日本歯周病学会会誌
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教育賞
東京医科歯科大学歯学部歯学科学生の歯周治療臨床実習の改革とその現状―2018年卒業生の実習内容とその実績から―
青木 章竹内 康雄秋月 達也水谷 幸嗣片桐 さやか池田 裕一前川 祥吾渡辺 数基海老原 新秀島 雅之二階堂 徹小田 茂荒木 孝二岩田 隆紀和泉 雄一
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電子付録

2020 年 62 巻 1 号 p. 38-46

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要旨

東京医科歯科大学歯学部歯学科では第5・第6学年時に,歯学部附属病院で包括臨床実習が行われている。包括臨床実習はPhase I~IIIの3部構成となっており,第5学年の9~10月にPhase Iとして各診療科における臨床前外来実習(6週間),11月から翌年第6学年の11月までPhase IIとして第1総合診療室での総合臨床実習と各科外来実習(約47週間),国家試験後の2~3月にPhase IIIとして各科におけるアドバンス選択実習(約5週間)を行っている。Phase IIにおいては,第1総合診療室(学生専用治療室)にて各科の教員の指導の下に,各治療内容についてクレジット制を採用した診療参加(自験)型臨床実習が行われている。歯周治療に関しては,試験ケース(1症例必須),一般ケース,SPT/メインテナンスケースにおいて,歯周精密検査,口腔清掃指導,歯周基本治療,歯周外科治療(介助あるいは見学),メインテナンス/SPT治療などを実習する。2018年卒業の学生51名は,第5~6学年時に,試験ケース患者計51名(1名/学生),一般ケース患者計129名(平均2.5±1.9名/学生),およびSPT/メインテナンス患者計615名(平均12.1±4.0名/学生)を担当し,歯周治療を全般的に実習した。51名の学生は,試験ケースでの術前検査および再評価検査後の2回の口頭試問に合格し,歯周治療臨床実習における必修項目(エッセンシャル・リクワイヤメント)を達成し,臨床実習を全員修了した。臨床実習は,実習後に学生からの評価や意見を受け,それらの要望も一部受け入れつつ,小改変を継続的に行いながら現在に至っている。2018年卒業の学生を例として,本学における歯周治療臨床実習の最新の現状とその改革について報告する。

はじめに

歯学部卒前教育における診療参加(自験)型臨床実習は,学生が指導歯科医師のもとで実際に歯科医療行為を実践し経験できる非常に重要な機会である。

東京医科歯科大学歯学部では,教員の厳密な指導監督のもとで,実際に学生が患者の担当医となり,独立して診療を行う診療参加(自験)型臨床実習のシステムが,1928年の東京高等歯科医学校の開学以来継続して実施されてきている。以前に比べ,新規患者数および治療ケース数はかなり減少してきているが,保存治療・補綴治療全般に関してはほぼすべて自験型実習のまま行われている。また,治療法は進歩し,歯科に対する期待やニーズは日々変わり続けており,求められるものが多くなっているため,実習内容は多岐にわたり,かつ複雑化してきている。

これまで,様々な改変を経て現在のシステムに至っており,毎年,システムや実習内容が見直され,学生の意見も一部受け入れながら継続的な小改革が行われている。本稿では,本学における歯周治療臨床実習の最新の内容と実績を提示するとともに,ここ数年間に実施した改変の内容を報告する。

東京医科歯科大学歯学部歯学科における卒前臨床実習のシステム

東京医科歯科大学歯学部歯学科では第5・第6学年(D5/D6)時に,歯学部附属病院4階の第1総合診療室(学生専用治療室)において包括臨床実習が行われている。

包括臨床実習はPhase I~IIIの3部構成となっており,第5学年(D5)の9~10月にPhase Iとして各診療科における臨床前外来実習(6週間),11月から翌年第6学年(D6)の11月までPhase IIとして,第1総合診療室での総合臨床実習(臨床参加型実習)および各科外来実習(見学/介助)(約47週間),さらに歯科医師国家試験後の2~3月にPhase IIIとして各科/外来におけるアドバンス選択実習(約5週間)を行っている(図1)。

この包括臨床実習は,モジュールコーディネーター1名および副コーディネーター2名により計画立案され,運営されている。毎年,各科の主任指導者が参集する数回の主任指導者会議を経て,システムの改革や各診療科目の実習内容の継続的な改新が行われ現在のシステムに至っている。

図1

卒前包括臨床実習Phase I~III

歯周治療臨床実習の内容と現状

1) 臨床実習の教育指導担当者

Phase IIの総合臨床実習が行なわれている第1総合診療室のユニットは33台で,学生が2人1組で1台ずつ使用している。臨床実習には,原則として各科の助教以上の教員が指導者となっており,毎日,保存系の教員3名と補綴系教員3名の計6名が常駐し,各科の専門的な指導を行っている。

歯周治療に関する教育・指導は,主任指導者1名と外来指導者(インストラクター)5名,補助・連絡担当者2名により運営されている。現在,歯周病学分野では曜日ごとに外来指導者を固定した指導体制を採用している。試験ケース症例では教授診と呼ばれる口頭試問が実施され,これを教授,准教授,講師が担当している。また,手術室での歯周外科治療の際には,歯周病外来から当番制で担当医が出向して手術が行われている。さらに,特任助教,医員,大学院生など多数の医局員が,各インストラクターの補助として,適宜,臨床実習教育に従事している。

2) 歯周治療臨床実習の内容

まず第5学年の9~10月に,臨床前外来実習であるPhase Iを歯学部附属病院の5階歯周病外来にて実施している。2018年度までは4~6名のグループ毎に,教員および医員が2人組でインストラクターとなり,3時間の外来実習を3回実施する体制であったが,2019年度は,日程の短縮化,教育の効率化,および教員の負担軽減のため,約15名のグループ毎に3時間の外来実習を2回実施する体制に移行している。

教育内容は,①オリエンテーション,歯周病検査表の解説,②歯周病検査,口腔清掃指導(TBI),機械的歯面清掃,③超音波スケーリング,スケーラーのシャープニング,スケーリング・ルートプレーニング(SRP),④歯周外科治療の介助/見学(手洗い,器具準備,手術着・手袋着用の実習を含む)となっており,②および③は学生同士で相互実習を行っている。なお,2019年度からは,時間的制約により④歯周外科治療の介助/見学実習が割愛されている。

Phase IIでは,学生専用の診療室にて診療参加型の総合的臨床実習が行われている。書面により患者の同意を得た上で,学生がそれぞれの患者の担当医として,各専門外来の教員の指導の下に治療を行っている。一口腔単位での治療を実践するため,初診時あるいは患者引き継ぎの担当開始時にすべての患者に対して歯周病精密検査が実施され,指導教員のもとで治療計画の立案がなされている。

Phase IIでは各科ごとに実習の必修項目(エッセンシャル・リクワイヤメント)とその必修自験数が決められ,クレジット制の採用により点数化されており,さらに臨床実習(Phase II)の合格には,各科ごとの必須クレジット数および全体での必須クレジット合計数を満たす必要がある(参考資料1)。

歯周治療に関しては,歯周治療およびサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)/メインテナンスを実施する。試験ケースは各学生1症例を必須とし,原則として初診の患者に対し,術前歯周検査,TBI,SRP,再評価検査を実施し,術前検査および歯周基本治療終了時の再評価検査後の2回の教授診(症例説明および口頭試問)を受験し,採点による評価を受ける。

試験ケースの条件としては,初診の歯周炎の症例で,残存歯数が約20歯以上,4 mm以上の歯周ポケットを有する歯が4歯以上のケースであり,初診から基本治療後の再評価までを実習する(再評価後からは一般ケースとして継続する)。これ以外で歯周治療を行う一般ケースは,歯周炎および歯肉炎の症例で,再発症例も含んでいる。

歯周治療臨床実習の合格基準は,各種の治療を実習しながら,試験ケース1例の合格(初診から基本治療後の再評価までの自験,2回の口頭試問を含む),歯周外科治療の介助/見学の実習,試験ケース以外でのSRP/再SRPの自験を必須とし,総クレジット18点以上,のすべての条件を満たすことである(表1,参考資料2)。

Phase IIIのアドバンス選択実習では,歯周外科治療の見学実習や専門的講義を提供し,希望者が選択履修する形となっている。

表1

歯周治療臨床実習の必修項目(エッセンシャル・リクワイアメント)(2016-2017年度)

歯周治療臨床実習の実績

外来での実際の臨床実習(Phase II)の現状および実績として,2018年卒業の学生51名の例を報告する。第5学年の2016年11月~第6学年の2017年11月に,51名の学生が臨床実習を経験した。外来実習の実日数は220日であった。

1) 1年間の歯周治療診療患者の概要(表2

51名の学生が1年間で,試験ケース患者計51名(平均1名/学生),一般ケース患者計129名(平均2.5名/学生),およびSPT/メインテナンス患者計615名(平均12.1名/学生)を診療した。学生1人当たり平均で15.6名の歯周病患者を1年間担当し,歯周治療を実習した。患者年齢は全体平均65.2歳(19~91歳)と高齢者が多く,男女比は男性37.8%,女性62.2%であった。

表2

1年間の歯周治療診療患者の概要

2) 学生全体での1年間の歯周治療の診療コマ数(表3

午前あるいは午後の半日約3時間の診療時間を1コマとした場合,1年間の学生全体での歯周治療の総診療コマ数としては3,756コマであった。その内訳は,試験ケース・一般ケース診療:437コマ,SPT/メインテナンス:3,071コマ,キャンセル:248コマであった。

表3

学生全体での1年間の歯周治療の診療コマ数

3) 学生全体での1日の歯周治療コマ数(表4

平均15.8コマで,その内訳は,試験ケース・一般ケース診療1.6コマ,SPT/メインテナンス13.2コマ,キャンセル1.0コマであった。平均して毎日午前午後合わせて,延べ約16名(最多35名,最少0名)の学生が歯周治療を行っていた。

表4

学生全体での1日の歯周治療コマ数

4) 学生1人当たりの1年間の歯周治療コマ数(表5

総診療コマ数は平均82.5コマで,その内訳は,試験ケース・一般ケース診療17.4コマ,SPT/メインテナンス60.2コマであり(キャンセルは4.9コマ),臨床実習において,学生は多くの時間を使い歯周治療を行っていた。

51名の学生は,試験ケースにおける2回の口頭試問に合格し,歯周治療における臨床実習の合格基準を達成した。歯周治療における学生の平均総クレジット(点数)は平均34.0±11.0点(最大67点,最小19点)であり,多くの学生が必須総クレジット18点を余裕をもってクリアし,臨床実習を全員無事に修了した(表6, 7)。

また,Phase IIIのアドバンス選択実習において,歯周病外来での歯周外科治療の見学実習や,歯周外科治療の動画の供覧を含む専門的講義(治療計画の立案等)を28名の希望者が履修した。

実習終了後のアンケート調査結果(参考資料3)では,例年,「歯周治療の流れのわかる良いシステム」との好評価の一方で,「試験ケースの重症度に差があり不公平」,「システムが複雑」,「試験ケースの患者の確保が困難」などの不満も上がっている。

表5

学生1人当たりの1年間の歯周治療コマ数

表6

学生1人当たりの最終獲得クレジット点数

表7

歯周外科治療介助・見学の内容と症例数

歯周治療臨床実習の改革と対応

臨床実習は,教育内容の多様化,保険制度の改変,患者数減少などの諸条件の変化に対応するため,また,学生の実施した治療についてできるだけ適正な評価を与えるため,モジュールコーディネーターからの提言や学生からの実習終了後のアンケート調査結果(参考資料3)における要望も受け入れ,分野内で協議の上,多くの改変を継続的に行ないながら現在に至っている(参考資料4)。

ここ数年間,昨年度までに実施した改革・改変としては表8(参考資料5~8)に示す通りであり,このような様々な方策を実施し,臨床実習の成果をより正確に評価し,学生のモチベーションを高め,また複雑となったシステムやルールを理解および実施しやすいように対応を行ってきた。

表8

歯周治療臨床実習の改革の内容

まとめと今後の展望

歯学部卒前教育における診療参加型臨床実習は教育効果が高く,歯学教育の最大の特徴である1)。毎年の臨床実習後のアンケート調査において,臨床実習全体に対するコメントとして,学生の達成感や評価が非常に高いことからも,その重要性は論を俟たない。

学生は,実際に患者を担当することにより,患者の検査・診断を経て,治療計画の立案,歯周治療および他科指導教員との治療計画の相談,患者との診療予約と計画的な診療の遂行,適切な器具・器材の準備,実際の診療行為の再勉強・手技および術式の予習・事前練習・復習等を実施することにより,着実に実践力を養うことができる。また,患者の全身疾患に対する理解と必要に応じ内科医への対診・院内他科への相談,同級生への診療補助の依頼と相互協力,各科実習や受付・エックス線撮影担当業務などの各種の当番業務や技工作業のスケジューリングとマネージメント,各科実習での課題レポート作成など,国家試験に備える勉学と並行して,諸々のことをすべて能動的に進めなければならない。さらに,患者・同級生・各科指導者とのコミュニケーションや人間関係についても学びが必要となる。このように歯科医師養成のための総合的な人間力を培う優れた研修機会となっている。

当大学における歯周治療の臨床実習では,初診患者を診る前に,まず,前学年の学生から引き継いだ多数のSPT/メインテナンス患者や一般ケースの引き継ぎ患者において,歯周病検査やTBI,機械的歯面清掃などの基本的手技に習熟することができるようになっている。患者も,教員の堅実な管理指導のもとで,時間は要するが丁寧に確実に治療を行う学生診療のスタイルに満足し,長期にわたり継続して通院していただいており,学生診療の一通りの状況に慣れているため,引き継ぎ当初の学生の診療に不慣れな点があっても大きな問題は生じていない。また,これらの患者において,新たな修復・歯内・補綴治療のケースを開始できる場合もあり,自験ケースの獲得にも役立っている。ただし,引き継ぎ患者が必要以上に増加しつつあり,学生の負担増も懸念され,今後の対策が必要な状況にある。また,歯周病患者全体の平均年齢が65.2歳,最高齢91歳と,患者の高齢化が進んでおり,高齢者に対する診療上の注意も十分に教育し,理解させておく必要があることも明らかとなった。

試験ケース・一般ケースでは,歯周病の重症度の違いにより,SRPの難易度やその治療回数の差,暫間固定,咬合調整,ナイトガードのケースの有無の差があるなど,実習内容に偏りがあるのはやむを得ない点である。また,学生全体の合計クレジットの平均が34点で,必須の最小点数18点の約2倍に達しているという状況で,教育目標値としてはやや低いのではないかという意見も分野内で上がっているが,D5/D6学生は限られた期間内に各科の様々な多数の実習に取り組まなければならないため(参考資料1),患者確保の困難な点も考慮に入れ最低ラインは低めに設定し,意欲や機会のある学生には積極的に治療を進めてもらう方針としている。その結果,最高点は67点に達し,全ての学生が,配当された患者に対してそれぞれ熱心に治療に取り組み,確実に一通りの歯周治療の経験を積むことができている。

一方,近年では,Phase II期間中に包括医療統合教育のひとつとして,学内の他学部や他大学とも協力し,将来,医療現場で働く様々な職種(医師,歯科医師,看護師,臨床検査技師,歯科衛生士,歯科技工士,薬剤師,社会福祉士,介護福祉士)を目指す学生が一同に参加する症例検討実習も実施されている。また,臨床実習の新たな取り組みとして口腔保健学科(歯科衛生士)との共同実習プログラムも新規に導入されるなど2),多職種連携教育にも目が向けられつつある。今後はさらに口腔保健工学科(歯科技工士)との共同実習も必要で,効果的であろうと考えられる。さらに,卒後研修のプログラムとのバランスを取りながら,周術期の治療における臨床実習も加え,口腔健康管理だけではなく,全身へのリスクを考慮した歯周病管理が重要であることを学ぶ機会も必要であると考えている。

診療参加型臨床実習に関しては,本邦で実際に本格的に導入実施している歯科大学は少ないのが現状である。2015-2017年の状況をまとめた歯科医学教育白書2017年版によると,学生診療室中心に実習を行い,必要に応じて他科で実習を行っているのは,全29校のうち5校(17%)と少なく,また,「診療参加(自験)型臨床実習」と「見学実習」との割合で見ると,自験と見学の比が6:4以上の割合で,見学より自験を多く取り入れた臨床実習を実施しているのは28回答校のうち12校であり,8:2の割合では3校にとどまっている3)。この状況は,各大学の様々な事情によるものであるが,欧米の大学において,早期から診療参加型臨床実習を中心として教育する歯学教育とは,実習期間および内容ともに依然として大きな隔たりがある4,5)。歯周治療のケース数で見ると,2007年時の米国ペンシルバニア大学歯学部において歯周治療I(基本治療)が20ケース,II(外科治療)が36ケース,III(修復・補綴治療)が2ケースで,IV(メインテナンス)が36ケースとなっており,本学よりはるかに多い4)。アジア諸国でも多くの自験が課せられている状況であり,日本は臨床実習の面では各国から遅れている4)

これまでの歯学教育改革の政策としては,2001年3月に歯学教育のモデル・コア・カリキュラムが提示され1),臨床実習の改善と充実を図る一連のシステムとして2005年度から共用試験が開始された5,6)。さらに2012年3月の文部科学省先導的大学改革推進委託事業により,診療参加型臨床実習の充実を推進することが求められ5),2016年(平成28年度)のモデル・コア・カリキュラム改訂版において,臨床実習はコンピテンス(competence)べース7)の方向となっている。今後,国際的な水準確保のために更なる充実が求められており,「臨床実習」の章において「臨床実習の内容と分類」が明示された8)。現在,各大学において,診療参加型臨床実習を推進するためにそれぞれ独自の方策が実施されている3)

臨床能力の評価については,各大学において客観的臨床能力試験(OSCE),実技試験,シミュレーション実習試験,口頭試問,論述試験,多肢選択試験,症例発表・報告,レポート,観察記録,ポートフォリオなどの様々な評価法が組み合わされ行われている9)。当大学においては,各診療科が定める必修実習項目の自験数を満たしていることが必須条件で,加えて試験ケースの教授診における口頭試問,臨床実習終了時のOSCEおよび症例発表が課されている。この終了時OSCEは2020年度から共用試験としての正式実施が予定されている1)

今日,臨床実習の内容が多様化・高度化する一方で,一般開業医における歯周治療の普及と向上により,大学病院を受診する患者のうち,学生の臨床実習に適した軽度から中等度の歯周炎の患者が激減し,かつ学生による診療を受け入れていただける患者も少なくなりつつあるため,新患および試験ケースの適切な患者の確保が年々難しくなってきている。いずれの大学でも同じような困難な状況に直面しており,協力患者確保のために,各大学で来院患者への説明および依頼の機会を増やしたり,協力患者を優遇する条件を提供するなど様々な取り組みが行われている3)。当大学では,協力患者への特典として,病院初診患者の予約デスクでの優先予約,病院初診からの迅速な診療開始,私費治療費の減額,会計時の学生患者専用受付の設置,歯学部長と病院長の連名による感謝状の贈呈などの方策が実施されている。

歯学部臨床実習の法的解釈については,2003年6月11日付け文部科学省高等教育局医学教育課長通知「歯科医師卒前臨床実習についての考え方について」より,歯学教育における歯学生の診療参加型臨床実習での歯科医療行為と歯科医師法第17条(歯科医師でない者の歯科医業の禁止)との関係について,「患者の同意の下で,歯科医師としての資質向上を目的として卒前教育の一環として行われるものであり,侵襲性が相対的に小さいことや指導医の指導・監督の下に行われることなど,適正な体制の下に相当な手段で実施される場合には,社会通念から見て相当であり,歯科医師法上の違法性は阻却されるものと考えられる」と説明されている8)。それに伴い,臨床実習を行う学生の資格としては,共用試験[コンピュータを用いた客観試験(Computer Based Testing:CBT)及び客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination:OSCE)]の合格が課されている6)。また,倫理面での配慮から,患者からの同意取得については全校で実施されている9)

国立大学の法人化に伴う昨今の教員の人員削減などにより,現在,当分野の助教はこの10年で半減し,臨床実習教育における教員の負担が大きくなっている。さらに当大学において,今後予定されている新カリキュラムへの移行と数年に亘る院内診療室の再編成・再整備が進行する中で,本実習制度を維持することが年々困難になってきている。しかしながら,学生に,卒後研修との連続性・整合性の取れた良質の卒前臨床教育を提供するためには,今後も状況に応じた改変を継続的に積み重ねながら諸問題に対応し,この優れた臨床実習のシステムを維持発展させていくことが必要であり,重要と考えている。

謝辞

東京医科歯科大学歯学部附属病院第1総合診療室での歯学部歯学科学生の歯周病臨床実習にご協力をいただきました歯周病学分野の現医局員およびOBの先生方,他分野指導教員の先生方にこの場を借りて御礼申し上げます。また,論文作成ならびにデータ集計にご尽力をいただきました当分野のWalter H. Meinzer,II先生,北村真衣先生,河田絢子先生に感謝を申し上げます。

歯学部学生臨床実習は,モジュールコーディネーター:荒木孝二教授および副コーディネーター:海老原 新助教,秀島雅之講師[旧担当:二階堂 徹講師(在籍当時),小田 茂准教授(在籍当時)]により運営されている。歯周治療臨床実習では,教授診を和泉雄一前主任教授(2018年3月まで),岩田隆紀主任教授,青木 章教授,竹内康雄・秋月達也講師が担当し,外来指導者として青木 章教授(2017年4月まで外来指導者,2019年1月まで主任指導者)・竹内康雄(現主任指導者)・秋月達也講師,水谷幸嗣・片桐さやか・池田裕一助教,実習補助・連絡担当者として前川祥吾特任助教,渡辺数基大学院生(2018年11月まで),根本昴大学院生(現担当)の体制で行われてきている。

本論文の要旨は,第61回春季日本歯周病学会学術大会(2018年6月1日,東京)において発表した。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
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