日本歯周病学会会誌
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教育賞
診療参加型臨床実習への多職種連携の新規導入による臨床的効果および教育的効果
水谷 幸嗣則武 加奈子鶴田 潤關 奈央子近藤 圭子片桐 さやか竹内 康雄秋月 達也塩山 秀裕青木 章和泉 雄一岩田 隆紀荒川 真一荒木 孝二
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2019 年 61 巻 3 号 p. 148-156

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要旨

目的】東京医科歯科大学では歯学科6年生(以下D6)と口腔保健学科口腔保健衛生学専攻4年生(以下OH4)が協働して同一の患者を診療する新しい臨床実習(D6-OH4連携実習)を開発,実施しており,その学習効果および臨床的効果について検討した。

方法】2016年度 D6が歯周治療中の患者44名に対して,OH4とペアを組み,事前打合せのうえ初回診察時に協働で検査し,OH4がD6からの依頼のもとで保健指導を実施した。診療2回目はOH4が再評価・保健指導を行い,3回目はD6が患者の口腔状態・行動変容を再評価した。各回診療終了時に自己・相互評価,実習終了時にアンケートを実施した。(東京医科歯科大学歯学部倫理審査委員会承認:第1204号)。

【結果および考察】再評価時のプラークコントロールレコード(PCR)の平均は実習開始前と比べて統計学的有意に低下した。また自己評価では「患者中心の歯科医療に必要な連携ができた」,「自分の専門の役割を意識して行動できた」,「リーダーシップ,フォロワーシップを発揮できた」の3項目においては両学科学生とも,肯定的な回答が有意に増加した。また,ほぼ全学生が「連携実習で各々の役割を果たせた」と回答した。

結論】新規D6-OH4連携実習は,患者のPCRの改善の効果だけでなく,学生の専門職としての意識向上や職種間協働への理解に有用であることが示唆された。

緒言

厚生労働省が平成27年に策定した「保健医療 2035提言書」において,次世代型の保健医療人材として,チーム医療のさらなる拡大に対応できる人材育成の必要性が謳われている1)2016年の多職種間連携のガイドラインにおいては,そのコア・コンピテンシーに多職種連携教育の意義やチームワークについても含まれており2),医学生や看護学生だけでなく歯科学生や歯科衛生士学生もその対象と認識されている3-6)。本学においても,多職種連携教育として2012年から学士課程全学科(医学部,歯学部)の最終学年学生が全員参加して行う専門職連携ワークショップ「チーム医療入門」を実施している。これは,参加する全学生が関与できるように作成されたシナリオ内で発生する様々な問題をチームで解決する2日間のプログラムである。8-10名で構成されたチームの中で自身の職種の専門性を発揮しながら患者中心の最良の医療を目指して議論を進めていき,歯科医師および歯科衛生士となる学生にとっても様々な医療分野との連携や職種による視点の違いなどを学習できる有意義なワークショップとなっている。

一方,歯科医師,歯科衛生士にとって最も頻度の高い職種間連携は,「歯科医師と歯科衛生士との連携」と言える。しかしながら,これまで歯学部の卒前教育においては,歯科医師と歯科衛生士が歯科医療チームとしてより良く協働していくために必要な教育は,アンケートに基づいた考察が行われている7)程度のみで,個々の学生が卒業後に試行錯誤のもと独学や経験に基づき身につける必要があった。臨床的能力を習得するためには理論や臨床前教育だけでなく臨床実習が必要とされている8)にもかかわらず,学生同士が協働し診療に携わる多職種連携教育の要素を持ち合わせた臨床実習に関する報告はこれまで殆どなかった。

東京医科歯科大学では診療参加型臨床実習は最終学年に学科ごとに実施され,臨床現場において実際の患者に対して歯学科6年生(以下D6)と口腔保健衛生学科(口腔保健衛生学専攻)4年生(以下OH4)が連携して診療に携わる臨床実習はこれまで行われていなかった。そこで本学歯学部では,臨床実習での連携を含めた新規の歯学融合教育を立案し,2016年度より診療参加型臨床実習中の必修実習としてD6-OH4連携実習を開始し,その臨床的,教育的効果を評価した。

対象および方法

2016年度東京医科歯科大学歯学部歯学科6年生44名,口腔保健学科口腔保健衛生学専攻4年生24名に対してD6-OH4連携実習を歯学科,口腔保健学科の正式な臨床実習として実施した。その際の学習目標は「歯科学生,歯科衛生学生が協働して,歯周病患者への診療を実施することで,互いの職種役割の理解,協働成果の理解,将来の実現場での協働に対する基本を習得するために,①良好なコミュニケーションをとる,②協働作業のもと,適切な診療計画を立案する,③良好な協働環境のもと,患者診療を実施する,④問題点の解決につながる適切なフィードバックを互いに行う」とした。

D6-OH4連携実習は,患者診療回数が2-3回のみであるものの,実習前の準備教育,実習後の振り返りなどを有機的に結び付けたカリキュラム構成となっている。患者診療は以下の流れにて行った(図1)。

図1

D6-OH4連携実習の実施の流れ。D6,OH4が個々に実習前講義を受講したのちにD6の患者1名をD6とOH4の協働で診療をする診療参加型実習を行った。

1) D6,OH4のペアマッチングと事前打ち合わせ

D6は,候補患者に連携実習への協力に対して同意を得た後に,実習実施が可能な枠が記載されている専用予約簿に記入し,担当可能なOH4学生をマッチングさせてペアを決定した。ペア決定後,コミュニケーションシートにD6学生は患者詳細や依頼したい内容を記載し,一方,OH4はシートに診療前に確認したいことや質問を記載した。また,可能な限り診療日前に直接顔を合わせての打ち合わせを実施することとした。

2) 診療1回目(D6,OH4が同時に診療)

1回目診療は,D6の実習診療室である第1総合診療室1で実施した。チェアータイム60分の中で,D6によるOH4学生の紹介後,OH4による医療面接,O'Learyのプラークコントロールレコード(PCR)9)の記録,口腔保健指導,歯面清掃を行い,各ステップで歯科医師と歯科衛生士のインストラクターによる確認を行った。診療後,次回の診療内容について学生同士で協議するとともに,その後,教員による簡単な診療の振り返りを行い,学生は「平成27-28年度包括臨床実習 D6-OH4連携実習 自己・ピア評価ステップ表」を記入した。

3) 診療2回目(OH4のみが診療)

1回目診療から4-6週後に2回目診療を実施した。2回目診療は,OH4の実習用診療室である第1総合診療室2で実施した。D6は可能であれば診療に同席することとした。チェアータイム90分の中で,OH4による医療面接,PCRの計測,歯科保健指導,スケーリング,歯面清掃を行い,OHインストラクターによる確認と口腔保健学科指導歯科医師(同席していればD6も)による確認を行った。診療後,コミュニケーションシートに2回目診療内容と3回目診療時に確認してほしいことをOH4が記載した。また,参加学生は1回目と同様に「自己・ピア評価ステップ表」の記入をした。

4) 診療3回目(2回目に参加出来なかったD6が診療)

2回目診療に同席できなかったD6は,2回目終了後に患者の予約を取得し,コミュニケーションシートにOH4が記載した2回目診療の診療内容を確認したうえで,患者の口腔状態(PCR変化含む),行動変容に関して確認を行った。その後,コミュニケーションシートへの状態記載,「自己・ピア評価ステップ表」を同様に記入した。

5) 振り返り

実習終了時に連携実習に関するアンケート(D6用:計27問,OH4用:計26問)を含むレポートによる形成的評価をe-ラーニングシステムWebClass TM(日本データパシフィック)を用いて実施した。

6) 連携実習に対する評価

2016年度D6-OH4連携実習に対するD6,OH4学生からの評価は「自己・ピア評価ステップ表」,「終了時レポート課題(D6用),(OH4用)」の回答を匿名データ化して分析した。自己・ピア評価ステップ表の回答の推移を,学科学生ごとにWilcoxonの符号付検定により検定しp=0.05を有意水準とした。なお,本解析は東京医科歯科大学歯学部倫理審査委員会の承認を得て実施した(第1204号)。

結果

実習に協力した患者44名(男性18名,女性26名)の平均年齢は,67.1±9.9歳,平均残存歯数は23.3±5.2本だった。歯周治療状況は,歯周基本治療中が5名,SPT中が38名,その他1名であった。欠損補綴状況は,ブリッジ装着者が18名,有床義歯使用者が16名であった。平均PCRは開始時37.8±20.4%であったが,連携診療後に27.6%±18.8%へ有意な改善を認めた(P<0.05)(図2, 3)。

D6,OH4学生が各診療終了時に実施した自己評価(回収率 D6:100%,OH4:100%)の回答推移のうち,項目1「患者中心の歯科医療を理解し,それを達成するために必要な連携活動をしましたか」,項目3「自分の専門の役割を意識して,行動できましたか」,項目6「連携に関して,自分のリーダーシップ,フォロワーシップを発揮できましたか」は,D6,OH4ともに1回目診療よりも2,3回目診療時において肯定的な割合が有意に増加した。特に項目3について,D6では「目標を超える成果が得られた」と回答した学生が9%から38%へと大きく増加した(図4)。一方,項目5「患者診療するために,連携のあり方を考えながら行動できましたか」では,D6のみ有意に肯定的な割合が増加し,項目2「連携パートナーの専門性や役割を尊重して,行動することができましたか」では,OH4のみ有意に肯定的な割合が増加した。8問すべてにおいてほとんどの学生の実習終了時の評価は「3.おおむね目標を達成している」,「4.目標を超える成果を得られている」と回答されており,学生が学習項目の達成に対して事前の目標以上の成果を得られたと感じていることが示唆された(図4)。

D6がOH4に対して評価したピア評価(回収率D6:100%,OH4:100%)の回答推移を下記に示す。項目5「連携に際して,リーダーシップ,フォロワーシップを発揮していましたか」,項目6「診療計画の策定に対して,十分に協力していましたか」の問には,1回目診療よりも2回目以降の診療時において肯定的な割合が有意に増加した。

実習終了時に実施した連携実習に関する終了時アンケートのレポート課題(回収率D6:100%,OH4:87.5%)の回答を下記に示す。連携に関連する質問として,実習開始前のペア学生との打ち合わせは両学科とも95%の学生が「大変うまくできた」,「比較的うまくできた」と感じ,D6の98%,OH4の95%が連携実習で自分自身の役割を「十分に果たせた」,「まあまあ果たせた」と評価し,また,実習開始前にイメージした「歯科医師と歯科衛生士の協働」と実際にはD6の57%,OH4の55%が「想像と若干違う部分もあった」と回答した(図5)。また,コミニケーションシートを用いた術前ミーティングは協働に効果的であったと95%以上が回答した。「診療で果たすべき業務を果たせたか」という問いにはD6の98%,OH4の95%の学生が果たせたと回答した。実習全体について,D6の95%,OH4の85%が成功と判断した(図5)。

図2

D6-OH4連携実習前後の代表例の口腔内写真。連携実習によるOH4の介入によりプラークコントロールが改善した。

図3

D6-OH4連携実習によるPCRの推移。実習で介入を行った患者のPCRの平均値は統計学的有意に低下をした(n=44)。

図4

自己評価の回答の推移の集計

図5

実習後のアンケート回答の集計

考察

本報告のD6-OH4連携実習は,歯科学生,歯科衛生学生が協働して同一の患者を診療することで,互いの職種役割の理解,協働成果の理解,将来の医療現場での協働に対する基本を習得することを目指して,歯周治療を中心にした連携を課題とした。歯周病には様々な因子が関わっており,その因子の解決のためには歯科領域以外の介入が必要になることがあり,多職種連携が有効である。したがって,質の高い歯周治療を提供するためには,多職種連携について学習をすることが不可欠であろう。その連携の第一歩として,歯科医師から歯科衛生士への歯科保健指導の依頼は,歯科学生と歯科衛生学生が主体性をもって連携をはかりやすい課題と考えて設定した。

診療参加型臨床実習では,診療計画の立案や診断が必要な場面において,学生自身が可能な限りまず自ら臨床的な観点で考察したうえで,指導教員とのディスカッションをすることが望ましい。しかしながら,チェアサイドでの限られた診療時間の中では手技に対する指導・確認に重きが置かれざるを得ないことも多い。しかし,実際の臨床現場において,特に歯科医師には診療時のあらゆる状況において主体性を持ち適切な判断のもとに診療を進めていくことが求められる。本連携実習では,患者診療時の自験手技を平成28年度改訂版歯学教育モデル・コア・カリキュラムの臨床実習の分類Grade I10)に限定することで,学生が通常の実習時よりも,診療に対するマネージメントや連携に対してより意識を向けやすい環境となるよう配慮した。その具体策として,コミュニケーションシートを用いた他学科学生との事前打ち合わせ時に,介入方法の決定などをできる限り学生に主体的に関わらせた上で,診療のマネージメント・患者管理を体験させることによって,カリキュラム立案時にコンセプトの主軸とした「連携のための4つのコアコンピテンシー:①良好なコミュニケーションをとる,②協働作業のもとに適切な診療計画を立案する,③良好な協働環境のもとに患者診療を実施する,④問題点の解決につながる適切なフィードバックを互いに行う」の重要性を体感できるプログラムとなったと考えられる。また,開始前アンケートや診療後の自己・ピア評価を経時的に実施し,終了時レポート課題に取り組むことで,実習を通じてパートナーとの連携をより意識しやすいように工夫をした。それにより,治療計画の立案や介入方法についてOH4学生からも,学年の上下に関わらずD6へ積極的に提案する姿勢が多く認められた。今回の実習中に回答として得られた自己評価,ピア評価,アンケート回答において連携が良好に実施できたことを示すデータが多く認められた。この評価結果は,ほとんどの学生が成功していると判断した結果に反映されていると考えられる。

D6-OH4連携実習では,D6が自身の担当患者約20名の中から,口腔清掃状態(PCR)が不良で,D6学生によるTBIがあまり奏功していない患者を自発的に選択して実習への参加を依頼した。そのため,OH4が口腔清掃に関する専門性を有効に発揮して,問題点の立案,介入方法をD6に提案することができた。このことはD6にとっても,これまで自分が実施した介入ではプラークコントロールの改善・行動変容を認めなかった患者が,OH4の介入によりPCRの改善をはじめとした患者の行動変容を体験でき,歯科衛生士の専門性の高さや,患者に対する視点やアプローチ法の違いから,歯科衛生士と連携する有用性を感じる機会となったと考えられる。患者の平均PCR値は有意に低下しており,学生同士が主体的に連携したことで提示された介入方法により,口腔衛生状態の改善という臨床的な成果が得られたことは臨床参加型実習として成功していると判断できる。

アンケートでの回答でD6,OH4ともに約半数の学生が歯科医師と歯科衛生士の協働について実習前と「想像と若干違う部分があった」という回答をしており,実習前の講義などでは得られない知識や経験が本実習で習得できたと推測でき,診療参加型臨床実習に本実習を組み込むことの意義は大きいと考えられた。歯周病の発症・進行には様々な因子が関わっており,その因子の解決のためには多職種連携が有効であり,歯周病に関わる因子には歯科領域以外の介入が必要になることがある。例として,糖尿病のコントロールについて内科医との協働,歯科治療に影響をおよぼす内科疾患についての医師への対診,禁煙指導における専門外来への診療情報提供などがある。より良い歯周治療を提供するためには,多職種連携について教育を受けることが歯科医師および歯科衛生士には不可欠であろう。

実習のさらなる改善を目指して,2017年度以降ではコミュニケーションシート,終了時アンケート内容の改良,教員アンケートおよび協力患者へのアンケートの実施などを行い,実習効果の解析及び評価を行っている11)。今後は学生への診療前後のブリーフィングによる教員評価の実施など,連携実習の教育効果に対するアセスメントをさらに充実させてゆくことを予定している。また,学生ペアでケースプレゼンテーションを作成することでさらに理解を深めることを促進している。

D6学生にとっては自身の担当患者に対する協働であることや,OH4の指導がプラークコントロールレベルという明瞭な治療アウトカムに直結する歯周病治療を課題対象に選定したことで,協働診療に対するマネージメントに意識を向けやすい環境にすることができた。D6-OH4連携実習は,歯周病患者のプラークコントロールの改善効果があるだけでなく,学生の専門職としての意識が向上し,医療人として今後求められてゆく専門職種間の協働の第一歩となるトレーニングとして非常に有用であった。今後は,歯周病患者に対する連携にとどまらず,他の診療時でも歯科学生と口腔保健学科学生が連携をとりやすいような実習環境についても検討し,歯科における多職種連携のきっかけとなる学生実習を拡大していきたいと考えている。

結論

D6-OH4連携実習は,歯周病患者のプラークコントロールの改善効果があるだけでなく,歯科医師・歯科衛生士の協働の重要性を理解させる教育的効果を有することが示唆された。

謝辞

本実習の実施および本稿の作成にあたりご協力をいただきました,東京医科歯科大学歯学部附属病院第一総合診療室での臨床実習に関わられている教員皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。

本論文の要旨は,第60回春季日本歯周病学会学術大会(2017年5月13日)において発表した。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
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