2019 年 61 巻 3 号 p. 114-126
歯周病はプラークにより惹起される炎症性疾患であり,地球上に最も広く蔓延する感染症の一つである。現在,歯周病患者に対し,プラークコントロールに始まる原因除去を目的とした歯周基本治療や,オープンフラップデブライドメント(OFD)に代表される組織付着療法,歯肉弁根尖側移動術/骨整形・骨切除術等の切除療法により,歯周組織の環境改善と天然歯の保存がある程度可能である。しかし,深い骨縁下欠損や根分岐部病変を有する中等度/重度歯周炎患者においては従来の治療だけではその効果に限界があり,知覚過敏・根面カリエスの発現,審美性の低下等の問題も生じる。そこで著しく破壊された歯周組織の形態と機能を完全に回復(再生)し,天然歯の延命や合併症の軽減,審美性の向上を求め,これまで40年以上にわたり様々な生体材料,生理活性物質(bioactive agents:BAs)や外科的アプローチが開発・臨床応用されている。
医科領域においても疾病により失われた組織・臓器の再生を目的に幹細胞,足場材料(スキャホールド),およびシグナル分子/BAsの3要素を積極的に利用する組織工学(Tissue engineering)アプローチ1)が1990年代に黎明期を迎え,種々の細胞を用いた細胞移植療法の幕が開けた。特に本邦では歯周組織欠損において骨髄間葉系幹細胞2),培養骨膜3)/歯根膜4-6)細胞シート等を用いた細胞移植療法の臨床治験が既に報告されており,今後さらなる展開が期待されている。
一方,エナメルマトリックスデリバティブ(EMD)はBAsの一つとして世界的に20年以上の臨床使用実績・効果が報告7-10)されている。本邦では塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)のリコンビナント製剤の歯周組織欠損への局所応用効果が多施設臨床試験にて検証11-13)され,歯周組織再生剤「リグロスⓇ」として2016年より世界に先駆けて臨床使用が可能となっている。このように歯周組織欠損では生体外から細胞移植を行わずとも,BAsの応用で簡便に良好な歯周組織の治癒/再生が得られることも知られている。そこで本稿では,歯周組織欠損その場(in situ)での環境整備とBAsと生体材料を活用し,臨在する宿主由来の幹細胞を効率的に活性化することで自己修復能を引き出す,いわば「In situ periodontaltissue engineering」の概念に基づいた歯周組織再生アプローチについて考察する。
著しい骨吸収を伴う歯周組織欠損における骨形態の回復・再建を目的にこれまで多くの骨移植材(生体材料)が開発・臨床応用されている。自家骨は骨形成能,骨誘導能,骨伝導能を全て有する骨移植材であり,ヒトの組織生検でも歯周組織再生が確認14,15)されているが,骨採取部位への外科的侵襲,供給量,早期吸収等の問題がある。欧米ではヒト脱灰凍結乾燥骨(DFDBA)16,17)などの同種他家骨や動物由来の異種骨18)が多用され,自家骨同様に組織学的に歯周組織再生が確認されているものもあるが,本邦ではプリオン病や未知のウイルス感染のリスク,倫理的問題等から厚労省未認可な医用材料が多い。こうした背景から安全性,供給性が高いハイドロキシアパタイト(HA)やリン酸三カルシウム(TCP)を始めとする人工骨の使用頻度が高い。しかし非吸収性のHAを歯周組織欠損へ応用後,残存するHA顆粒と歯根との癒着や,HAへのプラーク蓄積に起因する歯周炎の再発等の報告19)もあり,人工骨でも非吸収性材料は術後感染のリスクがあることが示唆されている。
そこで,著者らは複雑な歯周組織欠損へ注入可能な吸収性TCPセメント(CPC)に着目した。CPCは欠損部へ注入後,体温下で急速に硬化し生体内で骨置換を伴いながら吸収する人工骨であり整形外科領域で最初に報告20)された。まず歯周組織欠損におけるCPCの影響を検証すべく,イヌの顎骨に外科的に作製した骨欠損(開窓型欠損,3壁性骨欠損)へCPC移植を行った21)。12週後の組織学的評価において,CPCは炎症を惹起することなく,良好なスキャホールドとして骨伝導能を発揮し,その周囲に骨形成が認められた。さらにCPCと歯根面の間には欠損底部から伸展する新生セメント質と歯根膜様組織を認め,CPCが歯根面側においても創傷治癒の安定化に寄与する可能性が示唆された21)。そこでヒト骨内欠損におけるCPC移植(実験群)とOFD(対照群)の比較検証を目的に臨床治験22)を行った。両処置群共に術前に比べて術後1年で有意にポケットプロービング深さ(PPD)の減少と臨床的アタッチメントゲイン(CAL gain)の獲得が認められた。しかし,いずれの臨床パラメーターにも両群間で有意差は認められなかった。このことは対象欠損が実験群,対照群共に治癒の予知性が高い狭くて深い3壁性骨欠損(contained defects)8,23,24)が多かったことに起因すると考えられた。また実験群ではCPCの露出や1年後においてもCPCの一部残存を認める症例があり,吸収速度が遅いと生体材料が骨欠損スペースを占有し骨形成を遅延させている可能性が示唆された。そこで3壁性骨欠損においてCPC充塡のみの対照群に対し,CPC充塡硬化後,血液供給の促進を目的に,硬化体表面から骨欠損底部骨髄にまで機械的穿孔を行った実験群の治癒を比較した21)。その結果,対照群では欠損中央部での骨形成がほぼ認められなかったのに対し,実験群ではCPC充塡部位よりむしろ穿孔部位に骨形成が進んでいた(図1)。このように歯周組織欠損での骨移植材料の使用の際は,単に骨欠損を充填/補填するものではなく,骨伝導能を保持しながら組織再生スペースを占有せず,徐々に新生骨への置換を可能とする吸収性材料の選択が望ましいと考えられる。

対照群(a)3壁性骨欠損(CPC充塡のみ),(b)弱拡大像(scale bar:1 mm),実験群(c)3壁性骨欠損にCPCを充塡硬化後,機械的穿孔,(d)弱拡大像(scale bar:1 mm)D:象牙質,JE:上皮の最根尖側端,NB:新生骨,BLT:骨様組織,NC:新生セメント,PDL:歯根膜様組織,CPC:リン酸カルシウムセメント(ヘマトキシン・エオジン染色)(文献21より一部引用改変)
歯周組織はセメント質・歯根膜・歯槽骨の硬・軟・硬組織といった三位一体のサンドイッチ構造を有する付着器官を有する点で生体内でも極めて特異な組織と言える。このような解剖学的背景を考慮すると,上述のように歯周組織欠損への骨移植材の充塡・補填だけでは十分な歯周組織再生は困難であるかもしれない。ただ興味深いことに,結合組織性付着を担う前駆細胞が歯根膜中に存在すること25-27),歯根膜中の内在性体性幹細胞(歯根膜幹細胞:PDLSc)が骨髄間葉系幹細胞より増殖能が高いこと28),セメント芽細胞や骨芽細胞に分化能があること29)が報告されており,歯周組織再生療法においてPDLScのポテンシャルに期待する処は多い。
実際,骨内欠損上にメンブレンを設置することで,歯肉上皮,歯肉結合組織由来細胞の侵入を防ぎ,残存するPDLScを選択的に誘導し,確保されたスペースに歯周組織再生を自律的に促すという組織再生誘導法(Guided Tissue Regeneration:GTR法)30,31)が生物学的原理に基づく治療法として開発され,その臨床効果がこれまで報告32,33)されてきた。まさにGTR法はIn situ歯周組織再生アプローチの原型と言えるが,後述するBAsの応用に比べメンブレンを用いるため術式が煩雑で時間/技術を有すること,適応部位や範囲,歯根の近接といった解剖学的制限を受け易いこと,GTR法後に認められる新生セメント質は元来天然歯に認められる無細胞性セメント質より有細胞性セメント質が優勢で,regeneration(再生)というよりむしろrepair(修復)ではないかとの指摘もある34,35)等の点から,近年ではGTR法単独での使用頻度は減少している。しかし歯根膜組織の存在が歯周組織再生のカギになることに変わりは無く,クラスIIIの根分岐部病変において歯根の入れ替え移植36)を行った場合でも歯周(骨)組織の再生が確認できる(図2)。

クラスIII根分岐部病変における近遠心根入れ替え移植アプローチ
(a)クラスIII根分岐部病変(イヌ);分岐部病変作製後,歯根分割のみ行い静置(対照群),近遠心根入れ替え移植方法,(b)移植前,(c)近遠心根抜根後,場所を入れ替えて移植を行い,残存する歯根膜組織による分岐部の歯周組織再生を期待,(d)入れ替え移植後(実験群),移植10週後の治癒像,(e)対照群の弱拡大像,(f)(e)のフレーム部強拡大像,(g)実験群の弱拡大像,(h)(e)のフレーム部強拡大像,N1:根尖部ノッチ,N2:歯冠側ノッチ,JE:上皮組織,NB:新生骨,トルイジンブルー染色(文献36より一部引用改変),(i)クラスIII根分岐部病変(64歳,男性);36根分岐部中央にPPD(10 mm 頬側,9 mm 舌側),プロービング時の出血(BOP+)および排膿(pus)を認めた,(j)36分割抜歯後の近心根近心面(左),遠心根遠心面(右),(k)入れ替え再植後,縫合,(l)術後6年36 中央部のPPDは頬舌側共2 mm,BOP-,pus-であった,(m)初診時デンタルエックス線写真,(n)移植直後デンタルエックス線写真,(o)術後1年時デンタルエックス線写真,(p)術後6年時デンタルエックス線写真 分岐部の歯槽骨の回復,歯槽硬線を認める。竹内尚士先生(鹿児島県開業)のご厚意により提供
1990年代後半から今日まで,骨や歯周組織をさらに能動的かつ効率的に獲得するため,特定の細胞の遊走,増殖や分化,細胞外基質の産生を促す内因性蛋白であるBAs(エナメルマトリックス蛋白,成長因子:Bone morphogenetic protein-2,-7,-9,Growth differentiation factor-5,Transforming growth factor-β,Insulin-like growth factor-1,血小板由来増殖因子(platelet-derived growth factor:PDGF),bFGF等)の骨・歯周組織欠損への局所応用が着目され,その生物学的・臨床的効果が世界中で数多く報告7-13),37-42)されている。中でも,ヘルトヴィッヒ上皮鞘から分泌されるエナメルマトリックス蛋白を歯根面に応用し歯の発生過程を模倣するが如く歯周組織再生を期待するコンセプト43)のもと,幼若ブタ歯胚より抽出・精製されたEMDが開発された。これまでの研究報告でEMDは生物学的メディエーターとして歯周組織関連細胞に対して広く多彩な効果を発揮10,44)し,臨床的に歯周組織欠損へEMD-gelとして簡便に応用でき世界的に,良好な治癒,歯周組織再生が確認され8-10),37-39),43,44),その応用は現在の歯周組織再生療法のゴールドスタンダードの一つである。近年では根面被覆等の歯周形成外科10,45-47)や再植48)等にも応用することで良好な治療成績が報告され適応範囲がさらに拡大している。
本邦では強力な血管新生促進作用を有するサイトカインであるbFGFに関する基礎研究,臨床研究が盛んに進められ,in vitroにおいてbFGFが培養ヒト歯根膜由来細胞(HPDL)の遊走と増殖を促進すること,HPDLからオステオポンチンやヒアルロン酸等の細胞外基質の産生を高めることが明らかとなっており,歯周組織再生に適した微小環境を創出する可能性が示唆された12)。またヒドロキシプロピルセルロースを溶媒としたリコンビナントヒトbFGF(rhbFGF)を骨内欠損に用いた多施設臨床治験においてその安全性と効果が確認11,13)された。2016年より歯周組織再生剤「リグロスⓇ」としてその応用が保険治療に収載され,現在国内で使用頻度が高まっている。著者ら38)はイヌ2壁性骨欠損を用いてOFDを対照群に,実験群としてβ-TCPを基材としたPDGF製剤(GEM21SⓇ,以下PDGF/β-TCP),EMD-gel(以下EMD)そしてrhbFGFの局所応用が歯周組織再生に及ぼす効果について比較検討を行った。術後8週の組織学的評価において,OFD群では歯周組織再生がほぼ認められなかったのに対し,実験群では新生骨形成と共に歯根面に沿って機能的な配列を有するシャーピー線維の埋入を伴った新生セメント質の伸展,および歯根膜様組織が認められた。セメント質形成量はEMD群とPDGF/β-TCP群がOFD群より統計学的に有意に多く,特にEMD群では,薄い無細胞性セメント質と密に機能的配列を有するシャーピー線維が認められた。rhbFGF群とPDGF/β-TCP群では厚い細胞性セメント質が優勢に認められたが,rhbFGF群では切片作製後のセメント質の歯根面から剥離がやや多かった。新生骨形成量については実験群はOFD群より,またrhbFGF群はEMD群より統計学的に有意に多かった。特にEMD応用後はシャーピー線維の埋入の伴った束状骨(固有歯槽骨)の形成,rhbFGF群では既存骨,欠損底部から急速に支持歯槽骨の形成を促しているような所見が認められた。PDGF/β-TCP群はβ-TCPが欠損中央部で結合組織に被包化されて十分に骨形成が進んでいない部位も認められた(図3)。rhbFGF群は担体/スキャホールドを有さないにも関わらず新生骨形成量が最も多く,極めて骨誘導能が高いことが示唆された。同様にヒトの歯周組織欠損を対象としたrhbFGFとEMDの比較臨床試験や症例報告においてもrhbFGFの方がEMDより放射線学的評価において骨形成量が多いことが報告されている。このように,使用するBAsの種類や骨移植材により治療後の治癒像や再生様式(i.e. 結合組織付着量,歯根膜線維の配列,セメント質の種類等)が異なる可能性があるが,それが臨床的な長期予後にどのように関わるかは未だ不明である。現在,国内におけるEMD,リグロスⓇ各々単体での適応症(歯周組織欠損)はほぼ同様であるが,これらの臨床選択においてはコストだけでなく,その由来(動物製剤,リコンビナント製剤),生物学的特性,作用機序,治癒様式等を熟考したうえで慎重に用いる必要があろう。

イヌ2壁性骨欠損におけるOFD,EMD-gel,rhbFGF およびPDGF/β-TCP応用後の治癒比較
OFD群(a)弱拡大像,(b)(a)のフレーム部強拡大像,(c)μCT像,EMD群,(d)弱拡大像,(e)(d)のフレーム部強拡大像,(f)μCT像,rhbFGF群,(g)弱拡大像,(h)(g)のフレーム部強拡大像,(i)μCT像 PDGF/β-TCP 群,(j)弱拡大像,(k)(j)のフレーム部強拡大像,(l)μCT像,CEJ:セメントエナメル境,JE:上皮の最根尖側,NB:新生骨,NC:新生セメント,PDL:歯根膜様組織,N:根尖部ノッチ,D:象牙質(ヘマトキシリン・エオジン染色)(文献38より一部資料追加引用改変)
これまで報告されているように,contained defectでは骨欠損の徹底的なデブライドメント,組織再生スペースの確保,欠損部の血餅・創傷治癒の安定化が保証され,さらにBAsを局所応用することで良好な臨床結果や歯周組織再生が認められることが少なくない8,21-24)。しかし骨壁の裏打ちのない骨縁下欠損(Non-contained defect:1,2壁性骨欠損)やクラスIIIの根分岐部病変においては,主に溶液として臨床応用されるBAsのみではフラップの崩落,歯周組織再生に必要な場の確保が十分に得られない懸念がある49,50)。そこでスキャホールドや担体の役割を期待した生体材料とBAsの臨床応用は既に行われているものもあるが,ここでは歯周組織欠損その場(in situ)でこれらを活用し,効率的に歯周組織再生を目指す実験的アプローチとその可能性に言及したい。
1) 骨欠損の形態改変と生体材料およびBAsの応用歯周組織欠損の治癒をbiologicalに考えると,contained defectは骨内欠損内で血餅が安定し易く,創傷治癒に関わる細胞・栄養・酸素供給等の治癒環境が整っていることから1壁性骨欠損に比べて治癒は良好で,3 mm以上のCAL gainが2.7倍獲得しやすいこと8),セメント質,歯槽骨再生量が有意に多いこと24)が知られている。そこで,1壁性骨欠損にCPCを用いて3壁性骨欠損に意図的な形態改変を行う着想を得た。前述したようにCPCはやや吸収速度が遅いものの,最初は注入可能(付形性を有する)で後に硬化する性質を有する人工骨である20-22)。その利点と欠点を考慮しイヌ1壁性骨欠損において,3壁性骨欠損形態を模倣する様にCPCにより頬側と舌側にセメント壁を作製し(実験群),無処置(対照)群と10週後の治癒比較を行った(図4)51)。その結果,実験群は対照群より有意に結合組織性付着量,セメント質,骨形成量が多かった。この結果より,生体材料を用いた骨欠損の形態改善だけでも良好な創傷治癒が得られ,GTR法で認められるような自律性の歯周組織再生が得られる可能性が示された。
さらに1壁性骨欠損において骨欠損の形態改善により歯周組織再生を促すアプローチとして,有茎自家骨移植(Bone swaging:BS)52)が利用できるかもしれない。一般に歯周組織欠損への自家骨移植は遊離移植片を用いるが吸収が早いという欠点があるため,血管柄付き骨移植と言えるBSを利用し,自家骨の骨原性を損なうこと無く欠損幅の狭小化を行ったうえ52,53)で生体材料とBAsを用いるアプローチを考案し,その有用性を検証した54)。イヌの1壁性骨欠損において1)EMD-gelのみ(EMD群),2)BSのみ(BS群),3)EMD-gelとBSの併用(EMD/BS群),および4)EMD-gelに加え,BSと既存骨と有茎骨間へのCPCの移植(EMD/BS/CPC群)の4処置を施し,その治癒を評価した。8週後,EMD群ではセメント質形成は認めるものの既存骨の吸収が著しく認められていたのに対し,BS群では骨吸収が抑制され,EMD/BS/CPC群はBS群より有意に上皮の深部増殖量が少なく,新生骨およびセメント質形成量も全群間で最大で,機能的配列を有するシャーピー線維を有する歯根膜様組織の再生が有意に認められた(図5)。このことは1)BSにより欠損の狭小化,血餅の安定化が図られ55),2)CPCの既存骨側のみの充填により,有茎自家骨の安定化と既存骨の吸収が効果的に抑制53)され,3)血液供給を維持した有茎自家骨が骨形成能・骨伝導能・骨誘導能を最大限に発揮53)し,4)CPC非充塡の歯根面側において組織再生スペースが阻害されることなくEMDによる上皮の深部増殖抑制効果,新生セメント質の形成,固有歯槽骨の誘導,それに伴う結合組織性付着の獲得が得られたもの10,38,44,51)と考えられる。ただ当然のことながらBSの適応やCPCの利用には限界があり,本所見についても動物実験の結果であるため,さらに異なるアプローチや代替材料も考慮し臨床評価を行う必要性がある。近年,Zucchellら47)はNon-contained defectにおいて失われた隣接面頬側骨部に結合組織移植片を(骨)壁に見立て静置し,軟組織の崩落を防ぎ,欠損スペースの確保,創傷治癒の安定化を図りEMDを併用することで,PPDの減少,CAL gainに加え歯槽骨レベルと審美性の回復が得られたと報告している。このように歯周組織欠損内において解剖学的背景を踏まえ生体材料/生体組織とBAsを活用したバイオミメテイックなアプローチも歯周組織の再生に有効であろう。

イヌ1壁性骨欠損におけるin situ 歯周組織再生アプローチ(生体材料を用いた骨欠損の形態改変例)対照群(a)無処置(OFDのみ),(b)弱拡大像,(c)欠損底部の強拡大像,実験群,(d)CPCを用いた壁の築盛,(e)弱拡大像,(f)欠損中央部の強拡大像,CEJ:セメントエナメル境,JE:上皮の最根尖側端,NB:新生骨,NC:新生セメント,PDL:歯根膜様組織,BLT:骨様組織,N:根尖部ノッチ,D:象牙質(ヘマトキシリン・エオジン染色)(文献51より引用改変)

イヌ1壁性骨欠損におけるin situ 歯周組織再生アプローチ(生体材料・生体組織およびBAsの応用例)EMD 群(a)EMD-gelの応用,(b)弱拡大像,(c)新生骨歯冠側部の強拡大像,BS 群,(d)BSの実施,(e)弱拡大像,(f)新生骨歯冠側部の強拡大像,EMD/ BS 群,(g)EMD-gelとBSの併用,(h)弱拡大像,(i)新生骨歯冠側部の強拡大像,EMD/BS/CPC 群,(j)EMD-gelおよびBSとCPCの併用,(k)弱拡大像,(l)新生骨歯冠側部の強拡大像,CEJ:セメントエナメル境,JE:上皮の最根尖側端,NB:新生骨,NC:新生セメント,PDL:歯根膜様組織,N:根尖部ノッチ,D:象牙質(弱拡大,ヘマトキシリン・エオジン染色,scale bar:1 mm,強拡大,アザン染色,scale bar:150 μm)
これまでEMD-gelと様々な骨移植材を併用したランダム化臨床比較試験が多く報告されているが,結果に一貫性がなく併用療法が単独療法より優れているとするものは少ない10,56)。これは報告によって対象患者・対象歯・欠損タイプや使用している骨移植材の特性(骨形成能・骨伝導能・骨誘導能の有無・程度,吸収性の差)が異なる57)だけでなく,処置方法の違いやその主成分であるアメロジェニン蛋白(Amelogenin Protein:AMELP)の吸着・徐放性の違いに起因するかもしれない。実際,生体材料やBAsの臨床応用に際しては,唾液や血液といった体液との相互作用/影響を考慮しなければならない。Mironら58)は骨移植材としてdeprotenized bovine bone mineral(DBBM:脱タンパク牛骨ミネラル;Bio-OssⓇ)を用い血液付着の有無とEMD-gelのDBBMへの吸着能の相関,さらにDBBM上で骨芽細胞と歯根膜細胞の挙動を評価した。その結果,血液付着はAMELPのDBBMへの吸着を阻害すること,血液付着がなければEMD-gel中のAMELPのDBBMへの吸着が少なくともコーテイング5分後まで上昇すること,EMD-gel付着DBBMの方が血液付着(EMD-gel非付着)DBBMより有意に骨芽細胞および歯根膜細胞の付着,増殖あるいは骨分化が促進することを報告58)しており,EMD-gelと骨移植材を併用する場合,欠損内へ骨移植材を充填する前に血液付着がないようEMD-gelの事前浸漬が重要であることを示した。またEMD-gelはDFDBAや人工骨にも吸着するが,骨移植材の表面性状や構造に起因し吸着程度が異なり,それに伴い移植材上での細胞挙動に違いがあることも指摘されている。ただ,このようなEMD-gelの骨移植材への事前浸漬を行ってもなお,従来のプロピレングリコールアルギネート(PGA)を溶解剤とするEMD-gelでは骨移植材上に厚いPGAの被膜が形成され,AMELPは骨移植材の表層から離れて結合していることが分かった。またEMD-gelコーテイング後,リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いた数回の濯ぎで,結合蛋白の50%以上が洗い流されていることがELISA定量の結果,判明した。つまりEMD-gelに骨移植材を併用しても多くの場合,骨移植材は担体としてではなく実質的にスキャホールドとしてしか機能していない可能性がある。一般に成長因子に代表されるBAsは溶媒に溶解した状態で臨床応用されるが,血中半減期が短く生体内では急速に拡散しやすい。そこで一定期間,BAsを吸着し有効濃度を保持しつつ,適切なタイミングでの徐放をコントロールできる担体材料が極めて重要である。
そこで,骨移植材への吸着性,浸透性の改善を目的にEMD-gelの溶媒を酢酸に変え漿液性としたEMD-liquidを用い,上記骨移植材に対するAMELPの吸着性を同様に評価した結果,EMD-liquidの方がEMD-gelより有意にAMELPの吸着性が高かった58)。そこで著者ら59,60)は,さらにAMELPの生体材料への吸着と浸透だけでなく生体材料からのAMELPの徐放を期待し,生体材料として吸収性コラーゲンスポンジ(ACS)に着目した。ACSにEMD-gelおよびEMD-liquidをコーテイング後同様にPBSでACS洗浄後のAMELPの吸着量を測定した結果,EMD-liquidはEMD-gelに比べ20-60%有意にAMELPの吸着性が高かった。さらに10日後にはEMD-gel/ACSにはほとんどAMELPが認められなかったのに対しEMD-liquid/ACSではおよそ60%のAMELPが残存していた(図6)。このことからEMD-liquid/ACSにおいてはACSがAMELPを徐放できる担体として機能することが示唆された59)。次にカニクイザルの上下顎前歯・前臼歯に実験的歯周炎を惹起させた後に作製した2壁性骨欠損60)とクラスIIIの根分岐部病変59)において,OFD,ACS,EMD-gel/ACS,EMD-liquid/ACSの処置を無作為に施し(図7),16週後の治癒像について組織学的評価を行った。その結果,OFD,ACS群に比べEMD(EMD-gel/ACS,EMD-liquid/ACS)群で良好な歯周組織再生が認められた。ただ,EMD-gel/ACSでは歯周組織再生像・再生量にバラツキが認められたのに対し,EMD-liquid/ACS群は一貫して結合組織性付着を伴う歯周組織再生が認められ,組織再生量が全群で最も多かった(図8)。この結果よりEMD-gelの溶媒を改変しEMD-liquid形態にすることで生体内でのBAsの徐放とそれによる生理活性の発現に差が生じる可能性が示唆された。しかし,クラスIIIの根分岐部病変においては,完全な歯周組織再生は認められず欠損スペースの十分な確保が困難であった。以上のことから適度な物理的強度を有し骨伝導能を発揮できる足場材とBAsの徐放をコントロールできる吸収性の担体の両機能を有する生体材料の開発,またBAsの溶媒の改変等が予知性の高い歯周組織再生を得るために必要かもしれない。

ACSに対するEMD-gel,EMD-liuid中のAmelogenin吸着(徐放)定量
Bonferroni-Multiple t-tests(EMD-gel vs. EMD-liquid)* P<0.05
(文献59より引用改変)

カニクイザル顎骨2壁性骨欠損へEMD-liquid,-gel/ACS移植アプローチ
(a)2壁性骨欠損(OFD),(b)EMD-liquid/ACS複合体,(c)EMD-liquid/ACSの移植,(d)EMD-gel/ACSの移植(文献60より引用改変)

各処置群の代表的治癒像(2壁性骨欠損)
(a)OFD群 弱拡大像,(b)(a)のフレーム部強拡大像,(c)ACS 群 弱拡大像,(d)(c)のフレーム部強拡大像,(e)EMD-gel/ACS群 弱拡大像 治癒良好部位,(f)(a)のフレーム部強拡大像,(g)EMD-gel/ACS群 弱拡大像 治癒不良部位,(h)(g)のフレーム部強拡大像,(i)EMD-liquid/ACS群 弱拡大像(切歯部位),(j)(i)のフレーム部強拡大像,(k)EMD-liquid/ACS群 弱拡大像(前臼歯部位),(l)(k)のフレーム部強拡大像,JE:上皮の最根尖側端,CT:歯肉結合組織,NB:新生骨,NC:新生セメント,PDL:歯根膜様組織,矢頭:根尖部ノッチ,D:象牙質(弱拡大,scale bar:1 mm,強拡大,scale bar:200μm,アザン・マロリー染色)(文献60より引用改変)
現在,BAsとしてEMD-gelに加え本邦ではリグロスⓇの本格的な臨床応用が進んでおり,生体材料については従来の骨移植材だけでなく3Dスキャホールド2,61)や象牙質片62)等,さらに歯周組織再生がこれまで困難とされたチャレンジングな歯周組織欠損に対する細胞移植療法にも大きな期待が寄せられている。ただ体外からの細胞移植については細胞採取の侵襲,限られた幹細胞数,分化コントロール手法の確立,外来遺伝子の導入,細胞ソースや併用する生体材料の多様性2-6)の課題の他に,費用対効果等解決すべき点が少なくない。その一方,近年では拡大鏡,マイクロスコープやマイクロインスツルメントの普及も進み,これまで以上に確実かつ正確なデブライドメンドが可能となり,欠損部位/範囲によってはMinimally invasive surgeryとして最小限のフラップ形成/翻転により歯周組織欠損の創傷治癒の安定化を最大限に計ることで良好な臨床結果が報告63)されている。
以上のことより,歯周組織本来の特異性と生物学的なバックグラウンドに基づき,歯周組織欠損内で戦略的に適切なBAsや生体材料を用いることで,内在性幹細胞である歯根膜を始め周辺細胞の活性化と細胞周辺環境の整備により,低侵襲かつ効率的に歯周組織再生を期待するIn situ periodontal tissue engineering approachは現実的かつ合理的であると考えられる。ただBAs,生体材料,これらの併用オプション,また細胞移植療法との適応症の見極めに加え,各々「真の」効果の検証は今後もさらに必要であり,これらのエビデンスを踏まえた臨床の実践こそが,天然歯の保存や口腔機能の回復,健康寿命の延伸に寄与すると考えられる。
稿を終えるにあたり,大学院時代にグローバルマインドを持って研究を行う意義と醍醐味を教えて頂いた石川 烈先生(東京医科歯科大学名誉教授・東京女子医科大学先端生命科学研究所特別顧問),臨床に根ざした研究・教育と多方面から温かいご指導を頂いた小田 茂先生(東京医科歯科大学歯科総合診療部前准教授)ならびに木下淳博先生(同教育メディア開発分野教授)に心より感謝申し上げます。また長年にわたって研究活動を見守りサポート頂きました和泉雄一先生(東京医科歯科大学名誉教授・鹿児島大学歯学部元教授),私の興味の赴くまま現在の研究活動にご理解ご支援を頂いている当分野の野口和行教授に深く感謝の意を表します。なお,一連の研究成果は鹿児島大学および東京医科歯科大学歯周病学分野,さらに学内外・国内外の多数の研究者,臨床家,企業の方々との共同研究の賜物であり,ここに厚く御礼を申し上げます。
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。