日本歯周病学会会誌
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ミニレビュー
歯周炎患者のゲノムワイド関連解析
清水 伸太郎, 長澤 敏行, 古市 保志
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2019 年 61 巻 3 号 p. 127-135

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要旨

歯周炎は,様々な要因によって引き起こされる多因子疾患である。これまでの歯周炎の遺伝子要因に関する研究では,疾患の発症機序等の前提を考慮した候補遺伝子研究が行われてきた。しかし未だ結果については議論の余地があると考えられている。近年では,疾患の発症機序等の前提を考慮せず,ゲノム全体を網羅的に調べ,疾患と関連する遺伝子を同定する研究手法であるGenome Wide Association Study(GWAS)が注目されている。本稿では歯周炎のGWASに焦点を当てて解説する。

1. はじめに

歯周炎は細菌要因や環境要因(喫煙,ストレス,食生活など)を有し,さらに宿主要因として歯周炎に対する感受性の違いを規定する因子が存在する。歯周炎はこれらの複雑な相互作用によって引き起こされる多因子疾患であり,宿主要因のうち遺伝的要因は細菌に対する宿主の感受性に影響を及ぼすと考えられる。歯周炎に対するゲノムワイド関連解析(GWAS)は,歯周炎の免疫反応の理解につながる可能性があり,類似する細菌的・環境的背景を有する個人間での歯周炎の症状の違いを説明することができると期待されている。これまでに歯周炎の感受性遺伝子に対して欧米人やアジア人を対象とした研究結果が数多く報告されている。本総説では,歯周炎の疾患関連遺伝子同定に関連する研究方法や,これまでに歯周炎のGWASで同定された遺伝子についての研究の概要を紹介する。

2. 歯周炎における遺伝的要因

歯周炎は,歯周組織における感染と炎症を特徴とする多因子性の炎症性疾患であることが広く知られている1)。歯周炎の主な原因は,歯周病原細菌とされ,喫煙や,糖尿病,ストレス,遺伝的要因などの交絡因子が複雑に組み合わさることにより,疾患の発症と進行に影響を与えるとされている2)。日本人では,慢性歯周炎の罹患率は約48%,侵襲性歯周炎の罹患率は約0.05%~0.1%であると考えられている3,4)。またイタリア人を対象とした研究では,慢性歯周炎の罹患率は約60%と推定され,そのうち10%~14%が重度と報告されている5,6)。歯周炎の遺伝率や遺伝的要因について,これまでに様々な報告がある。一卵性双生児と二卵性双生児における早期発症型歯周炎の双生児間での病歴の一致率は,二卵性双生児と比較して一卵性双生児では2倍以上の値を示した7)。また同じ集団を用いて,慢性歯周炎における遺伝率が研究され,一卵性双生児は二卵性双生児よりアタッチメントロス及びプロービングポケット深さの一致率が有意に高いことが示された8)。遺伝率は,疾患罹患率に対する遺伝的要因の比率であり9),歯周炎の遺伝率については,動物およびヒトを対象として研究されている。双生児研究において,歯周炎の遺伝率は約30%~50%であると報告されている10,11)。別の集団での,双生児間と家族間での歯周炎遺伝率を比較した研究では,遺伝率は双生児間では38%,家族間では15%と報告され,双生児間と家族間での遺伝率を組み合わせた結果は29%であると報告された。さらに,スウェーデン人1万人以上を対象とした双生児研究では,歯周炎の遺伝率が女性では39%,男性では33%であることが報告され,宿主感受性が遺伝的要因によって影響されることが確認されている12)。以上の研究より,歯周炎の3分の1程度は遺伝的要因による影響を受けており,遺伝的要因を有する歯周炎患者は,より重症化する可能性が高くなると考えられる13,14)。

3. ゲノムワイド関連解析(GWAS)と候補遺伝子研究

ヒトゲノムは,約30億塩基対で構成されている。これは全ての人で同一ではなく,集団内で1%以上の頻度で認められる塩基配列の変化を多型と呼び,遺伝子多型のなかで1塩基のみ変異したものは1塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)と呼ばれる。SNPは全ゲノム上に1000万箇所以上存在すると言われ,各々の個性や疾患感受性,薬物応答性などに関連している。言い換えると,SNPの違いによって合成されるタンパク質のアミノ酸配列に変化が誘導されることでその機能に影響が及ぶことや,また遺伝子発現調節領域のSNPの違いによって合成されるタンパク質の量が変化する場合もある。SNPの違いによって生じるタンパク質の質的・量的な違いが疾患のリスク診断や薬剤の使い分けに利用することができるとされている15)。遺伝子多型の頻度は様々であり,図1は遺伝子多型の出現頻度を横軸に,遺伝子多型の病型への影響(疾患へのリスクを示すオッズ比)を縦軸にプロットしたものである。病型への影響が大きい遺伝子多型は種の繁栄にとって不利であるため,その出現頻度は低く,病型への影響が小さい遺伝子多型は比較的高い出現頻度を示す。遺伝子多型はその出現頻度によって,5%以上のものはcommon variant,5%未満のものはrare variantとされる。ありふれた疾患(common disease)は家系が異なっていても,それが遺伝と関係する場合,その原因となる遺伝因子は共通となるcommon variantによって引き起こされることが多いと考えられ,これをcommon disease common variant:CDCV仮説と呼ぶ。一般的な疾患の遺伝要因解析のための研究方法として,全ゲノムのcommon variantを調べるGWASが盛んに行われている。

ヒトゲノムの全配列が作成されたことを契機に,約15年前に全ゲノムの情報を用いた,ありふれた疾患(多因子疾患)の全ゲノム関連解析(GWAS)が理化学研究所統合生命医科学研究センターにより世界で最初に行われた。以降集団レベルの遺伝子情報であるHapMap計画のデータが公開されてから,GWASは世界中で広く行われるようになった。GWASは単一の原因遺伝子の変異により発症するメンデル遺伝病の遺伝子解析とは異なり,全ゲノムを解析し,個人の間で異なる遺伝子配列を調査して疾患と関係のある遺伝子多型を統計的に調べる手法である。GWASはゲノム上のSNPの中から症例・対照間で遺伝子多型の頻度が異なるSNPを網羅的に調べるものであり,1人当たり数100万箇所以上あるSNPを調べるためにDNAマイクロアレイが用いられている。

GWASは,研究対象が別々の集団であっても,極めて似通った解析結果をもたらす。これまでに,GWASでは疾患の形質や,遺伝子発現に関わるSNPなどを解き明かしてきた。対象としているのは数百万以上の遺伝子多型部位からなるゲノムデータであるにも関わらず,真の疾患関連遺伝子の解析結果は安定して強い再現性を示していることから,GWASは疾患関連遺伝子を特定するためにも有効なアプローチであると言えよう。

一方で,全ゲノムを対象とするのではなく,限定した遺伝子のみを対象とした候補遺伝子研究では比較検討の試行数が少なく済むことから効率的である。しかしながら,候補遺伝子研究は,疾患の病因に関する現在の知識に依存しているため,候補遺伝子の選択が恣意的となる。言い換えると,候補遺伝子研究のためには先験的仮説が必要であり,潜在的な疾患関連遺伝子の検討のためにGWASが必要と考えられる。

図1

遺伝子多型の出現頻度と疾患への遺伝的影響の強さの関係

遺伝子多型の出現頻度を横軸,表現型への影響を縦軸にとると,両者は逆の相関を示す。左上は非常に稀な変異だが疾患への影響が大きく,右下は頻度の多い多型だが疾患に及ぼす影響は少ない。

4. GWASの研究方法と歯周炎関連遺伝子研究への有効性

GWASは,まず患者群,非患者群など比較対象となる患者から血液を採取しDNAを精製する。このDNAを用いてマイクロアレイによる全ゲノム解析を行い,2群間で通常数百万箇所以上のSNPを調査し,遺伝子多型の発生頻度が異なるSNPを統計的に明らかにする。全ゲノムに渡って分布しているSNPと,そのSNPと相関関係にある遺伝子多型も調査することが可能である(imputation)。統計解析を実施し,症例群と対照群を比較した時,特定の遺伝子多型の頻度が大きく異なる場合,その遺伝子多型は疾患に対する感受性と関連を示していると考えられる。GWASで検証する遺伝的多型であるSNPが影響するタンパク質機能の変化は通常小さくとも,その影響が食事や,喫煙,感染因子などの環境曝露によって増強され,特定の疾患を発症する危険性が高まる可能性がある。

GWASの結果は,統計的有意差の有無を示すものであり,疾患との因果関係を考慮したものではない。従来の候補遺伝子を選択して仮説を立てる研究では,その候補の選択基準は疾患発症のメカニズムに関する知識に依存している。それ故,その機能が知られていない,または疾患への関連が示されていない遺伝子は選択されない。しかし,候補遺伝子研究は大規模なサンプルサイズでなくとも統計的検定力は十分であると考えられる。それに対し,GWASはこれまでに考えられなかった疾患と遺伝子(SNP)の関連をも見出すことが可能である。しかし,GWASの欠点として,選択されたサンプリング集団での対立遺伝子の発生頻度に,偶然偏りが生じる,所謂,遺伝的ドリフトの影響を受ける可能性がある。この影響から,数百万ものSNPを調べる場合,有意なP値を示すSNPが大量に出現することが考えられる。即ち100万個のSNPを比較する場合P<0.05のSNPが5万個以上発見されることになる。そのためGWASでは,このような偽陽性を回避するために有意水準を厳しく補正する必要があり,GWAS有意水準はP≦5.0×10-8とされている。その他にも,低頻度のSNP(≦0.01)の解析からの排除やサンプルから近親者を除外するなど厳しい基準を設けている。このように有意水準を厳しく補正することで偽陽性を減らすことはできるが,その補正が真の疾患関連遺伝子の検出力も低下させていることも留意されるべきである(図2)16)。GWASにおける厳しい基準を達成するために必要とされる検体数は,対象となる疾患の遺伝率および遺伝子多型の頻度によって異なるが,一般的な有意水準を満たすための統計的検定力を得るには,大規模の検体を必要とする。罹患者の平均年齢が高く,環境要因の影響を受けやすいありふれた疾患では数千を超える検体数が必要とされる。サンプルサイズが少ない場合は結果として統計的検出力の欠如が生じ,偽陽性や偽陰性に繋がる可能性が生じる。

図2

サンプルサイズ,対立遺伝子頻度,およびオッズ比(OR)に関連した統計的検出力

オッズ比は1.3で計算している。例えば,一般的集団でリスクとなる多型を同定するために,必要とされる統計的検出力(0.8)を達成するには,対立遺伝子頻度が0.2であった場合,症例,対照が共に約1500人必要であると統計的に計算される。

5. GWASによるオーダーメイド医療

GWASの実地によって,がんや,肝疾患,アルツハイマー病,関節リウマチなどのありふれた疾患の遺伝的要因に迫ることができるようになった。それらの個々の疾患関連遺伝子を知ることにより,それぞれの関連遺伝子に最適な個別治療を行うことをオーダーメイド医療と呼んでいる。多因子疾患であるがんや,アルツハイマー病,糖尿病などの疾患を対象としたGWASでは,オッズ比1.5未満程度の多様な疾患関連遺伝子が報告されている。アルツハイマー病では,ApoE遺伝子の多型によって発症リスクが大幅に上がることが知られており,遺伝子検査も行われている反面,疾患関連遺伝子が分かっても予防・介入法が分からないことから,医療機関での使用に至っていない。一方,乳がんではBRCA1という遺伝性乳がんに関係する遺伝子が同定されており,その遺伝的要因を持つ患者に対して特定の条件下で予防的な処置が可能との報告もある17)。さらに,遺伝子情報を生かしたオーダーメイド医療の目的として,薬剤の効果の最大化と副作用の最小化がある。抗てんかん薬であるカルバマゼピンは副作用として重篤な薬疹を起こすことが知られている。カルバマゼピンによる薬疹の発現に着目したGWASでは,HLA-A遺伝子に特定の遺伝子型を保有する場合の薬疹発現リスクが9.5倍と報告されており,遺伝子検査での陽性者は他剤への変更を勧めるという臨床での有効性が示されている18)。

6. 歯周炎を対象としたGWAS

1) 侵襲性歯周炎

歯周炎に関する最初のGWASは,オランダ人の侵襲性歯周炎に焦点を当てたものであった19)。この研究は,侵襲性歯周炎438人(35歳未満で歯槽骨量が50%以上の歯を2本以上保持)と対照者1320人で実施された。結果として,GLT6D1遺伝子のイントロンに位置するSNP(rs1537415)が,GWAS有意水準を示した(P<5.5×10-9)。rs1537415の遺伝子多型の発生頻度は,対照群(38.8%)と比較して症例において約10%頻度が高かった(48.4%)。GLT6D1遺伝子は,白血球,歯肉,及び精巣に組織特異的発現を示し,GATA3シグナルに関与していることが示唆されている。Munzらの報告では,ドイツ人とオランダ人の侵襲性歯周炎を対象としたGWASにおいて,SIGLEC5遺伝子のSNP(rs4284742;P=1.34×10−8)とDEFA1A3遺伝子のSNP(rs2738058;P=5.48×10−10)が関連を示した20)。SIGLEC5遺伝子はヒトCD33関連のメンバーで,骨髄細胞やB細胞で広く発現しており21),自己免疫において骨髄細胞の活性化を調節すると考えられている22)。DEFA1A3は,細菌や真菌,ウイルスに対する食細胞を介する宿主免疫反応において役割を果たすと考えられている23,24)。

2) 慢性歯周炎

慢性歯周炎に焦点を当てたGWASでは,Divarisらがアメリカ人を対象としたGWASを行ったが,GWAS有意水準を満たす遺伝子は検出されなかった。しかし,NPY遺伝子とNIN遺伝子,WNT5A遺伝子を含む6つの遺伝子で関連が示唆された(P<5×10−6)25)。ドイツ人の慢性歯周炎を対象としたGWASは,慢性歯周炎2211人および対照群1817人で実地されたが,GWAS有意水準を満たす感受性遺伝子は同定されなかった26)。NYP遺伝子は侵襲性歯周炎(症例958人および対照1909人)を対象とした欧州人のメタ解析の結果で,関連が強く示唆された(P<3.5×10-7)27)。NPY遺伝子は骨において最も豊富な神経ペプチドであり,硬組織形成と吸収のバランスを保つ役割に関与していると考えられている28)。これらの研究に加えて,さらにいくつかの慢性歯周炎を対象としたGWASが行われている29-33)。日本人を対象とした慢性歯周炎2760人と対照者15158人で実地されたGWASでは,2つの遺伝子(KCNQ5,GPR141)が慢性歯周炎と関連を示唆されているが,これらの遺伝子はGWAS有意水準を満たしていなかった30)。2つの遺伝子のうちの1つであるGPR141は,後に行われた,韓国人の慢性歯周炎を対象としたGWASで比較的強いシグナルを認めたが31),他の集団での再現性は認められていない。アメリカペンシルベニア州でアメリカ人を対象とした2つのGWASが行われた。1つはアメリカ人の慢性歯周炎176人と対照者497人で実地され,もう1つは,アメリカ人の慢性歯周炎99人と対照者767人をさらに追加したサンプルを対象とした研究であった32,33)。これらの研究は統計的検出力を欠いていたが,CDKL1遺伝子のSNP(rs3783412)が関連を示唆された(P=3.5×10−7)。また,このSNPは前述のNIN遺伝子の約423bp上流に位置することが報告された。韓国人の慢性歯周炎を対象としたGWASでは,慢性歯周炎414人と対照者263人で実地され,TENM2遺伝子のSNP(rs4242220)が関連を示唆された(P=2.8×10-6)31)。TENM2遺伝子はアメリカ人を対象として行われた別のGWASで,Aggregatibacter actinomycetemcomitansの増加量との関連が示唆されている34)。慢性歯周炎を対象とした比較的新しいGWASでは,アメリカのヒスパニック系コミュニティ健康研究の遺伝子型サンプルを対象に実地され,GWAS有意水準を示すTSNAX-DISC1遺伝子のSNP(rs149133391)が報告された(P=7.9×10−9)35)。しかしながら,rs149133391は遺伝子多型の頻度が0.01%のrare variantであり,単純に有意水準を示したことで有意な関連性があると言うには不十分であると考えられた。rs149133391はTSNAX遺伝子とDISC1遺伝子の間のRNA転写領域に存在する。DISC1遺伝子は統合失調症と関連していることが報告されている。以上のように,これまでに慢性歯周炎を対象としたGWASでは,関連は示唆していても統計学的GWAS基準の有意性を示す疾患関連遺伝子は直接的に同定されていない。慢性歯周炎は,喫煙や口腔衛生状態,栄養,ストレス,加齢などの影響が大きく関連するため,単純な遺伝的要因の影響は隠されていると考えられる。よって,サンプルサイズが少ない場合,疾患関連遺伝子を同定するのが困難である可能性がある。言い換えると,疾患発症のメカニズムが複雑な慢性歯周炎に焦点を当てたGWASでは,さらにサンプルサイズを増やす必要があると考えられる。

3) メタ解析

近年,侵襲性歯周炎と慢性歯周炎を合わせたいくつかのメタ解析も行われている20,36)。ドイツ人とオランダ人,トルコ人の侵襲性歯周炎と慢性歯周炎を合わせた症例1116人と対照者7654人で実地されたメタ解析では,DEFA1A3遺伝子の2つのSNP(rs2978951とrs2738058)がゲノムワイド有意水準を示した(P=2.06×10-8および,P=6.78×10-10)。rs2738058は,抗菌性ペプチドであるDEFA1遺伝子とDEFA4遺伝子を隔てる遺伝子領域に位置し,慢性歯周炎との関連が示唆された20)。欧州人の侵襲性歯周炎と慢性歯周炎を含む症例5095人と対照者9908人で実地されたGWASのメタ解析では,SHISA9遺伝子のSNP(rs729876)とMTND1P5遺伝子のSNP(rs16870060)がゲノムワイド有意水準を示した(P=9.77×10-9および,P=3.69×10-9)36)。

以上の様々な研究から,疾患発症の機序等の前提を考慮せず全ゲノムを解析するGWASの利点と,疾患と遺伝子の因果関係を考慮した候補遺伝子研究を組み合わせたマウスモデルを用いた遺伝子研究が行われた37,38)。この研究では歯周病原細菌感染マウスと対照マウスの全ゲノム解析を行い,遺伝子発現量を比較し,発現量が有意に異なる遺伝子のみを選択し,ヒト症例対象研究で比較検討している。その結果では,マウスゲノム中で発現が有意に異なる3つの遺伝子領域が同定され,それらはPorphyromonas gingivalis感染に反応して歯槽骨吸収に対する感受性が増加する遺伝子であった。このうち,PF4遺伝子とPPBP遺伝子,CXCL5遺伝子の3つの遺伝子を含む遺伝子領域と,UGT2A1遺伝子1つを含む遺伝子領域は侵襲性歯周炎との関連が示唆された。その後,上記のアメリカ人を対象とした慢性歯周炎のGWASの遺伝子情報25)を使用して,各2つの領域で最も関連の高いSNPが同定され,このサンプルにおいて,PF4/PPBP/CXCL5遺伝子領域は,慢性歯周炎との関連が示唆された。さらに,最も関連の強かったSNP(rs 1595009)は,ドイツ人を対象とした慢性歯周炎のサンプルにおいて再現性が確認され,ドイツ人とアメリカ人の,慢性歯周炎と侵襲性歯周炎のメタ解析での検証結果は,P=2.9×10-5であった39)。

今日までに単一の遺伝子と疾患発症を検討した研究の結果では,複雑な疾患発症を説明するのに対して不十分であると考えられている。またGWASにて同定された歯周炎関連遺伝子から,疾患発症経路を説明することは困難である。しかしながら,GWASにて歯周炎と強く関連している遺伝子は,病原体に対する免疫応答および創傷治癒における役割を示すものがほとんどであることは興味深い40,41)(表1)。

表1

歯周炎を対象としたGWASと関連を認めた遺伝子

4) 既報研究間での再現性

歯周炎に関する最初のGWASである,オランダ人の侵襲性歯周炎を対象としたGWASで発見されたGLT6D1は19),後にスーダンの集団を対象とした侵襲性歯周炎の症例において再現性が確認された42)。GLT6D1は慢性歯周炎を対象とした研究では再現性が確認されておらず,侵襲性歯周炎の病因に関連する遺伝子と考えられる。

ANRIL遺伝子は,心筋梗塞の遺伝的危険因子として,冠状動脈性心疾患に関するいくつかのGWASによって疾患関連遺伝子として報告されている。例えば,冠状動脈性心疾患約2000人と対照者約3000人を対象としたGWASで,GWAS有意水準を満たすSNPをANRIL遺伝子で同定している43)。冠状動脈性心疾患と歯周炎との間には強い関連性が存在するとされ,ANRIL遺伝子は,冠状動脈性心疾患の疾患関連遺伝子として同定された後に,侵襲性歯周炎を対象とした遺伝子研究で共通のリスク遺伝子として報告された44,45)。冠状動脈性心疾患と歯周炎に関連する共通の遺伝的危険因子を特定することを目的とした候補遺伝子研究が行われ,冠状動脈性心疾患のGWASで特定された46遺伝子について,ドイツ人とオランダ人を対象とした侵襲性歯周炎865人と対照者5309人に対して関連解析が実地された。46遺伝子のうち,ANRIL遺伝子とPLG遺伝子が,侵襲性歯周炎との関連を示唆された46)。歯周炎におけるANRIL遺伝子の機能はほとんど解明されていないが,ANRIL遺伝子の転写産物の発現量減少がADIPOR1遺伝子や,C11ORF10遺伝子,VAMP3遺伝子の発現量減少と相関することが報告された47)。VAMP3遺伝子は北西ヨーロッパ人を対象とした侵襲性歯周炎864人と対照者3664人との間で有意な関連を認め(P=0.002),またドイツ人を対象とした冠状動脈性心疾患1471人と対照者2737人との間にも有意な関連を認めた(P=0.009)。これら2つの別々の対象で同じ遺伝子領域が挙げられたことは興味深い。またVAMP3遺伝子のSNP(rs1616122)はOrange complexに分類される歯周病原細菌の増加と関連することが報告されている(P=4.9×10−6)48)。

現在,GLT6D1遺伝子とDEFA1A3遺伝子,SIGLEC5遺伝子が,GWASにて侵襲性歯周炎のリスク遺伝子として有意性を示している。また,SHISA9遺伝子とMTND1P5遺伝子は歯周炎のリスク遺伝子として有意性を示している。DEFA1A3遺伝子は侵襲性歯周炎と慢性歯周炎の両方に関連を示しており,GLT6D1遺伝子とSIGLEC5遺伝子は侵襲性歯周炎のみに関連を示している49)。以上のようにいくつかの研究で再現性が認められている遺伝子も存在しており,既報の感受性遺伝子について異なる集団での影響を検証することで,歯周炎発症における人種差や歯周炎の発症経路を説明できる可能性がある。歯周炎を対象とする遺伝子研究では,歯周炎や他の疾患の全ゲノム解析で同定された感受性遺伝子の機能解析を行うことや,特定の感受性遺伝子と様々な病型への関わりを研究することで,歯周炎の遺伝的背景や,歯周炎の発症機序,他の疾患への影響を説明できる可能性がある。

7. まとめ

上記のように,歯周炎を対象としたGWASにおいて,近年多数の異なる疾患関連遺伝子が同定されている。しかしながら,既報GWASにおけるリスク遺伝子の個々の影響は,多くがオッズ比で1.5未満であり,疾患発症に対し単独で重大な影響を与えることはほとんどなく,疾患の背景の一部しか説明できないと考えられている。一方,単一の遺伝子と疾患の関連を調査した候補遺伝子研究では,common diseaseである歯周炎の遺伝的リスクを同定するのは難しい可能性がある。例えばIL1遺伝子は炎症性疾患との関連性に基づき,歯周炎候補遺伝子研究のターゲットとして多くの研究が行われ,有意な相関が報告されている。しかし,GWASにおいては,IL1遺伝子と歯周炎とに統計学的に有意な関連が報告されたことはない。このような遺伝子は統計的検出力が欠如しているなどの理由から「missing heritability」としてGWASにおいて偽陰性となっている可能性がある。以上から,単一の遺伝子多型の解明だけでは,個人の違いを考慮した歯周炎の診断および治療の選択は困難であると考えられる。歯周炎のような多因子疾患は,多くのリスク遺伝子の組み合わせによって発症リスクが上がることから,個人の遺伝子多型を歯周炎の疾患感受性および臨床症状の解明につなげるには,環境要因および細菌要因との相互作用と共に,様々なリスクの影響を合わせたさらなる検討が必要である。

今回の論文に関連して、開示すべき利益相反状態はありません。

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