばれる超音波スケーラー(ultrasonic scaler)やエアスケーラー(air scaler)(または音波スケーラー(sonic scaler))など,振動を利用して歯石を破砕する器具が開発され,広く利用されている。

とくに超音波スケーラーの原理は,超音波発生装置による電気振動を振動子で機械振動に変換し得られた高振動エネルギーをチップに伝達し,それで生じる微細振動を利用して注水下で歯石を剥離,破砕するものである。

具体的には超音波スケーラーは,1)超音波振動するチップによるメカニカル(機械的)な歯石の破砕,2)冷却目的の注水によるポケット内イリゲーション(洗浄),3)水と超音波振動により発生した気泡が内方向に破裂するエネルギーを利用したキャビテーション(空洞現象)の効果,4)マイクロストリーミング(渦状の定常流)によるキャビテーション領域の拡大などの効果により,ポケット内のデブライドメントを行うとされる。

現在の超音波スケーラーには圧電型(Piezoelectric)(ピエゾ式)と磁歪型(Magnetostrictive)(マグネット式)とがあり(図1),いずれも25,000~50,000 Hz/秒程度の周波数の超音波振動を利用し,注水下で歯石を粉砕,除去する。本邦におけるシェアは圧電型(ピエゾ式)の方が大きいとされる。

圧電型(ピエゾ式)と磁歪型(マグネット式)との大きな違いは,チップの先端部の動きであり,圧電型(ピエゾ式:EMSなど)ではチップ先端部がリニアストローク(線運動)を,磁歪型(マグネット式:キャビトロンなど)ではエプティカルストローク(楕円運動)を描く(図1)。

開発当初の超音波スケーラーは先端のチップが太く,歯肉縁上歯石の除去には有用であっても,歯肉縁下に応用するのはポケット内へのチップの到達性,根面のセメント質に与えるダメージへの懸念も含めて不向きとされていた。

しかし現在の超音波スケーラーは,チップがより細く長く,歯周プローブに類似の形状と太さとなり(図2),また使用時に発生する熱の冷却と除去された削片をポケットから洗い流すための注水効果も向上し,歯肉縁上だけでなく歯肉縁下への積極的応用が可能となっている。そしてとくに手用の鋭匙型スケーラー(キュレット)の操作では不得意とする深い歯周ポケット,幅が狭く刃の動きが制限される歯周ポケット,同じく根分岐部などに対応した形状のチップの開発により,その利便性が飛躍的に高まっている1)

それゆえ,超音波スケーラー使用時の注意点としては,アクセスする根面や歯周ポケットの形態に応じた適切なチップの選択,チップの形状に合った的確なストロークや接触圧および角度の維持を心がける必要がある。重要なこととして,チップは使用時間が長くなることで先端部が磨耗して形状が変化し,明らかに作業効率が低下する。よって各製品にはチップの磨耗状態を確認するガイドが附属しているので,磨耗率が大きくなった場合には交換する必要がある(図2)。作業効率を維持し,セメント質への過剰なダメージを避けるためにもこまめなチェックが必要である。

さらに実際の作業時には適切な超音波のパワーと水量レベルはキャビテーション効果に影響を与えるため,目的に応じた適切なパワーの調節と水流コントロールが必要である。

図1 超音波スケーラーのタイプとチップ先端部の動きの違い
図2 歯周プローブ(左端)と超音波スケーラーチップの大きさの比較と,チップの長さのチェックシート。圧電型(ピエゾ式)の例チェックシートにチップを当てはめ,先端部が赤線より摩耗している場合は交換が必要

超音波スケーラーの利点と臨床成績

手用の鋭匙型スケーラー(キュレット)と比較した超音波スケーラーの利点・欠点を図3に示す。

超音波スケーラーの歯周治療の臨床成績に関する見解として,手用スケーラーとの臨床効果の比較では,施術時間は短縮され2,3),臨床症状は同等もしくはより改善されたとする報告が増加している(図41,4)

鋭利な刃部を有している手用スケーラーであるキュレットは,歯肉縁下での操作性に優れ,歯根面に付着している歯石の粗造感を手指の感覚により探知し,細やかな動きで歯石を削除,その後汚染セメント質の除去や根面の傷や凹凸の滑沢化を行うルートプレーニングには最適である。超音波スケーラーのチップではキュレットのような繊細な操作は困難であるが,先の臨床成績の研究を見る限り、歯肉縁下の環境改善を促すに充分な機能を有していることが伺える。また超音波スケーラーはキュレットでのスケーリングよりも歯根表面の削合量や与えるダメージが少ないという報告があり1,5,6),歯根面に誤ってチップの先端を垂直に当てるなどの誤操作をしない限り,過剰なインストゥルメンテーションから根面を保護する観点からも有利と考えられる。

さらに超音波スケーラーの根分岐部用のチップの適切な選択により,根分岐部病変に対する対応もキュレットより有利であることを述べている研究もある7)。この理由として幅が狭く複雑な形状を持つ根分岐部では,歯石除去に必要なキュレットの刃部のストロークがかなり制限されるのに対し,超音波スケーラーのチップの場合,適合したチップを選択できれば,処置の対象部位にチップ側面を当て,ほとんどストロークを必要としないで対応できることが考えられる。しかし根分岐部への対応に適したキュレットも開発されており,適切な器具の選択や術者のスキルの要素も関連すると考えられる。

このように,手用スケーラーと超音波スケーラー,それぞれの器具の持つ長所と短所はあるものの,臨床的には超音波スケーラーの有用性を示す臨床研究が増加している。

図3 手用スケーラーと比較した超音波スケーラーの利点と欠点
図4 超音波スケーラーの臨床的特徴

おわりに

超音波スケーラーは,先に述べた利点・欠点を熟知し,チップの歯根面への応用の技能が確実であれば,キュレットと同様,またはそれ以上の良好な臨床成績を得ることが可能である。しかしこれは決して手用スケーラーの必要性を軽視するものではない。多くの臨床論文が証明するように,歯周ポケットに対して確実かつ繊細な対応を行う上ではキュレットが不可欠である。

よってこの二つの優れた歯肉縁下デブライドメントに対する器具の認識としては,どちらかに偏った使用をするのでなく,「それぞれの器具の特徴と使用法を十分理解し,様々な臨床の局面でそれぞれを併用,効果的に使い分ける」ことが重要である。

References
 
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