日本歯周病学会会誌
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症例報告
歯周基本治療により改善した広汎型重度慢性歯周炎の一症例
石原 彰子
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2017 年 59 巻 2 号 p. 77-86

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要旨

本報では,重度慢性歯周炎の患者に対して,生活背景を問診し患者に気づきを与えセルフケアの向上につなげ,歯周基本治療で良好な結果が得られた症例について報告する。

患者は39歳女性で,上顎右側臼歯部の咬合痛を主訴に来院した。初診時の臨床所見は全顎的に歯肉の退縮と発赤・腫脹を認め,エックス線所見では全顎的に重度の水平性骨吸収があり,臼歯部には一部垂直性骨吸収を認めた。歯周組織検査ではプロービングポケットデプス(PPD)7 mm以上の割合が41.9%,プロービング時の出血(BOP)部位の割合が92.2%であった。

医療面接では,患者が歯科への強い不信感を持っている点を受け入れ,これまでの生活背景と口腔内の変化を振り返った。患者教育については,本人だけでなく家族全員の歯周治療を行うことによって治療意識を高め,歯周炎が進行した原因を一緒に考えることで患者に気づきを与えセルフケアの向上につなげた。

同時にハンドスケーラーを用いたスケーリング・ルートプレーニング(SRP)を行い,歯肉縁下の感染源の除去に重点をおいて歯周基本治療を進めた。再評価を行って臨床的に改善の不十分な部位についてはその原因を考察し再SRPを行い,歯周状態の改善・安定を得ることができたことを確認し,サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)に移行した。3年後,PPD 4 mm以上の割合は4.8%,BOP部位の割合は1.8%になり良好な経過を得ている。

緒 言

歯周病は感染症であり生活習慣病との関連が強い疾患である。生活習慣病は,これまで日々どのような生活を送ってきたのかということがその発症に深く関わっており,2型糖尿病1,2),喫煙3),肥満症4),動脈硬化症5)と歯周病との関連は相互に危険因子である。「健康日本21(2次)」運動の中にも栄養・食生活,身体活動・運動,休養,飲酒,喫煙と並んで口腔の健康に関わる生活習慣の改善が掲げられている。

歯周病の患者に対して歯周基本治療を行う際には,まず初めに患者教育を行うことが必要である。歯周病は生活習慣や全身の健康状態が修飾因子となり発症・進行に深く関与している生活習慣病の特徴を持っていることから,現在までの生活背景や全身及び口腔内の状況の変化を振り返り,発症と進行に関わったリスクを洗い出し,治療方針に反映させることが重要である。さらに歯周病は感染症であるため,感染源の除去として歯肉縁上・縁下のプラークコントロールが大切であり,感染ルートを推察し今後の感染の拡大を阻止することが重要である。これらのことを患者教育の中で理解させ,患者自身が歯周治療に参加する意義と必要性を認識させることが歯科衛生士の重要な役割の一つである。

本症例では,歯科に対する不信感を抱いていた重度慢性歯周炎患者に対して,十分にコミュニケーションを図りながら患者教育を行い,自らの生活を振り返って歯周病が悪化した原因を推察することでモチベーションを高め,セルフケアの向上につなげた。さらに,徹底した歯肉縁下の感染源の除去として,術者によるデブライドメント(歯周ポケット内洗浄,SRP)を行った結果,歯周基本治療後,良好な歯周組織へと改善しSPTに移行した。患者は口腔への価値観が高まり,過去の乱れた生活習慣を改めSPTを継続し,現在まで安定した歯周組織を維持できているので報告する。

症例

1. 主訴及び現病歴

患者は39歳女性で,2010年1月上顎右側臼歯部咬合痛を主訴に来院した。約3カ月前より同部位の動揺が顕著となり,1週間前から咬合痛を自覚するようになった。当院にて加療中であった母親に勧められ来院した。

2. 歯科既往歴

10歳の頃,反対咬合のため矯正歯科を受診しワイヤーを用いた矯正治療を開始したが,別の医院で矯正中の友達から話を聞き,自分の治療法に不信感を抱き治療を中断した。この頃からブラッシング時の歯肉出血があった。20歳代で歯肉の腫脹を自覚し,30歳代から下顎前歯部の動揺,歯肉退縮,歯肉の違和感があった。27と45は齲蝕を放置していたため,33歳頃に抜歯された。2年前に15の齲蝕治療を中断した後,歯科への通院が途絶えた。

3. 全身既往歴

25歳時,急性膵炎のため入院,加療を行った。37歳時,子宮内膜症,卵巣嚢腫と子宮筋腫の手術を受けた。それ以後,黄体ホルモンと卵胞ホルモンの配合剤(ルナベル)を服薬していた。20~37歳まで1日に20本の喫煙歴があり,37歳の手術の際に禁煙し,現在も継続している。

4. 家族歴

父(68歳),母(64歳),弟(35歳)が広汎型中等度慢性歯周炎に,妹(37歳)が歯肉炎に罹患していた。現在,家族も当院に継続来院している。

5. 現症

1) 口腔内所見

プラークコントロールレコード(PCR)は80.8%で,舌側・口蓋側の歯頚部と隣接面に薄くプラークが付着していた。歯肉は退縮し,舌側・口蓋側の辺縁歯肉には顕著な発赤・腫脹を認めた。また,不正咬合と歯列不正を認めた(図1)。

図1

初診時の口腔内写真(2010年1月)

全顎的に歯肉退縮,舌側・口蓋側に発赤・腫脹を認めた。

2) デンタルエックス線所見

全顎的に中等度から重度の水平性骨吸収,臼歯部には一部垂直性骨吸収を認め,骨頂部の歯槽硬線は不明瞭であった。下顎前歯部と上顎臼歯部は歯根膜腔の拡大があり,全顎的に多くの歯石沈着を認めた(図2)。

図2

初診時エックス線写真(2010年1月)

全顎的に中等度から重度の水平性骨吸収があり,臼歯部には一部垂直性骨吸収を認めた。

3) 歯周組織検査

PPD 1~3 mmの割合が15.6%,4~6 mmの割合が42.5%,7 mm以上の割合が41.9%であった。BOPを有する割合が92.2%であり,歯の動揺はMillerの分類で17,25,48が3度であり,他の多くの歯が1~2度であった(図3)。

図3

初診時と基本治療終了時の歯周組織検査結果

初診時,PPDの平均値が6.0 mm,BOP部位の割合が92.2%であった。

基本治療終了時,PPDの平均値が2.8 mm,BOP部位の割合が3.9%に改善した。

6. 診断および治療方針

口腔清掃不良によって進行した広汎型重度慢性歯周炎と診断した。不正咬合による咬合性外傷に加え,喫煙を含めた生活習慣の乱れが増悪因子として働き,歯周病が進行したと推測された。

治療方針としては,感染源の除去と患者教育を徹底して行うこととした。

7. 治療計画

1)歯周基本治療

(1)患者教育

①歯周病の原因と進行,治療法について理解させる

②病状の説明,進行してしまった時期と生活背景を探る

(2)口腔衛生指導(TBI);テーパー毛ハブラシと歯間ブラシ

(3)SRP

(4)17,25抜歯;15,16,46根管治療;咬合調整;24,36齲蝕治療

2)再評価検査

3)歯周外科治療

4)再評価検査

5)口腔機能回復治療

6)再評価検査

7)SPT

8. 治療経過

患者は,当院で加療中であった母親の強い勧めで来院した。歯科嫌いで何度か治療を中断していたことを母親から聞いていたため,初診時には患者が来院したことを歓迎し,不安を与えないよう丁寧に説明してから検査を行った。

7 mm以上の深い歯周ポケットが多数存在し排膿を認めたため,アジスロマイシンを投薬した6,7)

1) 医療面接[2010年1月] (図4)

初めに,歯周病が進行してしまった原因を一緒に考え,対策を立てるためにカウンセリングを行うことを伝えた。そして,これまでのブラッシング習慣,歯科既往歴,生活習慣について問診を行った。

図4

医療面接による患者背景と問題点の把握

1) 幼少期

同居していた曾祖母,祖母,叔母(父の妹二人)に主に世話をされ,噛み与えや口移しもあった。家族全員,食後のブラッシング習慣がなく,気になった時だけ磨く程度であった。

2) 10代

反対咬合のために矯正歯科へ通院を始め,ワイヤーを装着した。治療開始半年頃に治療法に不信感を抱くようになり,受診を中断した。患者は小学校高学年の頃,ブラッシング時の出血を自覚していた。また,学校検診で要齲蝕治療となり歯科受診をすると,その度に齲蝕が進行していることを怒られ,嫌な思いを繰り返し歯科受診が嫌いになった。その後は極力,歯科を受診しないようになった。

3) 20代

21歳の時から2年間,実家を出て県外で仕事をしていた。友人数名と生活していたが,多量に飲酒し食事が不規則となって不摂生な生活をしていた。また,仕事上の人間関係からストレスも抱えていた。25歳の時,急性膵炎で入院し仕事を辞めてその後2年間は実家で療養していた。その頃患者は,歯肉の腫脹と違和感を自覚していたが放置していた。

4) 30代

患者は常にどこかの歯肉が腫脹し口腔内の不調を感じていた。37歳の時,子宮内膜症と卵巣嚢腫になり手術を受け,同時に子宮筋腫の手術も行った。20歳から1日20本の喫煙を続けていたが,医者に禁煙を勧められ辞めることができた。

2) 歯周基本治療

1) 患者教育[2010年1月~]

患者は歯周病に関しての説明や口腔清掃指導を受けたことはなく,歯周病の自覚はあったが歯科への嫌悪感が強かったため歯科受診を避けていた。そこで歯周病の原因と進行の仕方について図を使って説明し,患者の口腔内写真や歯周組織検査表,デンタルエックス線写真を用いて病状を説明し現状の認識を図った。

また,喫煙が全身と口腔内に及ぼす有害性9)を説明し,禁煙のメリットを伝え2年前に禁煙したことを誉めた。父親にも禁煙支援を行ったが現在も喫煙者であるので,患者に受動喫煙に注意すること,そして決して再喫煙しないよう指導した。ストレスが歯周病に及ぼす影響8)について,飲酒による唾液分泌低下と細菌増殖など歯周病との関係10)について,また女性ホルモンの口腔への影響11)について説明した。

2) TBI[2010年1月~]

患者は来院の数か月前から歯の動揺が増大し不安に思い,1日に1~2回磨くようになっていた。ブラッシング時の痛みと出血があったため,柔らかめのテーパー毛歯ブラシを処方し歯面に毛先を直角に当て弱い力で小刻みに動かすよう指導した。2週間後,ブラッシング時の痛みが軽減し非常に磨きやすくなった。プラーク染色液を用い,口腔内観察用のミラーで合わせ鏡にしてプラーク付着部位を患者自身に確認してもらった。手鏡を見ながら一本ずつ順にブラシの角度を一歯面ごとに変えて,薄く付着しているプラークも徹底して除去するよう指導した。患者は積極的に工夫して磨くようになり,毎食後10~15分間ブラッシングを行うようになった。

また,歯間ブラシMサイズを用いた清掃指導を行った。歯肉の炎症は浮腫性で歯槽骨の吸収も水平性であったため,炎症の消退とともに歯肉退縮し歯間鼓形空隙が増大することが予想されるということを事前に伝えた。

3) SRP[2010年2~10月]

セルフケアの改善を確認後,歯肉縁上スケーリングを行い,その後歯肉縁下のSRPを開始した。歯肉縁上スケーリングでは超音波スケーラー:Varios(ナカニシ社,東京)を,歯肉縁下SRPでは手用スケーラー:グレーシーキュレット,グレーシーアクセス(アメリカンイーグル社,Missoula,米国)を主に使用した。

SRPの際にはデンタルエックス線写真を見ながら根面を触知し,浸潤麻酔下でSRPを行った。細かい粒状の歯石が多量に沈着していた。徐々に歯間鼓形空隙が増大したので,過剰な退縮を防ぐために歯間ブラシを根面に沿わせて角度をつけて挿入するよう指導した。SRP後,32に知覚過敏症状が生じたが約3か月後に消失した。

4) 再評価[2010年11月]

初診時と比較すると改善がみられたが,PPD 4 mm以上の割合が34.4%,BOP部位の割合が23.9%,PCRの割合が57.5%であり歯間部に炎症を認めた(図5)。歯間ブラシを追加し,Lサイズを歯間鼓形空隙の広さに合わせて挿入するよう指導した。歯肉縁下歯石が残っていないかを視診・触診に加えてデンタルエックス線写真でも確認した。

図5

歯周治療と臨床評価

上段の折れ線グラフは,全顎における各項目の部位の割合を示す。

下段は治療経過を示す。

5) 再SRP[2010年12月~2011年1月末]

歯石の残存が疑われる個所に対して,ブレードの幅を1/2に修正した手用スケーラーを用いて根面や歯肉を傷つけないよう注意深く非麻酔下で再SRPを行った。32,31,41,42は動揺度が2度あり,二次性咬合性外傷を防ぐため暫間固定を行った。

3) 再評価[2011年3月]

PPD 1~3 mmの割合が88.3%,BOP部位の割合が3.9%,PCRの割合が28.5%であった(図3, 5)。根面を探知すると滑沢であり,歯石は除去できていると判断した。17は近心面のPPD 7 mm,動揺度3度,25は動揺度2度,デンタルエックス線写真において根尖部周囲の透過像の改善が見られず,保存困難と診断し抜歯した。

再SRP後,約9か月経過した2011年11月末に全顎デンタルエックス線写真を撮影し,骨頂部の歯槽硬線が明瞭化していることを認めた(図6)。主治医と相談の上,歯周外科治療は行わず,以後長期に歯肉縁上・縁下のプラークコントロールを徹底し継続していくこととした。

図6

再SRP後 約9か月経過時のデンタルエックス線写真(2011年11月末)

歯石は認めなかった。骨頂部の歯槽硬線が明瞭化しているように見える。

4) 口腔機能回復治療[2011年3月~2012年7月]

⑯17⑱ブリッジ;㉔25㉖27㉘ブリッジ;15,46,47クラウンを装着し,その後ナイトガードを作成した。

5) 再評価[2012年8月]

PPD 1~3 mmの割合が100%,BOP部位の割合が0.6%に改善し,全顎において歯肉の発赤・腫脹は消退し,主治医によって歯肉縁下の感染源の除去ができ病状が安定したことが確認された(図5, 9)。

6) SPT[2012年9月~現在]

現在,初診から約6年経過しているが,1~2か月の間隔でSPTを継続している。全顎的に炎症の消退に伴い歯根露出と歯間鼓形空隙は増大しているが,歯肉の発赤・腫脹は見られず炎症のない状態である(図7)。エックス線所見では,歯肉縁下歯石が除去され全顎的に歯槽硬線が明瞭化しており,特に下顎前歯部で顕著な明瞭化を認める(図8)。PPDも安定しており,BOPとPCRの値はともに5%以下を常に維持している(図5, 9)。

過去の不摂生な生活が繰り返されないように,生活環境に変化がないかを毎回問診し,セルフケアの重要性を伝えている。今後更年期を迎え,女性ホルモンの減少や骨粗鬆症のリスクも高くなることを伝え,歯周病にも影響があることを説明した。また,歯肉縁下の根面が粗糙になっていないか確認し,超音波スケーラーやハンドスケーラーを用い必要に応じてデブライドメントを行っている。そして主治医と共に,過剰な咬合負担がかかっていないかをチェックし,ナイトガードの使用状況を確認している。

なお,患者が㉔25㉖27㉘ブリッジの金属の味が気になるとの訴えがあり,2013年1月にジルコニアのブリッジに再製し,違和感は解消された。

図7

SPT時の口腔内写真(2015年7月)

全顎的に歯肉の発赤・腫脹は見られず,炎症の消退に伴い歯根が露出し歯間鼓形空隙が増大した。

図8

SPT時のエックス線写真(2015年5月)

全顎的に歯槽硬線が明瞭化しており,特に下顎前歯部で顕著な明瞭化を認めた。

図9

SPT移行時とSPT3年後の歯周組織検査結果

SPT移行時,PPDの平均値は2.6 mm,BOP部位の割合は0.6%に改善した。

3年後,PPDの平均値は2.6 mm,BOP部位の割合は1.8%であり経過は良好であった。

考察

本患者は,初発年齢が20代であり骨吸収が重度に進行していることから侵襲性歯周炎の可能性も考えた。家族の歯周炎の罹患状況および患者への医療面接から,来院までの過去の口腔内の変遷と歯科既往,生活背景を詳細に把握することによって,プラークコントロール不良と不正咬合による咬合性外傷に加え,喫煙を含めた生活習慣の乱れおよび過度のストレスなどの全身性要因が増悪因子として深く関与していると考えられ,広汎型重度慢性歯周炎と診断した。

歯周基本治療の中で歯科衛生士として重視した取り組みは,信頼関係の構築である。10歳頃に齲蝕治療で歯科受診をした際,歯科医師の言動に傷つき,その後は極力,歯科受診を避けてきたことなど,患者の言葉に耳を傾け,開かれた質問を多用し患者が自主的に話しやすいようにするとともに,相槌を打つことや患者の言葉をそのまま反復または言い換えをすることで患者を受け入れ承認し,また話の内容を整理するよう努めた。そして,歯科既往歴や生活背景とともに当時の気持ちを正直に話してくれたことに対して感謝の気持ちを伝えるようにし信頼関係の構築を図った。歯周病の原因と進行,治療法,メインテナンスに関して資料を見せながらわかりやすく情報提供すると共に,歯周病は感染症であり生活習慣病の特徴を持つ点から患者固有の悪化原因を患者とともに探求することで,その後の歯周治療のモチベーションにつなげた。

その結果,患者は口腔への関心が高まり,口腔清掃や食事を含めた生活習慣の重要性を認識し,健康観が向上した。さらに,治療後,歯周状態の改善を実感し,全身の健康状態と口腔内の健康とが相互に関わっているということを体感したことで口腔への価値観がより高まった。現在は体調もよくなり,表情や雰囲気も初診時とは別人のように明るくなっている。

歯周基本治療の中で歯科衛生士が重視したもう一つの取り組みは,感染源の除去としてのSRPである。根面を探知しデンタルエックス線写真を照らし合わせ,根面形態と歯石の沈着状態をイメージしながら注意深くSRPを行った。歯周ポケットへの挿入時には,カッティングエッジを根面に立てずに寝かせた状態で,ヒール側へバックさせながら辺縁歯肉を傷つけないように挿入し,歯石の最深部を始点として終点で止めるよう意識しストロークさせた。垂直,斜めのストロークと共に水平ストロークも多用し,ブレードの先端約2 mmを根面から浮かせないよう注意を払った。

Stambaugh12)らは約4 mm以上の歯周ポケットの場合,SRPでは歯石を完全に除去できる確率より,取り残す可能性の方が高いと報告している。患者は4 mm以上の歯周ポケットの割合が84.4%を占め,初回のSRPだけでは歯石を完全に除去できないと考えた。再評価時には視診・触診に加え,全顎デンタルエックス線写真撮影も行い,歯石の残存の有無を確認した。臨床的に改善の不十分な部位についてはその原因を考察し再SRPを行った。16の近心は3壁性骨欠損があり頬側近心根と口蓋根の分岐部に粗糙感があった。14,24,25の近遠心面には根面が凹形態のコンケイブ,37の近心は3壁性骨欠損で深い歯周ポケットが残存,46近心面には根面に凹みがあり探知すると粗糙感があった。歯肉の炎症が軽減しキュレットが挿入しにくくなっているため,ブレードの幅が約1/2になるように適切にシャープニングしたグレーシーキュレットを使用した。また,根分岐部や根面の陥凹では,超音波スケーラーも併用した。2011年3月再評価を行い,再SRP後約9か月経過した2011年11月末の全顎エックス線撮影時,骨頂部の歯槽硬線が明瞭化していることを認め,SPTへ移行した。

Kaldal13)らの報告によれば非外科的歯周治療と歯周外科治療の効果を7年間追跡調査し比較した場合,初診時7 mm以上のPPDを有する部位においても,PPDは歯槽骨外科手術を伴った歯肉弁根尖側移動術(APF)で最も減少するものの,スケーリング・ルートプレーニング,ウィドマン改良フラップ手術,APFの3つの処置方法でSPTを7年間追跡した結果,ほぼ同等のアタッチメントゲインが得られることが示された。初診時7 mm以上のPPDが41.9%であった本患者に対して歯周基本治療終了時4 mm以上のPPDが11.4%であったが(図3),歯周基本治療後,患者のプラークコントロールが更に改善したことに加え,今後,長期に渡るSPTを継続し歯肉縁上・縁下のプラークコントロールを徹底することで歯周組織の安定が得られると考え,歯周外科処置は行わないこととした。

本症例を通して,歯科衛生士として患者の背景を踏まえて歯周炎進行の原因を追求するとともに,それに基づいて治療を行っていく重要性を改めて感じた。

今後は,セルフケアの管理と術者による歯肉縁下のプラークコントロールを重視し,またナイトガードの使用状況と咬合性外傷の確認を行い,卵巣嚢腫などの経過やまた加齢に伴う心身の変化にも配慮し,SPTを継続することが重要と考える。

謝辞

本稿を終えるにあたり,丁寧なご指導,ご助言をいただきました国立療養所邑久光明園歯科医長の新井英雄先生,当院院長の原博章先生,岡山大学大学院医歯薬学総合研究科歯周病態学分野の山城圭介先生に深く感謝いたします。また,本稿で紹介した症例に取り組む上で,御協力いただきました当院の歯科スタッフの皆様に心より感謝いたします。

本論文は第58回秋季日本歯周病学会学術大会(2014年9月13日)においてポスター発表した内容に一部追加,改変を行い掲載した。

今回,日本歯周病学会の学会誌で症例報告を行うことに関して患者の同意を得ている。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
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