日本歯周病学会会誌
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歯周病と関節リウマチの新たな関連メカニズムの可能性
佐藤 圭祐山崎 和久
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2019 年 61 巻 3 号 p. 142-147

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はじめに

歯周病が関節リウマチを含む様々な全身疾患のリスク因子となることは,これまでの多くの報告から明らかになっている。その関連メカニズムについては,いくつかの可能性が報告されているが未だに決定的なエビデンスは得られていない。本稿では,我々が提案した口−腸連関に基づく歯周病と関節リウマチの新たな関連メカニズムを中心に述べる。

歯周病と全身疾患との関連

歯周病が2型糖尿病,動脈硬化性疾患,関節リウマチなど,様々な全身疾患のリスク因子となることは,これまでの疫学研究により明らかとなっている1)。歯周病とそれら疾患の関連メカニズムとして歯周病の局所から血行性に細菌が全身循環に侵入する(菌血症説),歯周組織の局所で産生された炎症性メディエーターがやはり血行性に全身をめぐり,様々な組織・臓器において炎症を誘発する(炎症メディエーター説),などが有力なメカニズムとしてこれまでに研究されてきた(図1)。しかしこれらのメカニズムでは説明できないことも多く,未だ完全に証明されたとは言えない。

図1

歯周病と全身疾患の関連メカニズム(従来の仮説)

歯周病と関節リウマチとの関連メカニズム

歯周病と関節リウマチの関連メカニズムとして,抗シトルリン化タンパク質抗体(Anti-cyclic citrullinated protein antibody:ACPA)がこれまで注目されてきた。生体由来のPeptidyl arginine deiminase(PAD)によって生成したシトルリン化タンパク質に対して自己抗体が産生され,自己免疫応答が誘発されると考えられている2)。代表的な歯周病原細菌であるPorphyromonas gingivalisはPADを産生する唯一の口腔細菌であることが知られており3)P. gingivalisが産生する細菌性のPAD(PPAD)が歯周病と関節リウマチの関連メカニズムのターゲットとしてこれまでに多く研究されてきた4)

実際に,初期の関節リウマチ患者のうちP. gingivalisに対する抗体応答が亢進している患者ではその値とACPAが相関していることが報告されているが5),PPADによるメカニズムには否定的な意見も存在し6),そのメカニズムについては未だに明らかになっていない。

腸内細菌叢dysbiosisと全身疾患との関連

近年,様々な全身疾患の発症・進行に腸内細菌叢dysbiosisが関連していることが次々と報告されている7)。腸内細菌叢dysbiosisがそれら疾患に影響するメカニズムとして,①腸管バリア機能の低下とそれに伴う腸内細菌由来内毒素の門脈を介した全身循環への流入による軽微な炎症の誘発,②腸管免疫能のバランス崩壊による炎症誘発性T細胞(Th17)の活性化,あるいはTh17の活性を制御する機能を持つT細胞(T-reg)の機能低下,③腸内細菌による代謝産物の血流を介した免疫系・代謝系・内分泌系への影響,が関連すると考えられている。

腸内細菌叢dysbiosisと関節リウマチの関連として,関節リウマチ患者では健常者と比較して腸内細菌叢dysbiosisが認められるが,リウマチの治療を行うことでそれが部分的に回復することが報告されている8)。またin vivoにおいては,Germ-free環境で関節炎モデルマウスに実験的関節炎の誘導を試みても発症しないが,ある種の腸内細菌を移入すると実験的関節炎が誘導できることが報告されている9)。これらの報告より,腸内細菌叢dysbiosisが関節リウマチの発症と進行にも影響していることが推察される。

歯周病と全身疾患の新たな関連メカニズム

我々はこれまでの研究で,C57BL/6マウスにP. gingivalis W83株を経口投与することにより,腸内細菌叢の変動,腸管バリア機能に重要な役割を果たしているタイトジャンクションタンパク質の遺伝子発現低下,血中炎症性サイトカインレベル・内毒素レベルの上昇を誘導することを確認した10)。これらの変化は,腸内細菌叢dysbiosisが全身疾患に影響するメカニズムの①そのものである。

歯周病と関節リウマチとの新たな関連メカニズム

歯周病と関節リウマチの関連メカニズムとして我々は,腸内細菌叢dysbiosisが全身疾患に影響するメカニズムの②が影響しているのではないかと考えた。そこで,関節リウマチのモデルであるDBA/1Jマウスを用い,2種類の歯周病原細菌P. gingivalisPrevotella intermediaP. intermedia),およびそれらの細菌の懸濁に用いた基材のみを週に2回,5週間(合計10回)投与したのち,タイプIIコラーゲンを免疫して実験的関節炎を誘導した(図2)。免疫開始から6週間後に関節炎の重症度,腸内細菌叢,腸管膜リンパ節中のTh17の比率,Th17のIL-17産生能などについて解析を行った11)

その結果,P. gingivalis群でのみ関節炎症状が重症化することを確認した(図3)。腸内細菌叢の解析結果より,P. gingivalis群でのみ変動が認められ,その変化は細菌投与を中止した6週間後まで長期に継続していた。この細菌叢の変化に伴って腸間膜リンパ節におけるTh17細胞の比率が上昇,IL-17産生能の亢進が認められ,血中IL-17レベルがP. gingivalis群で有意に上昇していることが明らかとなった(図4)。今回用いた関節リウマチモデルマウスでは関節炎の重症度は免疫したコラーゲンに対する抗体価と相関することが知られているが,P. gingivalis群の抗タイプIIコラーゲン抗体価は他の2群と違いは認めなかった。また,関節リウマチで特異的にみられる自己抗体である抗シトルリン化タンパク抗体(抗CCP抗体)レベルも群間で違いを認めなかった。人口胃液を用いたin vitroの実験結果より,P. gingivalisP. intermediaと比較して高い耐酸性を示すことが明らかとなり,この性質がP. gingivalisが胃酸による傷害に耐えて腸内細菌に影響を及ぼす理由のひとつと考えられる。

今回の研究結果は従来考えられてきた自己抗体の産生増強とは異なり,嚥下されたP. gingivalisが腸内細菌叢の変動を介して,腸間膜リンパ節におけるTh17細胞の増殖・活性化を誘導し,血中のIL-17レベルを上昇させることで関節炎症状を重症化させるという新たな病原メカニズムの可能性を示唆している(図5)。また,本研究によりえられた知見は,歯周病と関節リウマチの新たな関連メカニズムを提唱するのみならず,歯周病とその他の疾患の関連メカニズム解明にも大きな示唆を与えると考える。

図2

実験スケジュール

図3

各群における関節炎症状の比較

文献11より引用,一部改変

図4

各群における炎症マーカーと免疫応答の比較

文献11より引用,一部改変

図5

歯周病と関節リウマチの新たな関連メカニズム

口腔細菌叢dysbiosisが腸内細菌叢dysbiosisを誘導し,腸管免疫応答に影響することで,関節炎症状が重症化する可能性が示唆された。

おわりに

腸内細菌叢の変動を介した歯周病と全身疾患の新たな関連メカニズムは,これまで不明確であった因果関係に合理的な仮説を提供すると考える。今後は,in vivoにて腸内細菌叢dysbiosisが全身疾患に影響するメカニズムの③の腸内細菌代謝産物の影響について解析を進めるとともに,in vivo実験で明らかになった現象が実際の歯周病患者でも生じているのかを確認すること,歯周病治療が腸内細菌叢に与える影響を明らかにすることも必要だと考える。口腔環境と腸内環境との相互作用が明らかになりつつある中,このことに考慮したアプローチが今後の歯周治療には必要となってくるのかもしれない。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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